自分の労働がいくらで売られているか、知らないまま働く
派遣という働き方には、自分の労働の値段が見えにくいという特徴があります。給与明細には自分が受け取った額が書かれていますが、派遣先が派遣元に支払っている金額は、ふつう手元には来ません。
派遣料金の内訳として、日本人材派遣協会のデータをもとに、派遣スタッフの賃金がおよそ7割、社会保険料が約1割、有給休暇の費用が数%、派遣会社の経費などが1割強、営業利益が1%台、といった数字が紹介されることがあります。これは平均の話で、実際の割合は会社によって大きく違います。マージン率が20%台の会社もあれば、30%を超える会社もあるとされます。
2012年の法改正で、派遣会社はマージン率などの情報を開示することが義務づけられました。ただし、開示されていること自体がほとんど知られておらず、見方も分かりにくい。だから多くの人は、自分の料金を確認しないまま働き続けることになります。
まず確認してみる
- 給与明細の総支給額と、派遣先から支払われている派遣料金
- 派遣元が公表しているマージン率の開示情報
- 同じ派遣先で働ける期間の上限(抵触日)
開示されていても待遇が良い会社はありますし、数字が良いからといって働きやすいとも限りません。確認は誰かを責めるためではなく、選ぶ材料を自分の手に戻すためのものです。
「正社員」という言葉に飛びつきたくなる心理
奨学金の返済がある、将来が見えない。そんなとき「正社員」という三文字は、それだけで希望に見えます。だからこそ、この言葉は狙われます。
正社員型派遣という働き方があります。派遣会社の正社員にはなるけれど、実際には派遣先で働く形態です。一般に、登録型の派遣では同じ派遣先で働ける期間に上限がありますが、正社員型派遣ではその扱いが異なると説明されることがあります。ただし法的な整理には議論があり、制度も変わることがあるため、最新の公的資料で確認したほうが安全です。
仮の例として、求人に「ITエンジニア」「未経験歓迎」「面接1回」「研修充実」と書かれていても、入社後に配属されたのが倉庫のピッキング作業だった、というケースが語られることがあります。肩書きと実際の業務がずれる求人は、いわゆる釣り求人と呼ばれます。
応募前に確かめたいこと
- 入社後の配属先と、実際に担当する業務
- 雇用形態(派遣元の正社員か、派遣先の直接雇用か)
- 契約期間と、期間終了後の扱い
- 研修費用の返還を求められる条件があるか
「おかしい」と感じたときは、労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談できます。相談したからといって、すぐに何かが起きるわけではありませんが、判断材料は増えます。
動ける人と動けない人の差は、意志の強さではない
同じ職場にいても、先に辞めていく人と、残り続ける人がいます。この違いは、根性や覚悟の差として語られがちです。けれど実際に効いているのは、情報を持っているかどうかです。複数の現場を短期間で見て回った人は、自分の条件と合う場所を比べられます。比べる材料がなければ、今の場所が「普通」になってしまいます。
とはいえ、動けない事情は誰にでもあります。返済、家族の介護、体調、住まい。動けないことを意志の弱さとして片づける必要はありません。状況によっては、動かないことがいちばん安全な選択でもあります。
もし少しだけ動く余地があるなら、次のような小さな試し方があります。いずれも提案であって、効果を約束するものではありません。
- 転職サイトに登録だけして、どんな求人があるか眺める
- 自分の仕事内容を箇条書きにして、職務経歴として書き出してみる
- ハローワークや無料の相談窓口の場所を確認しておく
人を使い捨てにした側に、何が起きているか
近年、人材派遣業界では倒産件数が過去最多を更新していると報じられています。大手でも業績が悪化し、赤字に転落した例が伝えられました。背景として、直接雇用に切り替える企業が増え、派遣の出番そのものが減っていることが挙げられています。
辞めたいのに辞められない人の手続きを代行するサービスでは、利用元の企業として人材派遣会社が最も多い、という集計も紹介されています。次の仕事が決まるまで給料が待てない、引き止められるのが怖い。そうした事情が重なっているのでしょう。
ただし、これを「罰が下った」と読むのは単純すぎます。人手が足りなくなった現場では、残った人の負担が増えます。人を部品のように数えるのをやめ、条件を良くして人を残す。その流れが進むかどうかは、働く側が条件を見て選ぶかどうかにかかっています。
代わりがいたのは、どちらだったのか
「代わりはいくらでもいる」と言われ続けた人が、実は簡単には代えられなかった。逆に、人を数で扱っていた側が、人がいなくなることで立ち行かなくなっていく。そうした見方が、いまの労働市場を説明する言葉として使われることがあります。
ただ、これは「あなたは特別な存在だ」という話ではありません。交換可能かどうかを決めるのは、職場でも、ましてや怒鳴る人でもありません。できるのは、自分の料金を知る、業務内容を確かめる、相談先を控えておく。その程度のことです。動けないなら、動けないままで構いません。まず一つだけ、確認してみてください。