全国の小学校で、屋外プールの設置率が下がっています。2018年には94%だったものが、2021年には87%に。およそ8校に1校には、屋外プールがない計算です。夏休みの定番だった学校プールが、少しずつ姿を消しつつある。その背景には何があるのか。そして、プールがなくなった地域で、水に親しむ機会をどう保つのか。数字と、かつての学校プールの風景を手がかりに考えます。
水難事故をきっかけに広がった学校プール
日本の学校にプールが増えたのは、決して楽しい行事のためだけではありませんでした。1955年、修学旅行中の船の事故と、海での水泳訓練中の事故が相次ぎ、多くの子どもが命を落としました。「水に落ちたときに自分の命を守る力をつけたい」。そんな思いから、安全に泳ぎを学べる場所として学校プールの整備が進みます。
1961年にスポーツ振興法が制定され、学校プールの建設に国の補助が出るようになると、全国で設置が加速しました。1964年の東京オリンピックも後押ししました。世界的に見ても、多くの学校が自前のプールを持ち、体育の授業で水泳を教える日本は珍しい存在でした。
かつての学校プールにあった安全管理の工夫
懐かしい思い出の裏には、事故を防ぐための細かな決まりがありました。冷たいシャワーや腰洗い槽は、体の汚れを落として水質を保つ目的がありました。2人組を作って人数を確認する「バディ」は、水の事故にすぐ気づくための仕組みです。朝の体温を書いて保護者の印をもらうプールカードも、体調不良の子を水に入れないための確認でした。
夏休みのプール開放では、保護者が交代で監視をしたり、先生が見守ったりしていました。遊びの時間にも、必ず大人の目がある。それが当たり前の風景でした。こうした工夫は、学校プールが単なる遊び場ではなく、安全を前提にした学びの場だったことを示しています。
もちろん、寒さや25mの壁に苦手意識を持った子もいました。楽しいだけの場所ではなかったからこそ、思い出は人によって違います。それでも、水に触れる機会を学校がまとめて用意していたことは、多くの家庭にとって大きな支えでした。
設置率が下がる背景に何があるのか
屋外プールの設置率は、2018年の94%から2021年には87%へ減少しています。理由は一つではありません。施設の老朽化や維持費、水質管理や授業準備にかかる教員の負担、夏の気温上昇による熱中症のリスクなど、いくつもの事情が重なっていると考えられます。ここで挙げた要素は、あくまで一般的に指摘される可能性であり、地域によって状況は異なります。
数字が示すのは、学校が自前のプールを持つことを前提にした時代から、少しずつ前提が変わってきているということです。すべての学校からプールがなくなるわけではありませんが、使える場所が減っている地域では、水に親しむ機会をどうつくるかが次の課題になります。
学校プールが使えなくてもできること
もし通っている学校のプールが使えなくなったり、夏の開放がなかったりする場合は、まず地域の公共プールや民間のスイミングスクールを確認してみてください。屋内プールは水温や天候に左右されにくく、監視員が常駐している施設も多いため、安全管理の面では安心できる選択肢です。費用や送迎の負担はかかりますが、学校以外の選択肢を知っておくと、夏の予定を立てやすくなります。
水に慣れる機会を家庭でつくるなら、無理に泳力を伸ばすことより、水辺でのルールを一緒に確認することが先です。たとえば、必ず大人と一緒に行く、体調が悪い日は入らない、ライフジャケットを正しく着ける、深さや流れを事前に確かめる。こうした習慣は、学校プールにあったバディやプールカードと同じように、命を守る基本になります。
学校プールが減っても、水の安全を学ぶ目的まで消えるわけではありません。形が変わっても、地域の施設や家庭での習慣に置き換えていくことはできます。
懐かしさの先にあるもの
学校プールの思い出には、冷たいシャワーやプールカード、夏休みの開放、帰り道のアイスまで、水の中だけではない時間が含まれていました。あの風景が減っていくのは寂しいことです。ただ、学校プールが生まれた理由を振り返ると、大切なのは「プールがあること」ではなく「水から命を守る力をどう育むか」なのだと分かります。
設置率の数字は、これまでのやり方がすべての地域で続けられるわけではないことを示しています。それでも、水に触れる機会を別の形でつくることは可能です。地域の施設を調べる、家庭で水辺のルールを話す、近くの子育て世帯と情報を共有する。小さな行動の積み重ねが、次の夏の安全につながります。