2. 会話の順番を「情報を持っている人」に渡す
2010年に699人を2〜5人のグループに分けて行った研究が紹介されています。その結果では、グループの成績は最も頭のいい人の能力だけでは決まらなかった。相手の反応を読み取れることや、発言が一部の人に偏りすぎないことのほうが、成績と強く結びついていた。会議で一番賢い人が話し続けると、残りの人が持っていた情報は使われない。全員に同じ時間を配ればいいわけでもない。詳しい人が長く話す場面はある。問題は、役職や勢いによって必要な情報まで押し戻されることだ。
キャンベルは、発言の少ない人に「何かありますか」と急に聞くのではなく、「誰がその数字を見てきたのか」「誰が顧客に近いのか」を見て、具体的に声をかけた。話すこと自体を求めるのではなく、その人にしかない材料を引き出そうとした。職場では、顧客の違和感に最初に気づいた人が会議では一番若いということがある。不具合を毎日見ている人より先に役職の高い人が結論を話すと、黙った人の知識は最初から存在しなかったものとして扱われる。
試すなら、会議で「このデータを一番見ていたのは誰?」と具体的に振ってみる。急に意見を求めても話せないので、材料を先に示す。また、若いスタッフが資料を作って決算発表がうまくいったとき、キャンベルは彼らを部屋に呼び、5分だけ仕事への感謝を伝えた。難しい発表に挑む若い社員には客席から拍手を送った。数分でできる小さな働きかけでも、自分の仕事が見られていると分かると、次の仕事へ踏み込みやすくなる。褒めるなら「すごい」と曖昧に持ち上げるより、何が役に立ったのかを伝える。
3. 耳の痛いことは「行動」に落として伝える
キャンベルは、Googleに入るジョナサン・ローゼンバーグに、コーチを受け入れられるかどうかを尋ねたという。確かめたかったのは、自分が成功していても、自分にも見えていない欠点があるかもしれないと考えられるかどうかだった。結果が出ている間は、自分のやり方を変えない理由がいくらでも見つかる。批判を受けても「理解されていない」「相手の能力が低い」と処理できてしまう。コーチを受け入れる人は、相手の言葉に従うのではなく、自分の見方にも欠けた部分があるかもしれないと考える余地を残しておく。
伝え方にも違いがある。「あなたは独裁的だ」と言えば人格を守る話になる。一方、「会議の最初に結論を言うと、若い社員がデータを出さなくなる。次は若手の意見を先に聞いてみよう」と言えば、直すべき行動が見える。キャンベルは、成果を出す人間なら扱いづらさが才能の一部として許されるという考え方を止めようとした。能力を伸ばすことと、悪い振る舞いを放置することは別だ。誰かを本気で伸ばそうとするなら、励ますだけでは済まない。本人が成功しているときほど、言いにくいことを言う人が必要になる。
ただし、信頼関係がないまま指摘すると逆効果になることもある。まずは小さな事実を一つ伝え、相手がどう受け止めるかを見るのが現実的だ。
4. 「今の不足」をその人の限界と決めつけない
1990年代後半、Amazonの取締役たちはジェフ・ベゾスをCEOから交代させることを考えていた。急成長していたが、優れた創業者が会社の成長に合わせて優れた経営者になれる保証はなかった。投資家のジョン・ドアはキャンベルを呼び、キャンベルはシアトルで6週間にわたってベゾスを支えた。報酬は受け取らなかった。最終的にベゾスはCEOの座に残った。キャンベルが見ていたのは、今の不足がその人の限界なのかどうかだった。
組織では、役割に追いついていない人を見ると「向いていない」と結論づけやすい。会議を進められない、仕事を任せきれない、周囲と衝突する。しかし同じ行動でも原因は違う。判断の基準を持っていないのかもしれないし、権限が曖昧なのかもしれない。本人が持っている知識さえ出せないほど、周囲との関係がこじれていることもある。誰かの不足を感じたときは、「向いていない」と決める前に、判断基準・権限・人間関係のどこで詰まっているかを分けて考えると、取るべき手が変わる。
とはいえ、すべての人に同じように時間をかける必要はない。キャンベルは、嘘をつく人、誠実さを欠く人、自分が目立つためにチームを犠牲にする人はコーチしなかった。相手を信じることと、その人の今のやり方をすべて肯定することは同じではない。
相手の力を引き出すのに、特別な肩書きは要らない。解決策を急がずに一つ質問する。情報を持っている人に順番を渡す。耳の痛いことを行動に落として伝える。そして、今の不足を限界と決めつけない。どれも数分でできる小さな関わりだが、能力が外へ出る通路を開けることにつながる。無理に全員を変えようとせず、まずは身近な一人との会話で試してみるのがいい。