毎月は出ない出費を「予定外」にしている
エアコンが突然動かなくなる。家の修繕が必要になる。車の点検や保険の費用が続く。医療や介護に関わる費用が変わることもあります。老後の暮らしでは、何年かに一度まとまったお金が必要になること自体は、不思議なことではありません。
ところが、毎月の生活費だけを計算していると、こうした支出がすべて「予定外」になってしまいます。予定外が続くと、そのたびに「今回は仕方ない」と貯金を崩すことになり、家計全体の見通しが立ちにくくなります。
難しい家計簿を作る必要はありません。まず、去年の1年間で、毎月の生活費以外に何を支払ったかを思い出してみてください。家電、住宅、車、医療、冠婚葬祭など、年に必要なお金がある程度わかれば、月ごとに少しずつ備えるという方法も考えられます。
ここで得られる安心は、お金が突然減らなくなることではなく、何に備えているお金なのかを自分で分かっていることです。
家族への援助が、自分の生活より先になってしまう
大人になった子どもから、生活費が足りないと相談される。兄弟や親戚、長年の知人から頼まれる。真面目に家族を支えてきた人ほど、困っていると聞けば、つい昔と同じ役割に戻ってしまいます。子どもが小さかった頃は、自分の服より学用品、自分の旅行より教育費という選択が必要でした。その習慣は、相手が大人になっても簡単には切り替わりません。
ただ、親が子どもを大切にすることと、自分の老後資金まで差し出すことは、同じではありません。これからの医療や介護、住まいに関する費用も考えておく必要があります。そこまで使ってしまえば、将来の自分の暮らしが苦しくなる可能性があります。
頼まれたときほど、すぐに返事をしないことが助けになります。「私にもこれからの生活があるから、少し考えさせてね」。まずこの一言で十分です。そのうえで、本当に一時的な問題なのか、何度も繰り返しているのか、お金を渡す以外に助ける方法はないのかを確かめます。家計の見直しを手伝う、相談先を一緒に探す、といった関わり方もあります。
内容を理解しないまま保証人になることや、自分の生活を守るお金まで貸すことは慎重に考えてください。これは子どもを見捨てる話ではなく、親子がともに暮らしていくための線引きです。断った後の相手の顔を想像して無理をしてしまう気持ちは理解できますが、本当に大切な関係なら、こちらにも事情があることを伝えていく必要があります。
暮らしを小さくすることを「失敗」と感じてしまう
ほとんど使わなくなった車、退職後に着る機会が減った服、頻繁には使わなくなったサービス。手放しても困らないはずなのに、なかなかやめられない。そこには単なる物への愛着とは違う気持ちが働いています。若い頃から働いて、少しずつ手に入れてきた生活を、下げたくないという感覚です。
でも、暮らしを小さくすることは、人生の価値を下げることではありません。子どもが小さかった頃に必要だった大きな車が、今も必要とは限りません。仕事で使っていた服が、同じ数だけ必要とも限りません。今の自分に必要なものが変わっただけ、という見方もできます。
判断に迷ったら、こんな問いを立ててみてください。「今の私に必要だから続けているのか、昔から続けているからやめられないのか」。保険などは必要な保障もありますから、内容を確かめずに急いで解約する必要はありません。使う理由があるなら残し、なくても困らないなら変更を考える。その判断は、自分でしてよいものです。
お金の問題を1人で抱え込んでしまう
役所からの封筒が届き、何度読んでもよくわからない。電話で聞けばいいと分かっていても、「こんなことも分からないと思われたくない」「忙しいところに電話するのは申し訳ない」と考えて、書類を引き出しにしまってしまう。お金に限らず、年金、医療費、介護、税金、生活に関する制度は複雑で、内容が変わることもあります。知らないことがあっても不思議ではありません。
長年自分の責任を果たしてきた人ほど、人に頼ることへ抵抗を感じる場合があります。その気持ちは自然なものです。ただ、老後のお金については、早く相談したほうが選択肢が残ることがあります。困り切ってからではなく、少し気になった段階で確認する。内容によって相談先は異なります。
- 市区町村の窓口(生活や家計に関する相談)
- 年金事務所(年金の記録や手続き)
- 地域包括支援センター(介護や高齢者の生活全般)
どこに聞けばいいか分からないときは、まず自治体に尋ねる方法もあります。「老後の生活費について相談したいのですが、どちらに聞けばいいでしょうか」。最初はこの一言で構いません。分からないことを聞くのは、恥ずかしいことではありません。
当てはまらない人もいる、という前提
70代になれば誰でも貧しくなるわけではありません。年金や貯蓄、健康状態、家族の事情によって状況は大きく違います。ここで挙げた習慣は、60代では気づきにくかった負担が、70代になって見えやすくなる、という整理です。当てはまらない項目があって当然です。
また、節約そのものが目的ではありません。必要な食事や医療、人づきあいまで削る必要はありません。判断に迷う場合は、家計の専門家や自治体の相談窓口を頼ることも選択肢になります。
まず確かめたいこと
見直しの出発点は、節約ではなく「今の暮らしはどうなっているのか」を知ることです。全部を一度に変える必要はありません。1か月の収入と支出を書き出す、去年の臨時の出費を思い出す。その一つから始めるだけでも、お金への不安は少し具体的になり、対処できる形に変わっていきます。