医療費は別口座で備える
高額療養費制度があっても、差額ベッド代や食事代、リハビリ費用などは自己負担になることがあります。大きな病気や手術では、こうした制度の対象外の費用が重なり、10万円を超えることも珍しくありません。
医療費のためのお金を別にしておくと、手術の同意書を前にしたとき「いくらかかるのか」という問いではなく「治してください」と言える余裕が生まれます。
- 目安:数十万円から100万円程度を、使わない口座に分けておく。
- 注意点:高額療養費制度の上限は月ごとに計算されるため、長期入院では複数月にわたる負担を考えます。
- 合わない場合:医療保険の見直しや、自治体の医療費助成を確認するのも選択肢です。
支出を把握する「暮らしの地図」を持つ
老後のお金の不安は、残高の少なさより、自分が毎月いくら使っているか分からないことから生まれる場合があります。地図がない山道では、道に迷っていなくても落ち着かないのと同じです。
家計簿をつけるのが難しければ、今月の支出をノートに書き出すだけでも十分です。固定費と変動費に分けると、どこを減らせるかが見えやすくなります。
- いつ:今日から、今月分を思い出せる範囲で書き出します。
- 順番:家賃や保険などの固定費 → 食費や日用品などの変動費。
- 注意点:完璧を目指さず、1か月分の大まかな数字をつかむことを優先します。
- 合わない場合:通帳の記録を1か月分見返すだけでも、支出の傾向はつかめます。
誰にも知らせない通帳の役割
子どもを信頼しているからといって、財産のすべてを伝えると、親子の会話が相続や土地の話に偏ることがあります。子どもが親を思う気持ちと財産が気になる気持ちは、同時に存在しても不思議ではありません。
誰にも知らせない通帳を一つ持つことは、子どもを疑うためではなく、子どもが訪ねてきたとき「私に会いに来たのだ」と迷いなく思えるための備えです。金額は30万円でも構いません。大切なのは、自分だけが知っているお金があるという事実です。
- 注意点:この通帳の存在は、友人や子どもに話さないようにします。話した瞬間、見えない盾ではなくなります。
- 合わない場合:認知症などで管理が難しくなったときのために、家族ではなく信頼できる専門家にだけ連絡先を伝えておく方法もあります。
お金では作れない最後の通帳
5つ目の通帳は、お金では作れないものです。長年連れ添った夫を亡くした女性が、翌朝に湯のみを一つしか出さなかった自分に気づいたとき、初めて喪失を実感したという話があります。この通帳は、日々の何気ない関係や時間の積み重ねを指します。
お金の整理と同じくらい、誰かと過ごす時間や感謝を伝えることを意識しておくと、老後の心の支えになります。特別なことをする必要はありません。会話を交わす、手紙を書く、一緒に食事をする。そうした小さな積み重ねが、お金では買えない安心につながります。
今日からできる小さな整理
老後のお金の整理は、完璧を目指すより、まず一つ口座を分けるところから始まります。生活防衛資金、医療費、支出の把握、誰にも知らせないお金、そして心の通帳。すべてを一度に整えようとせず、今できる範囲で「備え」と「見える化」を進めてみてください。