職場の雑談や飲み会で、YouTuberや芸人、IT企業の仕事を「社会人じゃない」「あれは虚業だ」と切り捨てる人がいる。第一次産業以外の仕事を一段下に見るような空気に触れると、自分の仕事まで否定された気分になることもある。この言葉にモヤモヤしたとき、相手が何を根拠にしているのかを知ると、反論しなくても気持ちが楽になる。ここでは、仕事の価値をめぐる違和感の正体と、会話の中での選び方を整理する。
「社会人=会社員」という思い込みが線を引く
たとえば、同僚が「YouTuberは社会人じゃないよね。会社勤めを経験していないし」と言ったとする。あなたが副業で動画を作っていたら、自分の働き方まで否定されたように感じるかもしれない。この発言の背景には、社会人とは会社に勤める人だという思い込みがある。
辞書的な定義では、社会人とは家庭の保護を離れて自立し、社会的役割を果たしている人を指す。納税や法律を守ることも、その役割に含まれる。だとすれば、YouTuberでも納税して自立していれば社会人に当たる。それでも多くの人が受け入れにくいのは、会社組織での苦労を経験していないからだ。
日本では大人の多くが勤め人で、通勤マナーや年功序列、理不尽な上下関係を経て初めて一人前という感覚が強い。苦労の形が自分の知っているものと違うと、その仕事を「仕事」と認めにくくなる。
苦労の形が見えないと、仕事に見えない
人は自分の知っている苦労には共感しやすい。会社員の残業や人間関係の悩みは、多くの人が経験しているので仕事として理解される。一方、YouTuberの動画制作やプロスポーツ選手のトレーニングは、外から見ると楽しそうで、苦労が伝わりにくい。
あるSNSの投稿では、「夜職も大谷翔平も何も生産していないのに高額な報酬をもらいすぎている」という内容が話題になった。これは野球批判というより、自分が理解できない高額報酬への嫌悪感に近い。過去にも芸人、IT企業、漫画家など、新しい職業は「虚業」と呼ばれてきた。苦労の形が知られるようになると、虚業と呼ばれなくなるという繰り返しがある。
報酬の差は「市場で動くお金」の差
大谷翔平と夜職の稼ぎの違いを、個人の価値や努力だけで説明するのは難しい。資本主義の仕組みで考えると、お金がたくさん動く市場にいるかどうかで報酬が変わる。大谷翔平は世界中の観客やスポンサーという巨大な市場に価値を提供している。一方、夜職や個別のサービスに向けた仕事は、限られた人数を相手にすることが多い。だから稼ぎに差が出る。これはどちらが良い悪いではなく、仕組みの話だ。
第一次産業や介護が低賃金になりやすいのも、市場競争が働きにくく、公金や限られたお金で回っているからだ。自由市場でなければ、国がお金を投入するか、技術で仕組みを変えるしかない。この視点があると、「第一次産業より野球選手が稼ぐのはおかしい」という言葉に、感情ではなく構造で向き合える。
夜職が仕事と認められにくい別の理由
同じように非生産的と見える仕事でも、夜職は社会的信用を得るのが難しい。その理由の一つは、業界の一部に脱税や反社会的勢力とのつながりが指摘されてきたことだ。全員がそうではない。ただ、そうした問題があると、納税を通じて社会的役割を果たしていると見なされにくくなる。
納税を続けて信用を積み重ねた業界は、時間をかけて仕事と認められてきた。ここは感情論ではなく、事実としての信用の差だ。ただし、個人を一律に決めつけるのは避けたい。働いている人それぞれの状況は異なる。
会話で「それ、仕事じゃない」と言われたときの選び方
仮の例として、いくつかの対応を考えてみる。
- 相手が単に知らないだけの場合:自分の仕事の苦労を説明する義務はない。「知らないだけで、そう見えるのかもしれない」と受け流す。
- 事実を伝えたい場合:「納税して自立していれば社会人という定義もあるよ」と一言だけ添える。長い反論は不要。
- 相手が攻撃的、または上下関係がある場合:無理に反論せず「そういう考え方もありますね」と切り上げる。安全が優先。
- 自分が傷ついた場合:その場を離れて、相手の言葉と自分の仕事の価値を切り離す。
一律に距離を置くことが正解ではない。関係性やその場の空気によって、対応を変えればいい。
将来の仕事を考えるなら、市場の位置も一つの材料
学生や転職を考える人が「何をすべきか」に悩むとき、好きなことだけでなく、お金や人が集まる市場で自分の分野を試すという考え方もある。教育のように長く残りやすい分野を選び、それをYouTubeやSNS、今後はAI市場で実行する。ただし、これは一つの考え方であり、誰にでも合うわけではない。市場の中心に行けば努力が何倍にもなることがある一方、競争も激しくなる。安定を優先したい人や、自分のペースで学びたい人には向かない面もある。
「それ、仕事じゃない」という言葉は、相手の知らない苦労や市場の仕組みへの戸惑いから出ることが多い。反論するより、相手が何を知らないのかを切り分けると、自分の仕事への向き合い方が変わる。仕事の価値は、誰かの承認だけで決まるものではない。