準備は終えられるが、安心には終わりがない
前夜に頭が働き続けるとき、心配しているのは予定そのものとは限りません。予定をうまくこなせない自分、約束を守れなかった自分、相手が困る場面。頭が見張っているのは、明日という1日より「失敗したくない」という可能性の方かもしれません。
ここに小さな逆転があります。準備は終わらせることができます。必要なものを揃えれば、ひとまず完成します。でも安心には目に見える終了の合図がありません。「絶対に寝坊しない保証」「絶対に失敗しない保証」は、前夜には手に入りません。保証を探し始めると、確認に終わりがなくなるのはそのためです。
たとえば、離れて暮らす娘と久しぶりに会う予定の50代の女性を考えてみます。待ち合わせは歩いていける喫茶店で、前日には「明日楽しみにしてるね」とメッセージが届いています。心配するようなことは何もないはずなのに、夜になると「もし寝坊して娘を待たせたら」と考えてしまう。これは、予定が嫌なのではなく、せっかくの約束を大切にしたい気持ちの裏側で起きることです。楽しみな予定でも、責任を感じる予定でも、翌日を気にかけるあまり落ち着かなくなることはあります。
眠れないこと自体が心配の中心になるとき
予定が気になって眠れなかった人が夜中に時計を見ると、それまでの心配に新しい心配が加わります。「もうこんな時間。明日眠かったらどうしよう」。最初は明日の予定が心配だったのに、途中から眠れていないこと自体が中心に変わります。
睡眠は準備できる部分があっても、意思の力だけで直接起こせるものではありません。目を閉じること、静かな場所に移ることはできます。でも「今すぐ眠る」と命令して、その通りに眠れるわけではありません。大事な予定の前夜ほど、睡眠を仕事のように扱ってしまいがちです。「7時間は眠らないと」「あと30分以内に眠らないと」。眠りを大切にしたい気持ちが、眠りを監視する仕事に変わると、気持ちが張り詰めてしまいます。
睡眠を扱う公的機関の情報でも、睡眠への心配や時計を繰り返し見る行動は、不眠に関わる要因として挙げられています。時計を見たから必ず眠れなくなるわけではありませんが、眠れない夜に残り時間を数えるほど焦る悪循環は起こり得ます。
「今夜できること」と「明日にならないと分からないこと」を分ける
明日の予定には2種類のことが混ざっています。一つは今夜のうちにできる準備です。切符を確認する、書類をまとめる、行き方を調べる。もう一つは明日にならないと分からないことです。電車が時間通りに来るか、その場で何を言われるか、自分がどんな気分で目を覚ますか。
前者には今できることがあります。後者は今夜考え抜いても答えが出ません。ところが夜中の頭は、この2つを同じ「まだやること」として扱ってしまう場合があります。「忘れ物をしないように確認しよう」は行動にできます。でも「明日絶対に失敗しないようにしよう」は、何をすれば完成なのかがありません。終わりのない問を抱えたまま眠ろうとすると、頭の中の仕事はなかなか片付きません。
2018年に発表された小規模な実験では、健康な若い成人57人が眠る前に文章を書く課題を行い、これからの用事を具体的に書いた人のほうが寝つくまでの時間が短い傾向を示しました。ただし実験室での結果で、すべての人に同じ効果があるという意味ではありません。それでも、頭の中で繰り返し思い出そうとする代わりに、忘れたくないことを外に書き出す方法は、気持ちの負担を変える工夫の一つになります。
準備を終えることと、結果を保証することは違う
紙に書いたからといって、すぐ眠れるとは限りません。午前2時台にまた目が覚めるかもしれません。そんなとき「やっぱり今日は眠れない。明日はもうダメかもしれない」と考えたくなります。でも、目が覚めたことと明日が失敗することは同じではありません。一度夜中に起きたのは事実ですが、そこから先の結果まで決まったわけではありません。
準備を終えることと、結果を保証することは違います。私たちが今夜できるのは、準備をすることまでです。明日の自分がすべて思い通りに動くと証明することではありません。その線を引くことは、投げやりになることではなく、できることをやった上で残りの不確かさをそのままにしておく、現実的な態度です。
もし今夜も眠れなくても、それはあなたの準備が足りなかった証拠ではありません。頭が働き続けるのは、大切にしたい予定があるからこそ起きる反応でもあります。今夜は「これ以上できる準備はない」と書いた紙を、明日の自分に渡すところまでで十分です。