「貯金はあるのに使えない」のはなぜ? お金を使う罪悪感と「使う練習」の始め方
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「貯金はあるのに使えない」のはなぜ? お金を使う罪悪感と「使う練習」の始め方

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十分な貯金があるのに、財布のひもが緩まない。何かを買ったあとに罪悪感が残る。それは意志が弱いからでも、性格がケチだからでもありません。貯める技術を教える情報は世の中にあふれているのに、使う技術を学ぶ機会はほとんどないからです。そして、お金には賞味期限はありませんが、使える期限はあります。

なぜ貯められる人ほど使えなくなるのか

若い頃に「お金だけは裏切らない」と教えられ、その通りに節約を続けてきた人は、貯める力がとても強い人です。問題は、その力が使う場面でブレーキとして働き続けることです。

使ったら減る。減ったら老後に困る。だから使わない。この連鎖は、資産が増えるほど強くなることがあります。6000万円あっても、頭の中では「足りないかもしれない」という感覚が消えない。金額の問題ではなく、不安の問題になっている状態です。

不安を避けるための行動は、実際の危険が下がったあとも習慣として残りやすい、といわれます。貯金そのものが悪いのではなく、不安を鎮めるための手段が、いつの間にか目的に変わってしまうことがあるのです。

「老後破産」の恐怖を数字で確かめる

不安は、漠然としているほど大きくなります。だからこそ、一度数字に置き換えてみます。

たとえば6000万円を90歳までの30年で使うと、月あたり約16万円です(360か月で割った単純計算)。65歳からは年金も加わります。生活費が月9万円なら、この範囲で使っても手元が尽きない計算になります。

介護費用についても、生命保険文化センターの調査として平均約540万円という数字が挙げられていました。仮にその倍の1100万円を用意したとしても、4900万円は残る計算です。

参考までに、60代単身世帯の金融資産は平均1364万円、中央値は300万円、3000万円以上を持つ人は15.6%という調査も紹介されていました。6000万円という額が、平均からどれだけ離れているかがわかります。

ただし、ここで注意したいのは、これらがすべて平均値だということです。病気の治療、家族の事情、住む地域によって必要な額は大きく変わります。だから「必ず大丈夫」とは言えません。ただ、根拠のない不安と、数字で確認した不安では、向き合いやすさが違ってきます。

お金には「使用期限」がある

2022年の厚生労働省の調査として、男性の健康寿命は72.7歳という数字が紹介されていました。健康寿命とは、日常生活に制限なく動ける期間のことです。平均寿命との差は男性で約8.5年。つまり、お金はあっても体が自由に動かない期間が、人生の最後に待っている可能性があります。

旅行に行こうと思っていた足が動かない。ステーキを食べようと思っていた歯が弱っている。資産は残っているのに、使う体が先に終わってしまう。これは特別な話ではなく、多くの人が通る道です。

使わなかったお金は、どこへ行くのか

2024年度の最高裁判所の集計として、相続人がいないまま国に納められた遺産が1291億円にのぼり、過去最多で10年あまりの間に3倍以上になったという数字が挙げられていました。

これは「国に取られるのが悔しい」という話ではありません。使うタイミングを失ったお金は、本人の人生を通り過ぎて、静かに別の場所へ移っていくという話です。

同じ文脈で、自宅で亡くなった一人暮らしの人が年間7万620人、うち65歳以上が5万84人、45日以上たって見つかった人が2万1856人という集計も紹介されていました。口座の残高は、倒れたときにあなたを見つけてはくれません。

使う練習は、小さな金額から始められる

では、どうすれば使えるようになるのか。ここで有効なのは、いきなり大きな買い物をすることではなく、罪悪感なしに使う練習を小さく繰り返すことです。

たとえば「3000円を、後悔せずに使う」という課題を自分に出してみる。注意したいのは、ポイントやクーポンで実質0円にするのは練習にならないという点です。それはお金を使った体験ではなく、節約の成功体験になってしまいます。

使う順番にもコツがあります。優先したいのは、健康(歯の治療、人間ドッグ)、次に人とのつながり(食事の誘いに乗る、誰かに会う)、そして思い出になる経験です。物を買うより、体と関係に投資するほうが、あとまで残りやすいといえます。

お金を「安心」に変える使い方もあります。たとえば見守りサービスは、月3000円程度から始められるものもあります。貯めることだけが安心を買う方法ではありません。

金額の大きさより、誰と使うか

一人で食べた高級な食事は、味を覚えていないことがあります。逆に、大勢で囲んだ食卓は、何十年たっても思い出として残る。金額の大きさと、記憶の濃さは比例しません。

65歳以上の単身無職世帯の支出は月14万8445円、そのうち交際費は1万6956円という家計調査の数字も紹介されていました。交際費は削るべきコストではなく、思い出を買うための予算として見ることもできます。

この話が当てはまらない場合

ここまでの内容は、十分な資産があるのに使えないという状態についてのものです。借金がある、収入が不安定、家族の介護が続いている、治療中の病気があるといった状況では、優先順位はまったく変わります。まず生活を安定させることが先です。

また、強い不安やこだわりが日常生活を大きく妨げている場合は、一人で抱えずに専門家や相談窓口を頼る選択肢もあります。

貯める力の次に必要になるもの

貯める力は、あなたをここまで守ってきました。それは紛れもない事実です。ただ、その力だけでは、これから先の時間を豊かにはできません。次に必要になるのは、使う力です。

お金は、使われた瞬間に初めて思い出に変わります。貯金は正義です。ただし、使用期限つきの正義です。まずは3000円を、罪悪感なしに使ってみる。使っても生活が壊れなかった、という感覚を一度確かめるところから始められます。

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