まず「何を覚えるべきか」を見つける時間を短くする
新しい仕事やソフトに触れると、知らない言葉や手順が多く、すべてが同じくらい重要に見えます。そのまま全部を順番に覚えようとすると、情報量に押しつぶされてしまいます。
上達が速い人は、細かい手順をすべて覚える前に、次のような問いを自分に投げかけます。
- この作業は最終的に何が正しければいいのか
- 今教えられている手順は何のためにあるのか
- どこを間違えると後で大きな問題になるのか
最初から正解が見えているわけではありません。何度か試しながら、注意を向ける場所を絞っていきます。たとえば、動画編集ソフトを初めて開いたとき、ボタンの配置をすべて覚える前に「タイムライン」「素材を置く場所」「書き出し」の3つを探すだけでも、その後の学び方が変わります。もし情報が多すぎて問いを立てる余裕がない場合は、まず1つの作業だけを最後までやってみて、詰まった場面で「この手順は何のためにあるのか」を振り返ると負担が少なくて済みます。
失敗を「次に確かめる材料」に変える
うまくいかないとき、失敗を自分への評価として受け取ると、次に何を変えればよいかが見えなくなります。「向いていない」「才能がない」と考えている間は、方法の修正にたどり着きません。
上達が速い人も失敗して落ち込むことはあります。違いは、比較的早く「扱える大きさの問題」に戻ってくる点です。全部がダメだったのではなく、どこか1つの理解が違っていたかもしれない。そう考えて、次の1回で原因に迫ろうとします。
実践としては、失敗した直後に「自分の予想と現実がどこでずれたか」を一つだけ書き出すか、頭の中で確認します。たとえば、資料作成で時間がかかったなら「構成を先に決めなかったから」なのか「ツールの操作に手間取ったから」なのかを分けます。原因を断定できなくても、次に確かめる対象が決まれば、同じ失敗を繰り返す時間は短くなります。
ただし、何も変えずに同じことを繰り返せば、失敗の回数が増えるだけです。失敗が役立つのは、そこから次に試すことを取り出せたときです。3回ほど同じ失敗が続いたら、量ではなくやり方のどこかを一つ変えてみるのが目安になります。
過去の経験は「仮説」として使う
人は新しいことを完全なゼロから学ぶわけではありません。過去に身につけた知識を使い、目の前のものが何に似ているかを探しています。編集ソフトの経験があれば、初めてのソフトでも「どこかにタイムラインがあるはずだ」と予想できます。プログラミング言語を一つ学んだ人なら、新しい言語でも考え方の対応をつけながら入っていけます。
経験があるほど、何も分からない状態から最初の仮説を作りやすくなります。「以前のあれに似ているかもしれない」と考えられるだけで、最初に試すことが決まるからです。
ただ、過去の経験は邪魔にもなります。以前うまくいった方法をそのまま新しい課題に当てはめると、かえって遠回りすることがあります。前の職場の手順だけが正しいと思い込んだり、別の競技で身につけた体の使い方が新しい競技では動きを崩したりする例があります。経験があることと、それが目の前の課題に使えることは同じではありません。
上達が速い人は、過去の知識を「正解」として持ち込むのではなく、「最初に試す仮説」として使います。似ていれば利用し、違うと分かれば手放して、目の前の課題に合わせて直します。この切り替えが早いかどうかも、学びの速さに影響します。
努力の量より「方法を変えるまでの時間」を意識する
なかなか上達しないとき、私たちは努力を増やそうとします。同じ勉強法のまま時間を伸ばしたり、同じ練習をより集中して繰り返したりします。量が足りない場合にはそれで伸びますが、方法が課題に合っていないなら、努力を増やしても状況はあまり変わりません。
たとえば、体でタイミングを覚える必要があるのに説明を読み続ける、覚える必要があるものを理解したつもりで何度も読む。真面目に取り組んでいても、方法がずれていれば成果につながりにくいのです。
学ぶのが早い人も、最初から最適な方法を知っているわけではありません。違うのは、手応えのない方法を続ける時間です。続けても変化がないとき、努力量だけでなくやり方の方を疑います。学習研究では、自分がどこまで理解できているかを確かめ、必要に応じて方法を調整する働きが「メタ認知」や「自己調整学習」として扱われています。難しい言葉ですが、特別なことではありません。
具体的には、次のような見直しを小さな区切りで行います。
- このまま繰り返して本当に前へ進むのか
- 説明を読むより、一度試したほうがいいのか
- 一人で続けるより、誰かに見てもらったほうが早いのか
毎回丁寧に言葉にしているとは限りません。学ぶ経験を重ねるうちに、伸びていない状態に気づくのが早くなっていきます。同じ1時間でも、一つの方法を最後まで繰り返す人と、途中でやり方を変えた人では、終わったときに得ているものが違います。
「学ぶ力」は一つの才能ではなく、いくつもの条件で変わる
ここまで読むと、何にでも使える学習能力が一つあって、それが高い人は何をしても成功するように思えるかもしれません。実際はそこまで単純ではありません。新しいことを学ぶ速さは、すでに持っている知識や注意力、記憶、身体能力にも左右されます。本人がどれくらい興味を持っているか、失敗を試せる環境があるかによっても変わります。
仕事を覚えるのが早い人が、初めての分野では同じように早いとは限りません。学び方の習慣は変えられますが、すべての人に同じ方法が合うわけでもありません。まずは、今の自分が「何を覚えるべきか」を探す時間、「失敗を次に活かす」時間、「方法を変える」時間のどれが長くなっているかに目を向けてみてください。一つだけ変えるなら、そこから始めるのが負担の少ない入り口です。