ある日、上司から「AI導入で事務業務が減るため、秋から営業部に移ってもらう前提で考えてほしい」と言われたら、どう答えるでしょうか。突然の打診に戸惑うのは自然なことです。ただ、その場で「無理です」と断るのも、「やります」と即答するのも、情報が足りないままの判断になりがちです。
まずは返事を急がず、条件を確認するところから始めるのが現実的です。
配置転換の打診を受けたときに確認したいこと
異動の話が出た段階では、会社側も詳細を決めきっていないことがあります。次の点を確認すると、判断材料が増えます。
- 異動の時期と、現在の業務の引き継ぎ期間
- 新しい業務の具体的な内容、目標、評価のされ方
- 研修やOJTなど、未経験の業務を学ぶ機会があるか
- 給与、勤務地、残業時間、在宅勤務の可否などの条件変化
- 異動後に一定期間、元の業務へ戻る可能性があるか
その場では「持ち帰って考えます。条件を整理した資料をいただけますか」と伝えるだけでも十分です。返答を急かされても、結論を保留にすることは不当なことではありません。
同僚や上司との会話で使いやすい言い方
仮の例として、同僚から「営業に回されるの、不安じゃない?」と聞かれた場面を考えます。このとき「まだ何も分からないから不安しかない」とだけ答えると、噂や憶測に巻き込まれやすくなります。たとえば次のように返すと、自分のペースを保ちやすくなります。
「不安はあるけど、まずは説明会で業務内容と評価の基準を聞いてから考えようと思ってる」
上司に希望を伝える場合も、否定から入るより、確認したい点を先に出す方が話が進みます。
「営業未経験なので、最初の半年はどんな業務から始めるのか教えてもらえますか」
これは仮の例です。相手との関係や社内の雰囲気に合わせて、言いやすい形に変えて構いません。
いま何が起きているのか
報道によると、みずほフィナンシャルグループは、全国に約1万5000人いる事務職員のうち、口座開設や送金手続きの書類登録、顧客登録などを担う約5000人を、今後10年間で営業職などに配置転換する方針を発表しました。日本では解雇規制があるため、会社はすぐに解雇せず、配置転換という形をとることが多いとされています。
海外でも、Amazonが人事や経理などの管理部門で約1万4000人規模の削減を発表したと報じられています。オーストラリアの企業でも2000人規模の人員削減が伝えられました。AIによる業務の置き換えは、一部の企業や国だけの話ではなくなっています。
ただし、これは「事務職がすべてなくなる」という意味ではありません。対象になる業務や時期は会社によって異なり、法制度や労働組合の力も国によって違います。今の職場で何が対象になっているかを、自分で確認することが大切です。
配置転換をどう判断するか
営業職に回されること自体が、必ずしも悪い選択とは限りません。未経験の業務でも、研修やサポートがあれば続けられる場合があります。一方で、人と長時間話す業務が体調に合わない、通勤時間が大幅に増える、家庭の介護と両立できないといった具体的な支障がある場合は、我慢する前に相談先を探す必要があります。
確認したいのは、異動後の業務が一時的な応援なのか恒久的な配置なのかです。会社によっては、試用期間を設けている場合もあります。まずは人事や上司に、評価の基準と異動後のキャリアパスを文書で確認してみてください。
営業が合わないと感じるのは、能力の問題ではなく、業務内容や働き方の好みの問題かもしれません。その感覚を無視せず、しかし「向いていない」と決めつける前に、小さな業務から試す機会があるか尋ねるのも一つの方法です。
長い目で見た働き方の選択肢
AIによって事務作業の一部が置き換わる流れが続くなら、一つの会社や一つの職種にだけ依存しない働き方を考えておく余地はあります。将来、複数の仕事やプロジェクトを掛け持つスタイルが広がる可能性はありますが、今すぐ副業を始めなければならないわけではありません。
副業を考える場合も、高額な教材や講座に急いで申し込む必要はありません。公開の場で実績を示している人に質問する、無料で試せる範囲で小さく始める、自分の名前やペンネームで発信を続けるといった方法があります。大事なのは、焦って大きな投資をすることではなく、続けられる範囲で情報を集めることです。
また、仕事が減ることと、これまでの経験や知識が無意味になることは同じではありません。ただ、その知識を新しい業務でどう使うかは、会社の説明を待つだけでは見えにくい面もあります。自分から「これまでの事務経験を、営業の書類管理や顧客対応の補助に使えないか」と提案できる場面もあるかもしれません。
無理をしないための線引き
配置転換によって通勤時間が大幅に増える、持病が悪化する、家庭の事情と両立できないといった具体的な支障がある場合は、人事や産業医、労働組合に相談できます。我慢して体調を崩す前に、制度として利用できるものを確認してください。
また、上司や同僚との関係が悪化して、日常的に強い不安や不調が続くときは、職場の相談窓口だけでなく、外部の専門機関に相談することも選択肢です。働き方の変化は、一人で抱え込む必要はありません。
配置転換の打診は、突然の変化に感じますが、まずは条件を確認し、自分が何を優先したいかを整理するところから始められます。すべてを一度に決める必要はありません。情報を集め、試せる範囲で試し、合わないと感じたら別の道を探す。そのための時間を確保することが、いちばんの準備になります。