職場の不安を消そうとするほど苦しくなる理由と「あるがまま」の考え方
仕事と人間関係

職場の不安を消そうとするほど苦しくなる理由と「あるがまま」の考え方

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朝、出社前に胸がざわつく。会議で意見を言うのが怖い。あの人にどう思われているか考えると、夜になっても頭が回り続ける。そんなとき、不安を消そうと深呼吸や言い聞かせを繰り返すほど、逆に苦しくなった経験はないでしょうか。この記事では、不安をなくす努力をいったん手放すという考え方を、職場の対人場面に沿って整理します。

たとえば、上司にメールを送る前に「変に思われないだろうか」と不安が湧いた場面を考えてみます。選べる対応は大きく三つあります。不安が消えるまで送信を待つ、不安を打ち消すために何度も文章を直す、不安はあると認めたうえで送信する。この三つ目の態度が「あるがまま」です。

不安を消そうとするほど強くなる理由

この考え方は、明治から昭和にかけて神経症に苦しむ人々と向き合った医師の言葉をもとにしています。その医師自身、幼い頃から死や心臓の動悸への恐怖に悩み、あらゆる方法を試したものの、かえって恐怖が強まったといいます。転機は、不安を治すことをやめて目の前の勉強に取り組んだ夜でした。不安が消えたのではなく、背景に退いた。この体験から、不安を消そうとする努力が不安を育てるという逆説が語られています。

なぜそうなるのか。一つは、注意と感覚の悪循環です。会議で手が震えるのを意識すると、震えがさらに強く感じられ、周囲に気づかれたらどうしようと注意が向く。注意を向ければ向けるほど感覚は鋭くなり、その感覚がさらに注意を引き寄せます。医師の診察で異常が見つからないのに、本人には確かな動悸として感じられるのは、この集中が感覚を増幅させているためだという説明です。

もう一つは、「心は自分の意思で思い通りにできるはずだ」という思い込みです。不安をなくせない自分はダメだと考え、理想の状態で現実をねじ伏せようとする。しかし感情は天気に似ています。雨が降っている空に向かって「晴れろ」と怒鳴っても雨は止みません。傘をさして出かけるしかない。不安という雨も、自分の号令で止むものではないのです。

職場の対人場面で選べる対応

不安を消そうとしない態度は、対人場面では具体的に次のような形になります。いずれも仮定の例です。

  • 上司との1on1で緊張する。不安が消えるのを待たず、事前に用意した要点を一つ話す。声が震えても、伝える内容に意識を戻す。
  • 同僚に頼みごとをするとき、断られたらどうしようと考える。不安はあると認めたうえで、依頼の目的に集中する。相手の反応を事前に決めつけない。
  • 会議で発言するとき、的外れだったらどうしようと怖くなる。「ああ、不安がいるね」と心の中で声をかけ、手元のメモに書いた内容を読み上げる。

ここで大事なのは、不安を感じないようにすることではありません。不安を感じたまま、その場でやるべきことに手を動かすことです。気分が整ってから動くのではなく、動くから後から気分がついてくる。たとえ気分がついてこなくても、行動が終わっていれば、その日の仕事は前に進んでいます。

「ああ、いるね」から始める小さな練習

今日から試せるのは、不安を感じたら「ああ、いるね」と一言だけ声をかけて、目の前の用事に戻るという練習です。朝、目覚めた瞬間に胸が苦しい。ああ、不安がいるね、と思って布団を出る。仕事中に胸騒ぎがする。ああ、いるね、と思って手元の作業に戻る。夜、眠れない。ああ、いるね、と思って横になったままにする。眠れなくても、横になっているだけで体は休まるという考え方です。

最初は何も変わらないように感じるかもしれません。不安は相変わらず毎日訪れる。けれど、不安を消すために時間を使わなくなると、ある日ふと「最近、不安のことをあまり考えていなかった」と気づくことがあります。不安が消えたのではなく、不安があっても気にせず動けるようになる。それがこの考え方の目指すところです。

この考え方が合わないとき

ただし、「あるがまま」は、どんな人間関係でも我慢して続けることを意味しません。相手から明確な嫌がらせや暴力がある場合、不安を抱えたまま近づく必要はありません。また、不安が強く、眠れない日が続く、動悸や息苦しさで日常生活に支障が出るといった場合は、医師やカウンセラーなど専門家に相談することが先決です。

不安を消す努力をやめることは、投げ出すこととは違います。物事の道理を明らかにして、自分には感情を意思で支配する力はないと認めることです。雨が降っているなら、降ったままにしておく。不安があるなら、不安があるままでいい。そのうえで、自分のなすべきことをなしていく。職場の人間関係でも、まずはこの態度を小さな場面から試してみる余地があります。

不安を消すことより、不安を抱えたまま今日の用事を果たすこと。その積み重ねが、対人場面での選択肢を少しずつ広げていきます。

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