なぜ体の不調を「大丈夫」と片づけてしまうのか——大腸がんのサインを見過ごさないために
心と体の健康

なぜ体の不調を「大丈夫」と片づけてしまうのか——大腸がんのサインを見過ごさないために

体が何かを伝えている。そう感じながらも、「大丈夫」「そのうち治る」と片づけてしまう。これは意志が弱いからでも、体が丈夫でないからでもありません。不安を直視しないまま日常を回そうとする、心の自然な働きによるものです。ただ、いくつかのサインは、数か月やり過ごすあいだに静かに進んでいくことがあります。ここでは、見過ごされやすい体のサインと、それを後回しにしてしまう心理、そして実際に選べる行動を整理します。

先に結論を書いておきます。体の異変を「気のせい」と片づける癖は、性格の問題ではなく、不安を先延ばしにする心の仕組みです。だからこそ、気合いや根性で乗り越えるのではなく、判断の基準をあらかじめ決めておくことが役に立ちます。なお、これから挙げるサインは大腸がんで見られることがあるものですが、痔や過敏性腸症候群など別の原因でも起こります。断定はできないという前提で読んでください。

なぜ「大丈夫」と思い込んでしまうのか

危険な情報に触れても「自分だけは大丈夫」と判断してしまう心の癖を、心理学では正常性バイアスと呼びます。災害や事故の場面でよく使われる言葉ですが、体の不調にも同じように働きます。誰にでも起こりうる、ごく普通の反応です。

もうひとつ大きいのは、原因をひとつに決めて安心しようとする動きです。「最近忙しかったから」「焼肉を食べすぎたから」「ストレスのせいだ」と説明がつくと、不安はその場で小さくなります。ただし、その説明が正しいかどうかは、また別の話です。安心するために作った説明が、数か月後の判断を遅らせることがあります。

時間とお金のことも、後回しの理由になります。受診には半日かかるし、検査には費用もかかる。目の前の損失は大きく見えますが、手遅れになったときに失うものと比べたとき、どちらが大きいかは自明ではありません。

続きを読む 続きの表示を閉じる 次の章:見過ごされやすい体のサイン

見過ごされやすい体のサイン

ここからは、大腸がんで見られることがあるサインを整理します。繰り返しますが、これらは大腸がんだけに現れるものではありません。ひとつだけで判断できるものでもありません。気になる状態が続くときは、自己判断より検査が確実です。

便の変化

  • 便に赤い血が混じる、便器が赤く染まる。痔と勘違いされやすい代表的なサインです。
  • 黒くタール状の便が出る。肛門から遠い場所からの出血で見られることがあります。
  • 便が細い。鉛筆のように細い状態が続く場合、腸の内側が狭くなっている可能性が考えられます。
  • 便秘と下痢を繰り返す。数日出ない日が続いたあと、突然ゆるくなる、といった波が続きます。
  • 出してもすっきりしない感じが残る(残便感)。

全身に出る変化

  • 食べているのに体重が減る。たとえば6か月で体重の5%以上、60kgの人なら3kg以上が説明なく減った場合は、一度相談する価値があります。
  • 貧血、立ちくらみ、息切れ、動悸。階段を上っただけで息が上がる、集中力が続かないといった形で現れることもあります。
  • 顔色が悪いと言われる。周囲の指摘は、自分では気づきにくい変化を教えてくれます。

お腹の違和感

  • お腹の張り、ガスがたまったような重さ。食後に悪化しやすい。
  • 左下腹部の痛み。波打つように強くなったり弱くなったりする。
  • お腹を触ると硬いしこりがある。痛みがないことも多く、筋肉や便の塊と勘違いされやすい部分です。

これらは単独で出ることもありますが、いくつか重なると、見過ごせない状態である可能性が上がります。逆に、ひとつも当てはまらないから安心、と言い切れるものでもありません。判断を検査に委ねるのが、いちばん確実な方法です。

「痔だろう」と自己判断するのが危険な理由

血便があると、多くの人がまず痔を疑います。痔はとても一般的な病気ですから、その推測自体は自然なものです。問題は、痔と大腸がんが同時に起きていることがある点です。痔があるからといって、別の出血源がないとは言えません。

また、痛みの有無も判断材料にはなりません。進行した状態でも痛みがほとんどないことは珍しくありません。症状の組み合わせから確率を推し量ることはできても、確定させることはできない。それが体の不調の厄介なところです。

受診をためらうときに、視点を変える

検査を受けることは「病気だと決めつけること」ではありません。選択肢を増やす作業です。早期に見つかれば選べる治療の幅は広がりますし、異常がなければ安心して日常に戻れます。どちらの結果でも、今より情報が増えることに変わりはありません。

検査の結果を「経過観察」と言われ、どうしても納得できないこともあります。そのときに検討できるのがセカンドオピニオン、つまり別の医療機関の医師に意見を求めることです。失礼にあたるのではと心配する必要はありません。治療方針を決める前に他の見方を知ることは、珍しいことではありません。

ただし、誰もが同じ経過をたどるわけではありません。症状があっても問題が見つからないこともありますし、逆に症状が軽くても早期発見につながることもあります。個人差が大きい領域です。

日常でできる予防の目安

食事の見直しは、体の負担を減らす意味で役立つとされています。目安として挙げられることが多いのは、食物繊維を1日25g以上、野菜350gと果物200g、玄米などを組み合わせてようやく届く量です。加工肉や赤身肉の摂りすぎには注意が促されることもあります。国際的な機関が加工肉の発がん性を評価している、という報告も知られています。

とはいえ、これらは「食べてはいけない」という話ではありません。魚や鶏肉、大豆製品を増やしてバランスを取る、という方向のほうが続けやすいでしょう。何より、症状が続いているときの代わりにはなりません。生活の見直しと受診は、別々に考える必要があります。

健康診断を後回しにしがちな人ほど、一年に一度の予定として先に組み込んでおくのがおすすめです。忙しさはこれからも続きますから、意志に頼らない仕組みのほうが現実的です。

体のサインに気づくことと、不安に飲まれることは違う

サインを確認することは、自分を責めることではありません。「もっと早く来ればよかった」と過去を悔やむ時間は、これからの判断には使いにくいものです。大切なのは、今日どうするかです。

たとえば、「気になる症状が2週間続いたら受診する」と先に決めておく。便の変化、体重の減少、お腹の張りなど、気にかかる項目をメモしておく。そうしておけば、その日の気分や忙しさに判断を委ねずに済みます。体は、私たちが思っているより頻繁に、静かに知らせを出しています。それを読むかどうかを、気合いではなく仕組みに預けておく。それが、いちばん穏やかな構え方ではないでしょうか。

なお、この記事は診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関に相談してください。

シェアする

気になる記事から、別の視点も見つけてみませんか。