「あなたしかできない」と言われる。頼りにされているはずなのに、給料は上がらず、感謝の言葉だけが増えていく。そんな状態に疲れているなら、まず知っておきたいことがあります。それは、「あなたしかできない」ことと「会社がその仕事を評価している」ことは、同じではないという点です。
ここで扱うのは、古い設備を一人で直してきた中堅社員の物語です。フィクションですが、現実の職場にも似た構図があります。物語が描いた説明と、そこから考えられる記事としての解釈を分けながら、なぜ「頼られる人」ほど報われにくいのかを整理します。
「あなたしかできない」が評価につながらない理由
物語の主人公は、30年前に導入された設備を、ほぼ一人で修理していました。壊れるたびに呼ばれ、何とか動かす。周囲は「君しかいない」と言う。けれど、給料は上がらない。ここには、職場でよく起きる三つのズレがあります。
1. 属人化した仕事は「会社の資産」に見えにくい
属人化とは、特定の人しかできない状態です。外から見ると、その人がいないと回らないように見えます。しかし評価する側は、それを「会社の仕組み」ではなく「その人の担当」と受け取ることがあります。修理がうまくいった日は、設備が止まらなかっただけになります。緊急対応は、起きてしまえば「当たり前」になりやすいのです。
2. 評価制度が「売上」や「新規」に偏っている
点検や修理、引き継ぎ、後輩の育成は、売上に直接見えにくい仕事です。物語でも、主人公は「感謝の言葉だけで飯は食えない」と感じていました。感謝は気持ちですが、給与や条件とは別のものです。ここを混ぜたままにすると、我慢だけが長引きます。
3. 中堅が薄い職場では、頼られることが固定化する
物語では、就職氷河期に採用を絞った結果、50代のベテランと20代の若手の間がほぼ一人、という世代の偏りが描かれていました。採用を抑えた時代の空白は、何十年もたってから「中堅がいない」という形で現場に現れます。これは個人の能力の問題ではなく、会社が先送りしてきた構造の問題です。新卒採用の条件が良くなっても、その恩恵はこれから入る人に向かうもので、かつて採用を絞られた世代に自動で回ってくるわけではありません。
古い設備と人の不足は、別々の問題ではない
製造業の設備老朽化をめぐっては、10年以上経過した生産設備が約6割、20年以上が3台に1台という調査結果や、保全部門の人材不足が業務に影響していると約7割が回答した調査があります。数字の詳細は調査によって異なりますが、共通しているのは、設備の老朽化と人材の不在は同時に進みやすいという点です。
新しい設備を買う、人を育てる、引き継ぎの時間を確保する。どれも目先のコストがかかります。先延ばしにすると、現場では「今いる人」が穴を埋めることになります。物語の終盤で、主人公が「機械も自分も、壊れるまで放っておかれた」と感じたのは、この構造を一身に背負っていたからでしょう。ここからは記事としての解釈ですが、会社が放置してきたものを、一人の善意で支え続けるには限界があります。
「頼られる人」が自分を守るためにできること
もちろん、すべての職場が同じではありません。評価してくれる職場もあれば、交渉で条件が変わる場合もあります。ただ、感謝だけで済まされ続けているなら、次のような動きを試す余地があります。
仕事を「見える数字」に置き換える
修理にかかった時間、設備が止まった回数、納期への影響、引き継ぎ資料の作成時間を記録します。自分しかできない作業を「すごいこと」としてではなく、「止まるとこれだけ困る仕事」として示すのです。評価面談では、売上そのものではなく、停止リスクや納期遅延を防いでいる点を説明する方法があります。
感謝ではなく条件として伝える
「大変だから何とかして」と言われたら、「続けるために、引き継ぎの時間と手当てが必要」と条件を言葉にします。感情的な不満ではなく、業務を続けるための具体的な条件として伝えるのがポイントです。手順書づくりや後輩への指導も、評価項目に入れてもらえないか相談してみてください。
属人化をほどく方向に動く
自分しかできない状態を守ることが、自分の価値を守ることにはなりません。むしろ、手順を残し、後輩に渡せる形にすることで、会社にとっての資産になります。ただし、引き継ぎは負担になりやすい仕事です。時間と役割を明確にしたうえで進めます。
交渉が難しい場合
小さな事業所で経営者しか交渉相手がいない、パワハラが強くて話し合いにならない、健康を削っている。そんな場合は、一人で交渉を抱え込まないでください。労働組合や人事、外部の相談窓口を頼る選択肢があります。転職を考えることも、逃げではなく現実的な判断です。
まとめ
「あなたしかできない」のに評価されないのは、あなたに力がないからではありません。仕事が属人化し、評価制度から見えにくく、会社が人と設備への投資を先送りしてきた結果であることがあります。だからこそ、我慢を美徳にせず、仕事を見える形にし、条件として伝えることが必要です。それでも変わらないなら、その職場に自分の時間を置き続けるかどうかを、改めて考えてもいいのだと思います。