方法は知っているのに自信がないとき
勉強の続け方や運動の習慣など、やり方自体は知っているのに「自分には続けられない」と感じている人には、助言する側に一度回ってもらう質問が有効だ。
「同じことで悩んでいる後輩がいたら、何とアドバイスしますか?」
すると、さっきまで「続けられない」と話していた人が、「スマホを遠ざけます」「平日に1日だけ会社帰りにカフェへ行きます」など、自分なりの方法を話し始めることがある。さらに、出てきた内容を本人に戻す。
「今出てきた中で、自分にも使えそうなのはどれですか?」
この2問は、相手がすでに持っている知識を、本人の行動の選択肢へ戻すために使う。2018年に発表された研究では、勉強が続かない中学生に年下の生徒へ助言させたグループのほうが、その後の宿題に取り組む時間が増えたと報告されている。貯金や減量、怒りのコントロール、就職活動でも同じ方向の結果が確認されたとされ、背景には自信の上昇があったと紹介されている。
ただし、初めて扱う仕事や専門知識が必要な問題では、先に必要な情報を教えるほうがいい。相手の中に材料がないのに質問だけで答えを出させようとすると、ただ困らせることになる。
感情が近すぎて同じ考えを繰り返すとき
転職や人間関係のように、方法よりも判断そのものが難しい問題では、自分の感情が近すぎて視野が狭くなることがある。「失敗したくない」「後悔したくない」という怖さが大きくなると、ほかの選択肢が見えにくくなる。
このときは、同じ相談を他人から受けた想定で考えてもらう。
「もし部下から全く同じ相談を受けたら、どこか気になるところはありますか?」
たとえば「今の会社をやめたいけど、次がもっと悪かったらと思うと動けない」という相談なら、相手が「やめるか残るかの2択で考えていること自体が問題かもしれない」と気づくことがある。さらに一歩進めて、こう聞く。
「その部下には、結論を出す前に何を確かめてほしいですか?」
すると「今の会社で部署移動や環境改善に取り組んでもいいかもしれない」といった、試せる行動が出てくることがある。すぐに退職という結論につながらなくても、「怖くて動けない」という塊が、確認できる行動へ変わる。
この方法は、693人を対象とした3つの実験でも、自分の問題より他人の問題として考えたほうが、相手の立場や妥協点、今後の変化まで広く考えやすくなったと報告されている。ただし、相手が強く傷ついている最中は、まず何があったのかを聞くことを優先する。同じ考えを何度も繰り返し始めたときに、少しだけ立つ位置を変えてもらうのがよい。
やるべきことは分かっているのに気持ちが動かないとき
「運動したほうがいい」「勉強すれば選択肢が増える」と周囲が説得するほど、相手は「時間がない」「どうせ続かない」と、変わらない理由を話しやすくなることがある。人の中には、変えたい気持ちと今のままでいたい気持ちが同時にある。
そこで、こちらが理由を並べる代わりに、本人がすでに持っている「変えたい理由」を聞く。
「それでも変えたいと思っているのはなぜですか?」
運動が続かない人なら、「子どもともっと出かけたい」「疲れにくくなりたい」といった本人なりの理由が出てくることがある。相手が使った言葉を短く返し、少し待つ。自分が口にした理由を、自分で聞く時間が生まれる。
動機づけ面接と呼ばれる対話法では、こうした本人の前向きな発言をチェンジトークと呼ぶ。36の研究・3025人分をまとめたメタ分析では、開かれた質問や相手の言葉を返す関わりでチェンジトークが増えやすいことが確認されたとされている。ただし、変わりたくない理由も同時に増えていた。前向きな言葉を無理に言わせるのではなく、迷いも含めて本人がどうしたいかを考えられるようにすることが大切だ。
「資格を取ったら得ですよね」「運動したほうが家族も喜びますよね」といった聞き方は、質問の形をした説得になりやすい。相手の目的までこちらが決めない。本人の中に理由があるなら、本人の言葉で確かめてもらう。
「やってみます」のあとに作る、次の確認日
相談の最後に相手が「やってみます」と言っても、数日たつと仕事や疲れで決意が薄れることはよくある。励ましを重ねるより、次に話す日を作るほうが、行動を日常へつなぎやすい。
次の行動が決まったら、「次に会ったとき、実際どうだったか教えてください」と伝える。成功を約束させるのではなく、試した結果を次の会話へ持ち帰ってもらう。
2016年に発表されたメタ分析では、進捗確認を促す介入を扱った138研究・1万9951人分のデータから、進捗を定期的に確認するだけでも目標を達成しやすくなることが分かったとされている。特に、結果を記録したり誰かに報告したりすると効果が大きかったと報告されている。
ただし、確認を監視に変えないことが大切だ。「約束しましたよね。どうしてやらなかったんですか」と迫ると、相手は次から本当のことを話しにくくなる。聞きたいのは、どこで行動が止まったか、何があると動きやすかったかだ。
「うまくいかなかったなら、何が一番邪魔になりましたか?」
「うまくいったなら、何が一番助けになりましたか?」
「雨だったから外へ出なかった」「前日に靴を玄関へ置いていたから動けた」といった情報があれば、次の一歩を調整できる。進捗確認は合格と不合格を決める時間ではなく、試して分かったことを次の工夫へ変える時間だ。
4つの質問を状況に合わせて使う
- 方法を知っているのに自信を失っている → 「同じ悩みの人に1つだけ助言するなら?」「その中で自分が試せそうなのは?」
- 感情が近すぎて同じ考えを繰り返す → 「部下から同じ相談を受けたら、どこが気になりますか?」
- やるべきことは分かっているのに気持ちが動かない → 「それでも変えたいと思っているのはなぜですか?」
- 「やってみます」と言ったあと → 「次に会ったとき、実際どうだったか教えてください」
4つすべてを毎回使う必要はない。状況に合う1問を選び、答えが出るまで待つ。出てきた言葉を短く返す。こちらがうまい答えを言おうと急がない。コーチングで前に進むのは最後まで本人だ。
深刻な心身の不調、暴力やハラスメント、依存、医療や法律に関わる問題では、質問だけで抱えず専門家や組織につなぐ必要がある。それでも、日常の相談で答えを渡す前に1問だけ返すことはできる。相手を動かすためにこちらがたくさん話す必要はない。その人が自分の頭をもう一度使えるように、考える時間を渡すことが最初の一歩になる。