IQ135以上の1528人からノーベル賞は0人。知能検査は何を測ってきたのか
心理学

IQ135以上の1528人からノーベル賞は0人。知能検査は何を測ってきたのか

1920年代の初め、アメリカ・カリフォルニアの小学校で、子どもたちが一斉に知能検査を受けていました。ある心理学者が「飛び切り頭のいい子」を探して学校を回り、IQ135以上の子どもを選び出したのです。やがて対象は1528人に達し、研究者はその子たちの一生を記録し続けました。

大人になった彼らの中から、博士号を取った人は97人、医師は57人、弁護士は92人。けれども、ノーベル賞を受けた人は一人もいなかったと伝えられています。一方、その検査で選ばれなかった2人の子どもは、後にどちらもノーベル物理学賞を受けています。一人はトランジスタの研究で、もう一人は素粒子の研究で知られる人物です。

この対比は、知能検査という物差しの輪郭を静かに浮かび上がらせます。IQは何を測り、何を測っていないのか。そして「頭がいい」とは、いったい何を指す言葉なのでしょうか。

助けるための物差しが、人を並べる物差しになるまで

始まりは1904年10月のパリでした。フランスの文部大臣が、普通の授業についていけない子どもたちにも教育を届けるための委員会を作ります。委員会は支援の必要な子を見分ける方法を求め、心理学者アルフレッド・ビネーが1905年に一つの検査を発表しました。年齢ごとに普通の子が解ける問題を易しい順に並べ、その子がどこまで解けるかを見る検査です。やがてドイツの心理学者が、その結果を知能指数(IQ)という一つの数字にまとめました。

ビネー自身は、知能は増やせない決まった量だという考え方に抗議していました。しかし検査は海を渡り、別の道具になっていきます。1916年にアメリカで改訂版が作られ、学校に広がりました。第一次世界大戦ではアメリカ陸軍が兵士に知能検査を受けさせ、1919年1月末までに172万人余りが対象になったといいます。助けるための物差しは、人を並べる物差しにもなったのです。

日本でもビネーの検査をもとにした検査が1947年に作られ、改訂を重ねて2024年に第6版となっています。使われているのは、就学相談や特別支援教育の場です。ビネーが最初に考えた使い道は、ここに残っています。

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測っているのは、たしかに「何か」らしい

では、この物差しは本物の何かを測っているのでしょうか。1904年、イギリスの心理学者が学校の子どもたちの成績を並べてみると、古典やフランス語、英語、数学など、一つの科目ができる子は他の科目もできる傾向がありました。科目は違うのに成績が揃って動く。その奥に共通の何かがあるのではないか。心理学者はそれを一般知能と呼び、後に「g」という記号で表しました。国語は得意で数学は苦手という人はもちろんいますが、たくさんの人を並べたときの傾向として、成績は揃って動くのです。

この傾向は、長い時間を隔てても続くことが確かめられています。1932年6月1日、スコットランドで1921年生まれの11歳の子どもたち8万7498人が同じ検査を受けました。66年後の1998年、研究者はそのうち101人を探し、77歳になった彼らに同じ検査を受けてもらいました。11歳の点と77歳の点の結びつきは0.63。11歳で点の高かった人は、77歳でも高い傾向があったのです。

さらに、アバディーンという町の2792人を76歳まで追った記録では、11歳の点が15点低いと、76歳で生きている割合がおよそ2割低くなっていました。理由は分かっていません。住んでいた地域の暮らし向きを考慮しても、この結びつきは変わりませんでした。また、イングランドの7万人余りの子どもを11歳から16歳まで追った記録では、11歳の検査と16歳の全国試験25科目との結びつきは0.81でした。

仕事の出来については、1998年の有名なまとめで知能検査は最もよく当てる方法の一つとされましたが、2022年に計算を見直すと、その数字は0.51から0.31へ下がりました。一番上に来たのは、決まった質問をする面接でした。ここに出てくる数字は、たくさんの人で見た結びつきの強さです。あなた一人の未来を決める数字ではありません。

平均点は時代とともに動く

IQの平均は100ですが、それは検査を作り直すたびに、その時代の人で100に合わせ直した数字です。1980年代、ある研究者が古い基準のままで点数を並べ直してみると、アメリカでは1932年から1978年までの46年で平均が13.8も上がっていました。14の国で、一世代のうちに5点から25点上がったという報告もあります。31の国、およそ400万人の記録をまとめた研究では、IQは100年にわたって10年におよそ3点ずつ上がっていました。このような世代をまたいだ平均点の上昇は、フリン効果と呼ばれています。

この研究者は、今の基準で100年前の人を採点すると平均はおよそ70、100年前の基準で私たちを採点するとおよそ130になると見積もっています。70は知的障害の境目とされる点です。では、100年前の人たちは皆その境目にいたのでしょうか。もちろんそうではありません。彼らは畑を耕し、家を立て、町を動かしていました。

手がかりは、1930年代の中央アジア・ウズベキスタンにあります。ある心理学者が学校に通ったことのない人たちに、「雪のあるところでは熊は皆白い。北の果てにはいつも雪がある。そこにいる熊は何色か」と問いました。すると、「北から来た賢い人がそういうなら信じるかもしれない。でも私が見た熊は皆茶色だ」という答えが返ってきました。少しでも学校で学んだ人とは、答え方がはっきり違っていたのです。見たことのない話を仮の話のまま言葉の上だけで考える。学校は、その考え方を毎日練習させる場所です。

実際、学校に1年長く通うとIQはおよそ1点から5点上がるという、60万人余りの記録からのまとめもあります。100年前の人たちが頭が悪かったわけではありません。目の前の暮らしの問題を、目で見て手で解いていたのです。IQの一部は、時代が育てた考え方の習慣を測っているのでしょう。

では、この上昇はどこまで続くのでしょうか。ノルウェーでは、1962年から1991年に生まれた若い男性73万人余りが同じ知能検査を受けてきました。1962年生まれの平均は99.5、1975年生まれで102.3まで上がり、そこから下がり始めて1989年生まれでは99.4でした。13年かけて上がった点数が、14年でほぼ元に戻ったのです。研究者が同じ家の兄と弟を比べても、同じように上がり、同じように下がっていました。どんな家に生まれたかでは説明できません。同じ家の中でも、兄と弟が育った時代の何かが違っていたのです。それが教育の中身なのか、暮らしの変化なのかは、まだ確かめられていません。他のいくつかの国でも、上昇が止まるか下がり始めています。

「頭がいい」の輪郭は、物差しの外にもある

ここまでの記録を並べると、IQは本物の何かを測っている面があります。11歳の点は77歳の点とも、16歳の試験とも結びつき、寿命との関連さえ見られました。けれども、その何かの一部は、時代が育てた考え方の習慣でした。だから上がり、そして下がり始めたのです。

そして、物差しが測らなかったものもあります。最初の検査で選ばれなかった2人の子どもは、ノーベル賞までたどり着きました。物差しを作ったビネーは、知能は決まった量ではないと書いていました。100年の記録は、その言葉と半分重なっています。人の順番は長く続くけれど、目盛りは動くのです。

今も日本の相談の場では、ビネー式の検査がその子に合った助けを探すために使われています。あなたが「頭がいい」と思う人は、何ができる人でしょうか。その答えは、物差しの目盛りのどこかにあるでしょうか。測れるもの、育てられるもの、まだ測れないものが混ざっている。物差しは、人が人を助けるために作った道具であることを、忘れないでいたいと思います。

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