「大丈夫」と言い続けてしまう人の疲れ
週末に十分休んだはずなのに、月曜の朝が鉛のように重い。八時間眠ったのに、目を開けた瞬間から疲れている。そんな状態が何ヶ月も続いているなら、それは単なる寝不足でも、気合いが足りないのでもありません。
うつ病と診断されるほどではないけれど、決して「大丈夫」とも言えない。この中間の状態は、長く名前をつけられないまま見落とされてきました。ここでは、その疲れを「脳を動かす燃料と部品の話」として整理する見方を紹介します。診断の代わりにはなりませんが、自分に何が起きているのかを考える手がかりにはなります。
なぜ自分では気づけないのか
体調の変化は、毎日少しずつ進みます。昨日より少しだけ調子が悪くても、比べる基準が昨日なので、変化そのものに気づきにくいのです。
たとえるなら、ゆっくり高度を下げている飛行機に乗っているようなものです。まだ空を飛んでいるから大丈夫、と自分に言い聞かせているうちに、高度はどんどん下がっていきます。「仕事に行けている」「ご飯は食べられている」という事実が、かえって危険信号を覆い隠してしまうことがあります。
家族や周囲も気づきにくい
毎日顔を合わせている人ほど、変化を見落としやすいという指摘もあります。昨日は外出していた、食事はとれていた。そうした「まだできている部分」に目が向きやすいからです。
これは愛情が足りないからではありません。近すぎる関係では、ゆっくり進む変化を捉えるのが難しいというだけのことです。
医療機関でも見落とされやすい
うつに関連する症状で最初に病院を訪れる人の多くが、精神科ではなく内科を受診するというデータが挙げられることがあります。頭痛、胃の不調、動悸といった体の症状が先に出るためです。
検査で異常が見つからず、「風邪気味ですね、ゆっくり休んでください」と薬を受け取って帰る。それを何度か繰り返すうちに、時間だけが過ぎていきます。体の症状が先に出ること自体は珍しくありません。問題は、そこで話が終わってしまうことだ、という見方です。
ブレーキ・アクセル・エンジンというたとえ
この状態を理解するために、脳の働きを自動車にたとえる説明があります。重要なのは、部品が壊れたのではなく、部品を動かす燃料が尽きかけているという捉え方です。実際の脳の仕組みはこれよりずっと複雑で、これはあくまで整理のためのたとえだと考えるほうが安全です。
ブレーキにあたるセロトニン
「もう休もう」と体に合図を送る役割です。この働きが弱くなると、体はへとへとなのに頭が止まらなくなります。ベッドに入っても仕事のことが頭を巡り、休んだ気がしない。いわゆる「偽りの休息」に陥ります。
アクセルにあたるノルアドレナリン
体を動かす推進力にあたるものです。不調になると、踏んでも進まない無気力、止まり方を忘れた焦り、空回りするイライラという形で現れます。気持ちだけが焦るのに体が動かないのは、怠けているからではありません。
エンジンにあたるドパミン
「面白そう」「楽しみだ」というワクワクを作る部分です。ここが最初に止まるとされます。好きだった映画が退屈になり、友人に会うのも面倒になる。世界が白黒になったように感じるのは、性格が変わったからではなく、楽しさを生み出す働きが一時的に弱っているためだ、という説明です。
止まっているのは部品ではなく燃料かもしれない
三つが同時にうまく働かなくなる理由は、シンプルに燃料不足だと考えられます。脳を動かす燃料は、睡眠と食事です。
食事から入ったタンパク質が材料になり、眠っている間に脳がその材料を使って必要な働きを整える。そうした流れが紹介されることがあります。燃料タンクが空なのに無理にエンジンをかけようとすれば、かえって負担が大きくなります。卵、豆腐、バナナ、ナッツ類といった食材の名前が挙げられることもありますが、大切なのは特定の食品を探すことではなく、材料と休む時間の両方を確保することです。
睡眠についても、日本人の平均睡眠時間が国際的に見て短いという統計が示されることがあります。慢性的な睡眠不足がうつのリスクを高めるという報告もあり、これは気分の問題ではなく、体の土台の問題として捉えたほうがよさそうです。
回復には順番があると言われる
この考え方では、回復の順番は「燃料、ブレーキ、アクセル、エンジン」とされます。順番を飛ばすとうまくいかない、というのが要点です。
体がしんどいのに、いきなり旅行や慣れない運動、刺激の強い趣味でエンジンをかけようとすると、かえって消耗します。まず燃料を満たし、休める体に戻していく。地味ですが、順序を守ることに意味があるという説明です。
回復の初期が最も危険という指摘
燃料が少し戻り、体を動かす力が出てきたのに、楽しさの感情はまだ戻っていない。この時期が最も注意を要するとされます。
心は空っぽなのに体だけが動くので、無理をすると予想外の方向に進んでしまうことがあります。だからこそ、焦らないでほしいというメッセージになります。まずは二週間、睡眠と食事だけに集中する。それだけで十分だという考え方です。
今日からできる、現実的なこと
- 就寝時刻と起床時刻を、平日と休日であまり変えない。
- 一日のどこかで、タンパク質を含む食事を一品足す。
- 「大丈夫」と言いたくなったとき、その言葉を一度飲み込み、体の感覚を確かめる。
- 体の不調が続くなら、内科でも精神科でも、まず一度専門家に話してみる。
どれも特別なことではありません。ただし、効果を約束するものではなく、合う合わないには個人差があります。全部やろうとすると、それ自体が負担になります。ひとつだけ選ぶのでも構いません。
当てはまらない場合もある
同じ「疲れ」でも、原因は人によって異なります。貧血や甲状腺の病気、睡眠時無呼吸など、体の病気が背景にあることもあります。だからこそ、自己判断で「これだ」と決めつけず、気になる症状が続くときは医療機関に相談してください。
また、ここで紹介した考え方は、状態を理解するための枠組みのひとつです。診断や治療の代わりにはなりません。つらさが強いとき、日常生活を保つのが難しいときは、早めに専門家の力を借りることが現実的な選択です。
まず燃料を満たすところから
休んでも疲れが取れないのは、意志の弱さでも、性格が変わったのでもありません。燃料が足りず、脳の調整機能が働きにくくなっている、という見方があります。まずは順番を意識して、燃料を満たすところから。焦らずに、というのがこの考え方の結論です。