BMW ALPINA B3 | 速く走ろうと思えば滅法速いが下品ではない。さりげなさ、奥ゆかしさがアルピナの美点だ

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G20型現行BMW3シリーズをベースにしたアルピナモデルがBMW ALPINA B3だ。エンジンは、S58型3.0ℓ直6ツインターボ(ビターボ)。アルピナ独自の技術が詰まったB3にジャーナリスト、世良耕太が試乗した。 PHOTO◎ニコル・オートモビルズ

アルピナの歴史は、1962年にブルカルト・ボーフェンジーペン(Burkard Bovensiepen)がBMW 1500の4気筒エンジンに手を加え、パフォーマンスを向上させたことに始まる。具体的には、標準装着だったソレックス製のシングルキャブレターを、ウェバー製のツインキャブレターに換装したのだ。

そのツインキャブレターは、赤と青が印象的なアルピナのエンブレムの左半分を占めている。右側はクランクシャフトで、エンジンチューナーとしてスタートしたアルピナの出自を物語っている。会社の設立は1965年。ブルカルトの父が経営していた事務機器生産工場ではアルピナ(Alpina)ブランドのタイプライターを製造しており、その名称を受け継いだ格好だ。ブランド名は、創業地であり本社工場があるドイツ・バイエルン州のブッフローエ(Buchloe)から望むアルプスに由来するという。

アルピナはモータースポーツとも縁が深い。デレック・ベル、ジェームス・ハント、ジャッキー・イクス、ニキ・ラウダ、ハンス・シュトックらがアルピナのステアリングを握り、サーキットを駆け巡った。

しかし、エンジンチューナーからコンプリートカー・メーカーに変容したアルピナのイメージはサーキットとは縁遠く、エレガントであり、ジェントルだ。卓越したパフォーマンスをこれ見よがしに見せつけるような処理や細工はあえて避けているように感じる。アルピナといえば、ボディサイドを走る細いストライプと、20本スポークのホイールが定番だ。現在のアルピナは年間約1700台を生産する小規模自動車メーカーであり、ベース車は一貫してBMWである。

創設者ブルカルトの長男、アンドレアス・ボーフェンジーペンCEOが率いる現在のアルピナの最新モデルがB3だ。2019年のIAA(フランクフルト・モーターショー)でツーリング(ステーションワゴン)を、同年の東京モーターショーでリムジン(セダン)を世界初公開した。日本へは、アルピナ社日本総代理店のニコル・オートモビルズを通じて上陸を果たしたばかりだ。同社が展開するアルピナのショールームに加え、BMW正規ディーラーでも購入(および整備)することができる。

アルピナB3を極めて簡潔に説明すると、最新のBMW3シリーズ(G20型)がベースだ。エンジンはMモデル向けに開発されたS58型の3.0ℓ直6ツインターボを搭載する。2021年春にも日本に導入される新しいM3/M4にも搭載されるユニットだ。このうち高性能版のM4コンペティションが搭載するS58は、375kW(510ps)の最高出力と、650Nmの最大トルクを発生する。

いっぽう、B3が搭載するS58は、340kW(462ps)の最高出力と、700Nmの最大トルクを発生する。ターボチャージャーは専用で、インタークーラーは大容量タイプに換装されている。最高出力を追わずトルクを重視したところに、アルピナのスタンスが表れている。レースに例えれば、狙っているのは「スプリント」ではなく、「エンデュランス」なのだ。コーナーのひとつやふたつ、あるいはサーキット1周のタイムを削るようなパフォーマンスを狙うのではなく、500kmや1000km、いや、24時間高速巡航しても疲れないパフォーマンスを狙っているのである。

最高「到達」速度ではなく、「巡航」最高速度は303km/hだ。通常、この速度域での巡航を視野に入れたクルマは負圧の発生による浮き上がりを防止するためにガラスサンルーフの採用を見合わせるものだが、B3には設定(オプション)がある。ルーフ開口部の前端に超高速域でこそ真価を発揮する浮き上がり防止狙いのスポイラーがついており、さりげなく高性能をアピールしている。

トランスミッションはZF製の8速AT(8HP76)を組み合わせる。吊しではなく、アルピナ専用に強化しているという。ブレーキはBMW740i譲りのフロント4ピストンキャリパー+395mm径ディスク、リヤはフローティングキャリパーと345mm径ディスクの組み合わせだ。ダンパーはBMW3 M340iとハードウェア的には同じ諸元。ただし、制御は専用。コイルスプリングとアンチロールバーもB3専用である。そして、BMW風にいえば、xDrive(4WD)だ。

ホイールは19インチが標準(タイヤは前255/35R19、後265/35R19)で、この場合5×4(で20本)の星形スポークのデザインとなる。オプションの20インチ(タイヤは前255/30R20、後265/30R20)は伝統の20本スポークだ。先に乗り味の印象をお伝えしておくと、20インチのほうが好印象だった。19インチアルミは鋳造だが、20インチアルミは鍛造で、4本合わせて19インチ比で13.7kg軽量だという。タイヤハイト減によるネガティブな動きよりも、軽さがもたらすポジティブな面が勝るのだろう。吸いつくといったら大げさかもしれないが、20インチは路面をなめるように追従する様が印象的だった。

6気筒ターボエンジンが奏でる排気サウンドは、あくまでジェントルだ。耳元でがなり立てるような音ではなく、遠くで奏でられている音楽を聴くようだ。高性能を身近に感じつつも邪魔にならない、適度な距離感がいい。ドライビングモードをスポーツに切り換えると排気サウンドはワイルドになるが、それでも一定の距離は保ったままだ。決して荒々しく耳に飛び込んではこず、忠実な執事のように半歩下がっていい音を鳴らす。

だから、疲れない。スポーツモードへは、ロングドライブの途中で気分転換のために切り換えるのがいいかもしれない。クルマの動きもあくまでジェントルだ。脚が固められているのは事実だが、内臓に響くような強いショックを出さないように仕立てられている。これは、3シリーズの車体骨格がしっかりしているのがベースにあり、その素性の良さを熟知したうえでチューニングしたからだろう。操舵に対するクルマの動きはクイックにすぎず、鈍くもなく、やはりジェントルで気持ちがいい。

エンジンは確かに力がある。アクセルペダルの踏み込みに対する反応が良く、どんな状況でも即座に力が出て加速してくれる。速く走ろうと思えば滅法速いが、首が後ろにガクンと倒れるような強烈な(そして下品な)加速ではなく、適度に強めで息の長い加速を提供してくれる。今回の試乗では経験できなかったが、高速巡航を続けながらのロングドライブではこのうえなく快適だろうと思わせるフィーリングだった。

アルピナB3は視覚の面でも、フィーリングの面でも、高性能であることをこれ見よがしにひけらかさないのがいい。さりげなさ、奥ゆかしさが美点だ。

BMW ALPINA B3 Limousine Allrad(AWD)

全長×全幅×全高:4719mm×1827mm×1440mm

ホイールベース:2851mm

車重:1860kg

駆動方式:4WD

エンジン

形式:3.0ℓ直列6気筒DOHCターボ

型式:S58

排気量:2993cc

ボア×ストローク:84.0×90.0mm

圧縮比:10.3

最高出力:462ps(340kW)/55000-7000pm

最大トルク:700Nm/2500-4500rpm

燃料供給:DI

燃料:無鉛プレミアム

燃料タンク:59ℓ

トランスミッション:8速AT(ZF8HP76)

車両本体価格:1229万円

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