「雑務」と呼ばれる仕事の多くは、価値が低いわけではない
データ入力や資料の修正、社内システムの保守などは、本業から遠いために目立たず、できて当然と見なされがちです。しかし、それは価値が低い仕事ではなく、その会社の中心から離れているだけかもしれません。たとえば社内システムの保守は、障害が起きなければ何もしていないように見え、起きたときだけ責められることがあります。ところが保守を専門にする会社では、障害を防ぐ仕組みや復旧までの速さが商品になります。地味に見えた工夫が、顧客を増やす理由になるのです。
会社の中には、上達しても先へ進みにくい仕事があります。上司が専門性を判断できず、評価制度にも反映されない。責任だけ増えて役割は変わらない。そういう場所で工夫を続けるのは難しいものです。仕事への関心が失われるのは、能力の問題ではなく、改善が何にもつながらない経験の積み重ねによる場合があります。
仕事を楽しめるかは、工夫がつながるかで変わる
料理人には仕込みと片付けがあり、エンジニアにはテストがあります。朝から晩まで楽しく、嫌な作業が一つもない仕事はほとんどありません。それでも、仕事を楽しんでいる人は、仕事の中にある問題へ自分から関わっています。少し使いにくい部分があると直したくなる。うまくいかなければ次の方法を試したくなる。昨日より少し良くなると嬉しい。こうした小さな執着が、他者にも分かる成果につながることがあります。
仕事や学習に関する183件、計21万人以上を対象にした研究のまとめでは、活動そのものへの興味や満足から生まれる内発的な動機が成果と関係していたと報告されています。特に結びつきが強かったのは、こなした量よりも出来の良さや正確さといった質でした。仕事に関心を持つ人は、指示された範囲の外まで見て、小さな違いに気づき、誰も見ていないところでも試し、失敗すれば方法を変えます。シーツ交換を短縮した女性も、手を速く動かしたのではなく、患者の動かし方とシーツの扱い方を見直したのです。
自分の仕事の置き場所を点検する二つの質問
この考え方は、会社単位だけでなく、部署やチーム、個人にも当てはまります。今の職場で評価されないと、自分には大した能力がないと思いがちですが、その会社では中心にならない能力を持っているだけかもしれません。複雑な仕様を読み、誰でも理解できる文章に直すのが好きなエンジニアは、開発会社では説明が丁寧な人で終わっても、技術文書を商品にする会社ならその力が仕事の中心になります。
自分の仕事の置き場所を点検するときは、次の二つを考えてみてください。
- この仕事で一流になった人に、社内で次の役割があるだろうか
- 経営層は、その仕事の良し悪しを判断できるだろうか
どちらも難しく、自社の強みにもならないなら、専門に任せる理由は十分にあります。ただし、嫌な作業をすべて外へ出せばいいわけではありません。本業を理解するために自分で経験しておくべき部分はあります。エンジニアがテストを全く知らなければ良い設計は難しく、顧客対応をすべて任せきれば顧客の困りごとが分からなくなります。自社の違いを作る仕事や顧客を理解する仕事まで手放してはいけません。
今の職場ですぐできる小さな試し方
すぐに会社を辞める必要はありません。部署異動を考えたり、小さな案件を引き受けたり、副業や個人制作で試したりできます。憧れているだけなのか、実際に続けたいのかは、少しやってみると分かります。熱意の持てる仕事は最初から見つかっているとは限らず、取り組んで少しうまくなり、誰かの役に立った手応えを得るうちに面白くなることもあります。
自分に合う仕事を考えるときは、求人票の職種名だけを眺めても答えは出にくいものです。仕事中に頼まれていないのに直してしまうものを思い出すのも一つの方法です。どんな問題を見ると放っておけないか。何を調べているときに時間を忘れるか。面倒な部分まで含めて、もう少しうまくなりたいと思えるのは何か。その中に、自分が力を使いやすい仕事が隠れているかもしれません。
人の能力は、どこに置かれても同じように見つけてもらえるわけではありません。その仕事を理解する人がいるか、上達した先に役割があるか、改善を会社の価値として受け取ってもらえるか。所属する場所によって、同じ能力の見え方は変わります。次に仕事を選ぶときは、給料や肩書きと一緒に、この仕事をもっと良くしたいと思えるか、この場所はその改善を価値として受け取ってくれるか、の二つを考えてみてください。二つが重なれば、大変な日があっても仕事へ戻って来られます。