東京に出れば収入が上がる。そう聞いて上京を考える人は少なくありません。けれど、東京都で働く人の約50.3%が年収400万円未満という数字が紹介されることがあります。これは「東京は誰にとっても貧しい」という話ではありません。平均年収という一つの数字だけでは、暮らしの実態を見誤りやすい、という話です。職種や雇用形態、家族構成、住むエリアによって状況は大きく変わります。
平均年収と「多くの人の年収」は同じではない
平均年収は、全体の収入を人数で割った値です。ごく一部の高収入の人がいると、平均はその分だけ上に引っ張られます。平均値が高く見えても、真ん中の人の収入が同じとは限りません。
順番に並べたときの真ん中を「中央値」と呼びます。平均値と中央値は別のものですが、暮らしを考えるときは、平均年収だけでなく、手取りや支出の内訳を見るほうが現実に近づきます。
ここで扱う統計は、調査の対象や年、雇用形態によって変わります。数字そのものを断定するのではなく、「平均値だけで判断しない」という読み方の材料として受け取るのが適切です。
東京の生活コストは「収入の増加分」を飲み込みやすい
東京は仕事の数が多く、時給やキャリアの選択肢も広い街です。文化や情報に触れやすいという利点もあります。ただし、その利点と同時に、住居、移動、食、交際の支出も増えやすいところがあります。
家賃と初期費用
たとえば、都内23区で1DKを借りる場合、駅徒歩15分でも15万円前後という例があります。家賃7.9万円のワンルームでも、初期費用が約35万円かかるというケースを仮に置くと、貯金は一気に減ります。これは「東京は必ず高い」という断定ではなく、エリアや築年数で幅があるという前提での目安です。
毎月の支出を並べる
仮に額面27万円で、税・社会保険が7万円引かれて手取り20万円になったとします。そこから家賃7.9万円、光熱費1.2万円、通信費0.8万円、食費3.5万円、通勤1.5万円を引くと、残りは約5.1万円です。ここから日用品、交際費、医療費、服飾費を出すと、貯金に回す余裕は簡単には生まれません。
数字はあくまで仮の例ですが、収入だけでなく固定費を見る重要性は伝わります。東京は「稼げる街」である前に、「使う場面が多い街」でもあるのです。
見えない節約が、東京の暮らしを支えている
夕方のスーパーで、割引シールが貼られる瞬間を待つ人たちの姿は、東京の一面を映します。スーツ姿の人も、学生らしき人も、プライベートブランドの商品を手に取る。外から見える華やかさと、内側の節約は別のものです。
SNSに並ぶタワーマンション、ブランドカフェ、華やかな休日の写真は、東京のごく一部の光です。すべての人が同じ暮らしをしているわけではありません。見えている一部分を、街全体の平均像だと思い込むと、自分の生活が必要以上に苦しく感じられます。
東京が「合わない」とは限らない。でも計算は必要
東京が合う人もいます。高収入が見込める職種、家賃補助のある会社、実家暮らし、リモートワークを活用できる働き方なら、負担の感じ方は変わります。反対に、家賃や通勤時間の負担が大きい場合は、同じ年収でも生活の余白が小さくなることがあります。
リモートワークや副業、地方移住は選択肢の一つです。東京の給与を地方の生活費で使う働き方が合う人もいます。ただし、すべての人に同じ効果があるわけではなく、職種や通信環境、家族の事情で難しさもあります。
平均値ではなく、自分の手取りで考える
まずは、住みたいエリアの家賃、初期費用、通勤時間、毎月の固定費を書き出してみてください。平均年収ではなく、手取りから生活費を引いて残る額を見る。そのうえで、仕事の選択肢、文化や情報へのアクセス、家族との距離など、何を優先したいかを並べます。
生活が苦しいときは、自治体の生活相談や労働相談、専門家の窓口を頼ることも選択肢です。個人の努力だけで抱え込む必要はありません。
東京の平均年収は、東京で暮らす人の全部を表す数字ではありません。年収400万円未満が約半数という数字も、個人の努力不足を示すものではなく、生活コストを含めた構造を見るための手がかりです。東京に残るか離れるかは、正解が一つではありません。数字を自分の生活に置き換えたとき、何を優先するかで答えは変わります。