会議室に必要な情報がすべて揃っていても、話し合いの末に間違った結論へ流れてしまうことがあります。1985年に心理学者のハロルド・スタッサーとウィリアム・タイタスが行った実験では、4人のグループに学生会長候補の情報を渡し、最もふさわしい人物を選ばせました。全員が同じ完全な情報を持っている場合は83%のグループが正しい候補を選びました。ところが、正解に必要な情報を4人に分散して渡した場合、正しい候補を選んだグループは24%にとどまり、71%は別の候補を支持しました。
この差は、情報が足りなかったからではありません。会議室の中には正しい判断に必要な材料がすべてありました。それでも、話し合いの中で特定の情報ばかりが繰り返され、一人しか知らない情報が十分に扱われなかったのです。ここでは、会議が「意見の確認」に変わってしまう仕組みと、誰も持っていなかった答えを生み出すための具体的な工夫を整理します。
共有情報バイアスが会議を「意見の確認」に変える
この実験で起きていたのは共有情報バイアスと呼ばれる偏りです。4人全員が知っている情報は、誰でも話せます。一人が口にすれば、他の3人もすぐに同意できます。そのため、その情報は正しいだけでなく、重要なものに感じられやすくなります。一方、一人しか知らない情報は、その人が話さなければ存在しません。話しても他の人は初めて聞くため、すぐに判断できず、反応も薄くなりがちです。
さらに、会議の最初に「どの案がいいと思いますか」と意見を求めると、参加者は情報を探す人ではなく、自分の案を守る人になります。最初の多数派が見えると、それに合う情報は話を前に進める発言に見え、反対する情報は決まりかけた話を蒸し返す発言に見えてしまいます。時間を守ろう、一旦決めようという流れの中で、知識を増やす前に合意が作られてしまうのです。
会議が失敗するのは、参加者が情報を隠しているからだけではありません。場の構造が、共有された情報に拍手を送り、固有の情報を雑音として扱うからです。しかも、情報の扱いは内容だけでなく、誰が言ったかによっても変わります。現場の新人が話す重要な経験が「個人的な感想」として流され、運用担当が出す負担が「工夫で解決する話」にされることもあります。会議は情報を選んでいるだけでなく、誰の経験を知識として認めるかも選んでいます。