数字で見る、大企業と中小企業の差
厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、従業員1000人以上の企業の平均月給が約38万円、10人から99人の企業では約30万円とされます。単純に比べると月に約8万円、年間では約95万円の差になります。
また日本商工会議所の調査では、2025年度に最低賃金の引き上げに対応するための賃上げを実施した企業が45%にのぼるとされます。これは、多くの企業が最低賃金のすぐ上で人を雇っている状態を示す数字です。
中小企業庁の調査では、中小企業はコスト上昇分のおよそ半分しか価格に転嫁できていないとされます。仕入れや光熱費が上がっても、その半分は自社で吸収しているわけです。利益が出なければ給料は上げられず、給料が上がらなければ人が辞め、残った人の負担が増える。この循環が続くと、状況はさらに厳しくなります。
日本の企業の99.7%は中小企業で、そこで働く人は全労働者のおよそ7割とされます。つまり、これは特別な一部の人の話ではなく、多くの働き手にとって身近な問題です。ただし、これらはすべて平均の数字です。同じ中小企業でも給与水準は大きく異なり、個人差も大きいことを前提に読んでください。
「誰を恨めばいいのか」で迷ったとき
構造を知ると、怒りの向け先を探したくなります。会社のせいだ、経営者のせいだ、政治のせいだと考えれば、少なくとも原因がはっきりした気持ちになります。けれど、怒りの向け先が決まっても、給料が1円増えるわけではありません。
構造の問題を個人の責任に還元するのは、たしかに分かりやすい説明です。しかし、経営者自身も同じ構造の中にいる場合があります。利益が出ない中で、自分の報酬を削ってでも人を残そうとする人もいます。もちろん、経営判断が適切でない場合もありますから、すべての経営者を擁護する話ではありません。
もう一つ注意したいのは、「構造が悪い」という言葉が、何もしないための言い訳に変わってしまうことです。SNSで会社への不満を書けば、同じ立場の人から共感が集まります。気持ちは楽になりますが、それは痛みを和らげる麻酔に近く、状況そのものを動かす力にはなりにくいのです。
見るべきは「大手か中小か」ではなく「価格以外で選ばれているか」
給料が上がりにくいかどうかを分けるのは、会社の規模そのものではありません。自社製品があるか、独自の技術があるか、価格以外の理由で選ばれているか。ここが分かれ目になります。
たとえば、医療機器の部品加工のように認証が必要な分野は、参入できる会社が限られます。競合が少なければ、価格だけで勝負する必要がなくなり、利益を確保しやすくなります。仮の例として、同じ30人規模の会社でも、こうした分野にいるかどうかで給与の出方が変わることがあります。
転職先を探すときも、この視点は使えます。求人票の事業内容を見て、自社製品の有無や取引先の名前を確認する。大手の下請けであれば、今と同じ構造に戻ってしまう可能性があります。
動けないときの、現実的な進め方
とはいえ、すぐに動ける人ばかりではありません。家庭の事情、年齢、地域の求人の少なさなど、動けない理由は人それぞれです。動かないという選択も、その人にとっては合理的な判断です。
動く場合でも、次のような進め方があります。
- 勤務時間外に、自分の業界の構造を調べる。同じ悩みを持つ人がどんな会社に移っているかを知る。
- 求人サイトだけでなく、取引先や展示会で知り合った人に連絡してみる。空振りが多くても、直接のつながりから話が進むことがあります。
- 応募して落ちる経験も材料にする。落ちた理由を考えると、探し方の修正点が見えてきます。
- 焦らないことと、止まらないことを両立させる。毎日少しずつで構いません。
これらは、給料が上がることを保証するものではありません。転職しても条件が変わらないこともありますし、今の会社に残るほうが合っている人もいます。大事なのは、構造を知ったうえで、自分が選べる範囲を把握しておくことです。
まとめ
給料が上がらない背景には、会社が価格以外で選ばれているかどうかという構造的な要因があります。努力や能力だけで説明しようとすると、自分を責める材料ばかりが増えてしまいます。
同時に、構造を知ることは、怒りをぶつける先を決めるためではなく、次に何を選ぶかを考えるための材料です。動くにしても、動かないにしても、理由を自分の言葉で説明できる状態にしておくと、気持ちの置き場所が少し変わります。