順位をつければ解決するかというと、そうでもない
「一番好きな候補だけを書くから情報が消える。全員に順位をつけてもらえばいい」と考える人もいた。18世紀の数学者ボルダは、順位ごとに点数を与える方式を考えた。この方式では、一部から熱烈に支持される候補より、多くの人から二番手として受け入れられる候補が勝ちやすい。しかし、順位投票には別の問題がある。人は順位を戦略的に操作できる。本当はCを二番目に思っていても、Cが本命のライバルなら、わざと最下位に書くことで本命の勝率を上げられる。単純多数決は情報を削りすぎ、順位投票は情報を増やすが戦略も増やす。どちらも完全ではない。
完璧な投票制度は存在しない
20世紀の経済学者ケネス・アローは、候補が3つ以上あるとき、「全員がAをBより良いと思えば社会全体でもAを上にする」「特定の一人の好みだけで決まらない」「AとBの比較が無関係なCの存在に左右されない」といった、どれも当たり前に見える条件をすべて満たす集計方法は存在しないことを数学的に示した。複数人の好みを一つの答えに圧縮するなら、必ずどこかの情報を捨てることになる。どの情報を捨てるかを決めているのが制度そのものだ。
暮らしの中でできる工夫:多数決の前に「避けたいもの」を聞く
職場の会議やPTA、家族の話し合いで、多数決にモヤモヤしたら、次の順番を試してみるといい。
- 最初に「一番推したい案」だけでなく、「これだけは避けたい案」を一人ひとりに書いてもらう。多数決では消えてしまう情報を先に可視化する。
- その上で、候補が3つ以上あるなら、一対一の比較を何回か行う。AとB、BとC、CとA。循環が起きたら、その時点で「全員が納得する唯一の答えはない」と認識できる。
- どうしても一つに決めなければならない場合は、「最多票で決める」のではなく、「最も多くの人が二番目まで許容できる案」を探す。順位をつけて、一位の数ではなく、二位以下の分散を見る。
- 匿名のアンケートや付箋を使うと、声の大きい人に引っ張られにくい。ただし、匿名にすると責任が薄れる面もある。会議の目的に合わせて、匿名と記名を使い分ける。
これらの工夫は、完璧な答えを保証するものではない。むしろ「完璧な集計方法はない」という前提に立つことで、決まった後の不満を減らしやすくなる。負担は少し増えるが、一度の会議で数分の追加作業に収まる範囲で試せる。
合わない場合の代案
順位をつけるのが面倒な場合や、参加者が多い場合は、まず「反対意見の理由」だけを集める方法がある。多数決で決める前に、反対派が何を恐れているかを聞く。それだけで、後から出てくる不満の多くを先に拾える。また、SNSのアンケート結果を「世論」のように受け取るのは避けたい。あの数字は、設問の作り方や表示される順番、参加した人の偏りによって変わる。一つの数字をそのまま社会の本音と思わないことが、日常レベルでできる自衛になる。
まとめ
多数決で決めたのに納得できないのは、あなたが細かすぎるからでも、負けた人がわがままだからでもない。意見を一つの結果に圧縮するときに、必ず何かが削られるからだ。削られる情報を少しでも減らすために、多数決の前に「避けたいもの」を聞く、一対一で比べる、二番手までの許容を見る。完璧な方法はないが、どの歪みを受け入れるかを意識するだけで、集団の決め方は少し暮らしやすくなる。