恋愛感情や性的な関係を前提にしない「友情結婚」を選び、子どもを育てている夫婦がいます。結婚の形が多様になるなかで、周囲の期待と自分の望む生活をどう折り合いをつけるのか。実際に友情結婚を選んだ夫婦の生活と、その背景にある選択の理由を整理しながら、自分に合う関係の条件を考えます。
友情結婚とは何か、恋愛結婚と何が違うのか
友情結婚とは、互いに恋愛感情を持たないと合意した上で法的な婚姻関係を結ぶことです。性的関係を持たない場合が多いですが、必ずしも一律ではありません。偽装結婚と違い、婚姻の意思は双方にあり、生活を共にするパートナーとしての合意があります。
ある夫婦の例では、2021年に結婚し、2023年にシリンジ法で子どもを授かりました。寝室も財布も別々で、スケジュールは共有するものの、誰と何をするかは詮索しません。体が触れないよう二人掛けのソファも一人ずつ使う一方、外食や友人との時間は家族で過ごしています。
友情結婚を選ぶ背景には、それぞれの事情がある
妻側は、中学生の頃に同性への恋愛感情を自覚しました。性的接触は深く知り合った同性としか望まないため、異性との恋愛結婚は現実的ではありませんでした。親からは結婚や出産を急かされ続けていたといいます。
夫側は、恋愛対象は女性ですが性的欲求は男性に向くため、女性と交際しても性的関係になれず別れることが続きました。一人で過ごすことを好み結婚を考えていなかったものの、父親から「孫の顔が見たい」と言われたことが選択のきっかけになったとされています。
共通するのは、親からの圧力と「結婚して一人前」という社会の規範です。恋愛結婚が合わない人にとって、友情結婚は生活の安定や家族形成の手段になり得ます。
生活のルールは「干渉しすぎない」こと
この夫婦の工夫は、寝室と財布を分け、スケジュールの共有にとどめて行動内容を問わないことです。体の接触を避けるのも、互いの境界を守るための合意といえます。家事や育児は共同で行い、家族としての時間も持っています。
体が触れることを過度に避ける様子を不自然に感じる見方もあるかもしれません。しかし、本人たちが合意している以上、外部が異常と決めつける必要はありません。過去のトラウマを推測するのは慎重であるべきです。
親や周囲にどう伝えるか——選択肢と限界
この夫婦は親に友情結婚であることを伝えていません。伝えるかどうかは家庭ごとに判断が分かれます。
伝える場合の例として、仮に「私たちは恋愛関係ではないけれど、生活を共にするパートナーとして結婚しました」と事実を伝える方法があります。相手の理解が得られない場合は、距離を置くことも選択肢です。
伝えない場合は、親族の行事や子育ての場面で恋愛結婚を前提にした質問をされることがあります。その都度「私たちの形です」と繰り返す必要が出てくるかもしれません。カミングアウトが人間関係や仕事に影響する可能性があるなら、無理に公表しないことも現実的な判断です。
友情結婚を選ぶ人の背景にある社会の圧力
取材記事で紹介された相談所のデータでは、10年間で324組が成立し、入会者の男性の約8割は性的指向が男性、女性の9割以上は他者に性的に惹かれないと回答したそうです。ただし、これは一つの相談所の傾向で、すべての人に当てはまるわけではありません。
専門家の指摘として、日本では同性婚が法制化されておらず、結婚と出産が「一人前」の条件とされる風潮が根強いという見方があります。その中で、友情結婚は社会保障や周囲の承認を得るための現実的な手段になり得ます。一方で、好きな人と結婚できない社会の制約が背景にあるなら、個人の選択だけの問題ではないともいえます。
自分に合う関係を考えるときの判断材料
恋愛感情や性的関係がなくても、生活を共にする合意があれば結婚は成立します。ただし、互いの期待のすり合わせが欠かせません。子どもを持つか、同居か別居か、家計はどうするか、親に伝えるか、体の接触の範囲など、事前に話し合う項目をリスト化するとよいでしょう。
- 恋愛感情や性的関係を求めるかどうか
- 子どもを持つ希望と方法
- 同居・別居、家計の分け方
- 親や友人への説明の有無
- 体の接触やスキンシップの範囲
合わない条件としては、どちらかが恋愛感情や性的関係を求めている場合、友情結婚は長続きしにくいです。また、親の圧力だけで選ぶと、後から自分の望みとずれる可能性があります。相談所を利用する場合も、一つの情報源として複数の選択肢を比較することが大切です。
恋愛も性関係もない結婚は、一見すると特殊に見えますが、本人たちの合意と生活の工夫があれば一つの家族の形として成り立ちます。周囲の「普通」に合わせるより、自分がどんな関係なら無理なく暮らせるかを考えることが、長い目で見たときの負担を減らします。ただし、社会の圧力が選択の理由になっている場合、その圧力自体を問い直す視点も必要です。