夕食の後、テレビの前に立ってゆっくりスクワットを始める。10回目あたりで太ももの前が熱くなり、少し息が上がってくる。このまま毎日続ければ、太ももは少しずつ太くなり、膝も軽くなる。そんなふうに考えたくなるが、実際に測った研究は、筋肉の変化にもう少し違う順番を置いている。
毎日100回でも、筋肉はそのままだった
70代後半を中心とする25人を、スクワットをする組としない組に分け、する組は自宅で毎日100回を4カ月続けた研究がある。膝を伸ばす力、太ももの厚み、立ち座りの速さは、いずれもはっきりとは変わらなかった。変わったのは、筋肉に指令を出す神経の働き方のごく一部だけだった。回数を増やせばその分太くなる、という単純な話ではないようだ。
別の椅子を使った研究では、70歳前後の16人が、高さ40cmの椅子まで深くしゃがむ組と60cmまでの浅い組に分かれ、1日35回を4セット、週3日、12週間続けた。ここでも太ももの厚みと膝を伸ばす最大の力は変わらなかった。ところが、足で押し出す力は4週目から、30秒間の立ち座りの回数は8週目から数字として伸び始めた。しかも浅い組と深い組で差はなかった。深くしゃがまなくても、足の働きは少しずつ変わる。
食後血糖に効くのは、太ももが本当に熱くなる数分
太ももの筋肉は、食後に血液中へ出てくる糖を預かる大きな金庫のような働きをする。ただし、ただ座っているだけでは金庫の窓口はゆっくりで、預け先の決まらない糖が血液の中に長く残る。動いている間は、窓口を通さずに使える入り口が開くイメージだ。
2型糖尿病のある平均65歳の16人が、食後3時間ずっと休んだ日と、食後1時間と2時間に3分ずつ階段を上り下りした日を比べた研究では、3時間分の血糖値を合わせた量が、休んだ日より18%少なかった。若い男性を対象にした研究でも、座りっぱなしの日に45分ごと短いスクワットを入れると、食後の血糖の上がり方が歩く休憩とほぼ同じくらい小さくなった。
ただし、条件がある。20分ごとに30秒で10回の立ち座りをしても血糖値の差は出ず、壁に背をつけて止まったままのスクワットでも食後の山は下がらなかった。太ももが本当に動いて熱くなること。この感覚を伴う数分が、食後血糖には必要になる。
食事前にスクワットをしても、食事の糖はまだ血液に出ていない。食後1時間前後の、糖が血中を巡る時間帯に動くのが理にかなっている。一方、足の力を保つだけなら時間帯にこだわる必要はない。血糖を下げる薬を使っている場合は、運動の時間を変える前に医師へ一言伝えたほうがいい。
筋肉の量が変わるまでには、回数より1回の重さが要る
70歳以上の88人が、自分の体重だけを使ってゆっくり動く運動を12週間続けた研究がある。スクワット、テーブルに手をつく腕立て、状態起こしの3つを、下ろすのに4秒、上げるのに4秒かけて行った。すると、何もしなかった組に比べて、太ももの筋肉の厚みと膝を伸ばす力が増えた。ここまで挙げた研究のなかで、筋肉の厚みまで増えたのは、このゆっくり動いた研究だけだった。
速さの違いは、筋肉に重さがかかり続ける時間の違いになる。回数をこなすより、1回ごとに太ももへ負荷が乗っている時間を延ばすこと。それが筋肉の増築には近い道だと考えられる。
1カ月で変わること、変わりにくいこと
変化には順番がある。食後に太ももをしっかり使えば、その日の食後血糖の山は低くなりやすい。2週間続けると、食後高血糖と関係する血液中の指標が一時的に11%ほど上がったという報告もあるが、やめると2週間で元に戻り、朝の空腹時血糖は変わらなかった。4週目には足で押し出す力、8週目には立ち座りの回数が数字として伸び始める。12週目には、ここ2週間ほどの血糖を映すグリコアルブミンが運動した組で平均1ポイント下がった。
一方、健康診断でおなじみのヘモグロビンA1cは1〜2カ月の平均を映すため、1カ月で検査をしても前の月の分が混じり、変わって見えなくても不思議ではない。お腹の脂肪も、スクワットでお腹だけがへこむわけではない。使う量が入る量を上回る日が何週間も続いたときに、ようやく動き始める。
50代で同じ大きさの変化になるかは、まだ確かめられていない。研究の多くは70歳前後を対象にしている。数字は目安として受け取り、自分の体の反応を見るほうが現実的だ。
自分の足の通帳を一度測っておく
変化を確かめる方法として、椅子から5回立ち上がる時間がある。腕を胸の前で組み、できるだけ早く5回の立ち座りをして、かかった秒数を測る。アジアの筋肉の基準では、12秒以上かかると体の動きが落ちている目安とされる。壁際に動かない椅子を置き、ふらつく人は家族にそばにいてもらう。一度測って手帳に書いておき、8週間後に同じ椅子で測り直すと、足の力の変化が見えやすい。
続けるときの目安は3つの数字にまとめられる。下ろすときの4秒、膝を90度より深く曲げないこと、椅子から5回立ち上がる12秒。膝や腰に痛みが強い日は無理をせず、椅子と机を使った立ち座りに切り替えるか、医療機関に相談する。
夕食後にゆっくり10回から始めて、下ろすときも立ち上がるときも心の中で4つ数える。太ももが熱くなるころ、食後に巡っていた糖は筋肉の金庫へ静かに預けられていく。それは、毎日続ければ必ず太くなるという約束ではない。けれど、足の力を保ち、食後の血糖の振れ幅を小さくするための、小さな積み重ねにはなる。