32歳の夏、焼き鳥屋で友人が「毎月11万円を捨ててるんだぞ」と言った瞬間、二人の人生は分岐した。同じ年収、同じ貯金、同じ年齢。ただ「家を買う」か「借りて投資する」かという一点の選択が、20年後にどれほどの資産差と心理的距離を生むのか。数字と感情の両面から、そのリアルな計算を追ってみよう。
固定費と変動費のリアルな内訳
友人・健一が選んだのは、3000万円の中古戸建て。頭金600万円(2割)と諸費用200万円を貯金800万円から全額捻出し、残り2400万円を30年固定金利2.5%で借り入れた。月々の返済は約9万5000円だが、家を持つコストはそれだけでは終わらない。
- 固定資産税:月約1万円
- 火災・地震保険:月約4000円
- 修繕積立:物件価格の年1%(30万円)を月2万5000円で準備
これらを合計すると、初月の住居費は約13万4000円。一方、私が選んだ賃貸は同程度の3LDKで家賃11万円。固定資産税・建物保険・修繕リスクは大家負担。初期の毎月差額は約2万4000円だった。
機会費用という見えない武器
私は家に使わなかった800万円を全額、世界分散の低コストインデックスファンドへ。さらに毎月の差額から更新料分を除いた約1万9000円を自動積立した。税金・手数料を除いた簡易試算では、年6%リターンを仮定すると:
- 3年目:投資評価額約1020万円 vs 健一の持ち分約770〜860万円
- 10年目:投資評価額約1630万円 vs 健一の持ち分約1210〜1520万円
※市場リターンは保証されず、年ごとに大きく変動する点に注意。
家賃上昇と固定返済の時間軸
健一のローン返済額は30年間変わらない。対して私の家賃は2年ごとに約2%ずつ上昇し、10年目には月13万2000円に。毎月の積立余力は当初2万円近くから、やがて月2000円台まで圧縮された。固定費が変わらない安心感と、変動費が膨らむ不安感。この「時間の味方」がどちらにつくかは、金利環境と家賃動向次第だ。
心理的安心感と自由度のトレードオフ
健一は「自分の家って気持ちが違う」と言い、壁の色や庭の手入れを自分の意思で決められる自由を享受した。私は「来月にでも引っ越せる」身軽さを保った。どちらが正解かは、人生のステージや価値観で変わる。重要なのは、「数字上の損得」だけでなく「日々の安心感」も資産の一部として勘定することだ。
今日からできる小さな一歩
まずは自分の「住居費の全コスト」を書き出してみよう。ローン返済額だけでなく、固定資産税・保険・修繕積立・機会費用(投資に回せたお金)まで含めると、見えなかったトレードオフが浮かび上がる。その上で、「固定費を固定化するか、変動費を投資に回すか」を自分のリスク許容度と照らし合わせて決める。小さなシミュレーションから始めれば、20年後の「答え合わせ」で後悔しない選択に近づけるはずだ。