夜、布団の中でSNSを開くと、同年代の友人の結婚報告や、楽しそうな休日の写真が流れてくる。誰かから直接「結婚しろ」「もっと稼げ」と言われたわけではない。それなのに、自分だけが置いていかれているような、誰かに責められているような気持ちになる。この感覚は、現代の若い世代に広がる心の疲れと深くつながっている。
日本生産性本部の企業調査では、心の病が最も多い年代として10代・20代が最多という結果が出ている。以前は30代が多かったが、2023年以降この傾向が続いている。若者が弱くなったからではなく、若者を取り巻く環境が厳しくなっていると考えるほうが実態に近い。
職場で「頑張るほど損をする」と感じたときの選び方
たとえば、職場で子育て中の同僚の仕事を追加で引き受けたり、自分の仕事を早く終わらせたら追加の仕事を振られたりする。給料が上がるわけでもなく、ただ負担だけが増える。こうした場面で「働いたら負け」と感じるのは、怠けではなく合理的な判断かもしれない。
対応の選択肢はいくつかある。仮の例として、上司から急な仕事を頼まれたとき、次のように伝える方法がある。
- 「今日は定時で帰る予定です。明日の午前中なら対応できます」
- 「今抱えている仕事が終わってからでよければ引き受けます」
- 「この仕事の優先度を教えてもらえますか。他を後回しにしていいか確認したいです」
これらは相手を責めずに、自分の限界と条件を示す言い方だ。ただし、上司との関係や職場の安全面によっては、直接言いにくい場合もある。無理に一人で抱えず、信頼できる同僚や先輩に相談する、記録を残す、場合によっては転職や外部の支援を検討することも現実的な選択肢になる。
SNSの比較が「言われていない言葉」を生む
「結婚しろ、結婚しろってみんな言うけど、よく考えたら誰も私に結婚しろなんて言っていなかった」という投稿がある。この感覚は、SNSで幸せそうな誰かを見るたびに、自分が「結婚していないこと」を責められているように感じる状態を表している。
SNSの特徴は、投稿者それぞれが別の長所を見せている点にある。Aさんは容姿、Bさんは収入、Cさんは恋愛、Dさんは才能。それぞれは別人なのに、見ている自分は一人だから、「あれもない、これもない」と全部自分に足りないように感じてしまう。誰一人として全部を持っているわけではないのに、自分だけが全部欠けているように錯覚する。
この仕組みを知ると、比較の苦しさを少し和らげられる。投稿者は自慢しているわけではなく、ただ自分の日常を切り取っているだけかもしれない。それでも受け手には「お前はそれを持っていない」という圧力に変わる。だから、見る時間やアカウントを自分で調整することが有効な場合がある。全員をフォロー解除する必要はなく、夜寝る前だけ見ない、特定のアカウントをミュートする、といった小さな変更でも刺激は減る。
「持っていないもの」より「大切にしたいもの」を数える
年齢を重ねると「どっちでもいい」と思えることが増える。それは、大切なものが明確になるからだ。大切なものがあるから、それ以外はどうでもよくなる。逆に、何を大切にしたいかが曖昧なままだと、他人の持っているものがすべて気になってしまう。
自分が人生で何を大切にしたいかを考えるとき、「後悔しないために」という軸を置く方法がある。これは一つの例で、全員に合うとは限らない。AIに質問して自分の軸を整理するのも手段の一つだが、AIの答えが正解というわけではない。あくまで考えるきっかけとして使うのがよい。
たとえば、次のような問いを自分に投げてみる。
- 休みの日に何をしているとき、時間を忘れるか
- 誰とどんな時間を過ごすと、心が落ち着くか
- お金や時間をかけても惜しくないと思えることは何か
答えが一つに絞れなくても、いくつか候補が出てくるだけで、他人の投稿への反応は変わってくる。結婚していないこと、車を持っていないこと、年収が高くないこと。それらは「持っていないもの」ではあるが、自分が大切にしたいものと関係なければ、少しずつ気にならなくなる。
環境の問題を個人の心構えだけで解決しない
ただし、若者の心の病の背景には、税金や社会保険料の負担、職場の「働いたら損」という構造、SNSによる過剰な比較など、個人の努力だけでは変えられない要素が大きい。心の持ち方を変えるだけで解決しようとすると、かえって自分を責めることになる。
職場の構造が変わらないなら、無理に適応するより距離を取る、支援を求める、環境を変えるといった選択も必要になる。SNSを断つことが合わない人もいる。自分に合う範囲で、刺激を減らす方法を探すのが現実的だ。
誰も結婚しろと言っていないのに責められている気がする。その感覚は、あなたの弱さではなく、環境から来る圧力の表れかもしれない。持っていないものを数えるのをやめて、自分が大切にしたいものを一つずつ確認していく。その作業が、夜のSNSを見る手を少し軽くする。