2000年代から2010年代にかけて大きく広がったロードバイク。街中で見かける機会も増え、趣味として定着したように感じます。ただ、一時の熱気は落ち着き、乗らなくなった人や買い替えをためらう人も少なくありません。なぜ多くの人がロードバイクから離れていったのか。その背景を整理しながら、今の暮らしに合う自転車との距離を考えるための判断材料をまとめます。
ブームを支えた3つの波
ロードバイクが広がった背景には、いくつかの追い風がありました。2000年代前半は、レースに出るためではなく、遠くまで走る楽しみを求める人が増え始めた時期です。その後、2008年にはガソリン価格の高騰やメタボ健診の開始をきっかけに、通勤や健康目的でスポーツ自転車を選ぶ人が増えました。
2011年の東日本大震災では、交通機関の混乱をきっかけに自転車通勤が注目され、翌年以降も販売は伸びていきます。さらに2013年には自転車レースを描いた作品のアニメ化もあり、それまで自転車に縁のなかった層がロードバイクに触れる入り口になりました。国土交通省の資料では、2013年のスポーツ車の1店舗あたり年間販売台数は2003年のおよそ3.5倍に達したとされています。
離れる人が直面した3つの壁
始める人が増えた一方で、全員が乗り続けたわけではありません。2020年に行われたスポーツバイク所有経験者を対象にした調査では、すでに乗らなくなっていた人のうち59%が、初めてから2年以内に離脱していました。これは始めた人の59%が2年以内にやめるという意味ではなく、離脱した人だけを見た場合の割合です。
離脱した人が最初の2年間に抱えていた悩みとして多かったのは、天候に左右されること(66.2%)、お金がかかること(59.2%)、肉体的に辛いこと(56.4%)でした。雨の日や猛暑の日は乗るのを避け、気づけば間が空く。パンクの修理や着替え、水分の準備など、走り出すまでの手間が重く感じる。そうした小さな負担が積み重なり、乗る頻度が減っていくケースは珍しくありません。
買い替え時に立ちはだかる費用と規格の変化
長く乗ってきた人にとっては、買い替えのタイミングも大きな分岐点になります。近年のロードバイクはディスクブレーキ中心へと移行し、以前主流だったリムブレーキ用のホイールは新しい車体にそのまま使えないことが多くなりました。長年かけて揃えた機材を買い替えで活かせない場合、ゼロからやり直す感覚になることもあります。
価格の上昇も無視できません。たとえば入門用モデルの一例では、2017年モデルが税込み8万4240円だったのに対し、2025年モデルは12万9800円になっています。円安や材料費、輸送費の値上げが背景にあり、以前と同じ感覚で気軽に買い替えられる価格帯ではなくなってきました。
コロナ後の反動と「理由の喪失」
2020年以降は、新型コロナウイルスの流行で再び自転車が注目されました。公共交通機関を避ける移動手段として、また運動不足を解消する手段として、自転車通勤を始める人が増え、2020年度の自転車販売市場は事業者売上高ベースで2100億円を超え、過去最高を更新しています。
しかし2023年に感染症法上の分類が見直され、生活が以前の日常へ戻ると、電車や旅行など他の選択肢も復活しました。あの時期は「電車を避けたい」「運動したい」という明確な理由があったから乗っていたものの、理由が薄れるとともに自転車に乗る回数が減ったという人もいます。大手自転車部品メーカーの2023年12月期の売上高は前年から約25%減少し、自転車部品事業に限ると約30%の減少でした。加熱していた需要が一服した形です。
それでも自転車と向き合うための小さな判断
乗らなくなった自分を責める必要はありません。自転車はあくまで移動や運動の手段であり、今の暮らしに合わなければ距離を置くのも自然なことです。再開したい気持ちがあるなら、最初から長距離を目指さず、負担の少ない範囲から試す方法があります。
- まずは30分から1時間程度の近場コースを走り、準備と片付けの手間を小さくする
- 雨の日や猛暑日は「乗らない日」と決めて、天候による罪悪感を減らす
- 費用が気になるなら、買い替えよりも今の車体の整備で乗り続ける選択肢を検討する
- 家族や仕事でまとまった時間が取れないなら、自転車を手放して身軽になるのも一つの整理
どの方法も、効果や満足度を保証するものではありません。体力的に辛いと感じる場合や、乗ること自体が義務のようになってきた場合は、無理に再開しなくてもいいはずです。続けるか離れるかは、自転車が今の生活に役立つかどうかで決めれば十分です。
ロードバイクブームが落ち着いたのは、自転車が特別な趣味から、日常の選択肢の一つへ戻ったことの表れとも言えます。乗る理由は人それぞれ変わるものですが、必要なときにまた跨げる距離感が残っていると、道具としての自転車はもう少し身近に感じられるかもしれません。