妬んだ相手の不幸に、脳が「ご褒美」を感じる
2009年の日本の研究では、妬ましい相手に不幸な出来事が起きたという文章を読むと、参加者は嬉しい気持ちを強く答え、脳の報酬系と呼ばれる場所が活動した。これは美味しいものやお金を受け取ったときに動く場所だ。ただし、この結果は19人を対象にした一つの実験に過ぎない。他人の不幸を喜ぶ気持ちが、いつでも誰にでも同じように起こるとは言い切れない。
カナダの宝くじ研究では、ごく近所の誰かが高額当選した区画ほど、周囲の住民の借金や破産が増える傾向が見られた。増えたのは家や車など外から見える持ち物だった。当選が直接破産を招いたとは断定できないが、隣の暮らしが変わると自分のお金の使い方まで揺れる可能性はある。たとえば、隣家が新車を買った夜、自分の車が少し古く見える感覚は、実験室の外でも人の行動を変えうる。
嫉妬には「上向き」と「下向き」がある
オランダ語には嫉妬を表す言葉が二つある。一つは相手に追いつこうとする嫉妬、もう一つは相手を引きずり下ろしたくなる嫉妬だ。2009年の研究では、前者を感じた人は自分を高めようとし、後者を感じた人は相手の立場を傷つけたくなった。オランダとアメリカの800人余りを調べた研究では、他人の不幸を喜ぶ気持ちと結びついていたのは「引きずり下ろしたくなる嫉妬」だけだった。追いつこうとする嫉妬は、相手の不幸を喜ぶ気持ちと結びついていなかった。
- 上向きの嫉妬:相手を目標にし、自分を高める方向へ向かう
- 下向きの嫉妬:相手を貶め、差をなくそうとする方向へ向かう
私たちが一言で「嫉妬」と呼ぶ感情には、向きの違う二つの気持ちが混ざっている。だから「妬み=性格の悪さ」と決めつけるのは早い。最後に誰かを羨んだとき、その気持ちが上を向いていたのか、下を向いていたのかを振り返ると、自分の反応の輪郭が見えてくる。
なぜこんな面倒な感情が残っているのか
猿に同じ仕事をさせ、一方にキュウリ、もう一方にブドウを与える実験では、キュウリの猿が報酬を受け取らなくなった。不公平を嫌う心が人より前からあった可能性が考えられたが、これは「自分もブドウをもらえると期待しただけ」という反論もあり、結論は出ていない。人間の子どもでは、3〜4歳では自分の取り分を優先する子が多いが、7〜8歳になると自分と相手に差が出ない分け方を選ぶ子が増える。人と比べて差に気づく心は、成長の途中ではっきりしてくるようだ。
嫉妬の働きとしては、群れの中での自分の位置を知ること、取り分の差に早く気づくこと、追いつくための力になることなどが考えられている。ただし、これらは説であり、何のために生まれたのか確かめた人はまだいない。協力して分け合う生き物だからこそ、自分の取り分を見張る心が残ったと考える研究者もいる。嫉妬は誰かを嫌うためだけの感情ではなく、人と自分の距離を測る信号なのかもしれない。ただし、その信号が時に行き過ぎて、相手を引きずり下ろしたい気持ちに変わることもある。
物差しの目盛りを読む
最初の問いに戻る。年収5万ドルで周りが2万5千ドルの世界と、年収10万ドルで周りが20万ドルの世界。物価が同じなら、金額だけを見れば後者の方が豊かだ。しかし1995年の調査では、およそ半分の人が前者を選んだ。自分の収入が半分になっても、周りより上にいたいと答えたことになる。人は自分の豊かさだけを見て生きているわけではない。隣を見て差を測り、時に羨み、時に誰かが落ちたことに少しほっとする。
そう考えると、嫉妬は心の欠陥というより、人と人との距離を測るための物差しに近い。物差し自体は悪ではない。問題は、その目盛りを読んだあと、自分がどちらの方向へ動くかだ。相手を貶めることで差を埋めようとするのか、それとも自分の位置を上げるために何かをするのか。妬ましさを感じたとき、その感情をすぐに消そうとせず、向きを確かめるだけでも、次の行動は少し変わるかもしれない。