待ち合わせの電話で「いまどこ?」と聞かれたとき、目の前の店の名前は言えるのに、駅のどちら側にいるのかが出てこない。スマホの地図を開いても、北が上のままだと自分がどちらを向いているか分からず、画面を回して進行方向を上にしてようやく歩き出す。こうした経験がある人と、地図を回さなくても方角が分かる人との間には、記憶の量ではなく街の覚え方の違いがある。
この違いを知っておくと、道案内のすれ違いを「相手が悪い」で終わらせずに済む。まず自分がどちらのタイプかを確認し、そのうえで相手に合わせた伝え方を選ぶのが現実的だ。
街の見え方は4つに分かれる
同じ道を100回歩いた二人がいても、頭に残る形は別物になる。一方には目印を順番につないだ一本の糸が残り、もう一方には上から見た盤面が残る。ドイツ語圏の5つの県から無作為に選ばれた783人を対象にした調査では、道を探すとき何を手がかりにするかを尋ねた。平均47歳、半分が女性で、年齢や学歴もばらばらだった。その結果は大きく4つに分けられる。
- 糸型:コンビニから信号、青い看板へと目印を順番にたどる。順番が崩れると迷う。
- 盤面型:道と道のつながりを上から見た配置で覚える。目印は少ないが、知らない道でも方角が合っていれば進める。
- 両方型:普段は糸でたどり、糸が使えないときだけ盤面に切り替える。迷った経験が少ない。
- どちらでもない型:糸も盤面もあるが薄い。知っている道は行けるが、新しい場所では地図を回す。
この並びは優劣ではなく、持ち方が違うだけだ。調査では両方型が35%、どちらでもない型が31%、糸型と盤面型が残りを分け、盤面型は16%ほどだった。地図を回さずに歩ける人は、実は多数派ではない。
道案内が通じないとき、何が起きているか
たとえば、待ち合わせで「いまどこ?」と聞かれた糸型の人が「コンビニの手前を右に曲がって、二つ目の信号のところ」と答えたとする。盤面型の相手は、その順番では位置を組み立てられず、「駅から見てどっち?」と聞き返すかもしれない。逆に盤面型の人が「だいたい北西の方角」と答えても、糸型の人には「それでどこへ行けばいいの?」となる。
ここで大事なのは、どちらかが不親切なわけではないことだ。渡している情報の形が違う。糸型の説明は順番が命で、盤面型の説明は配置が命になる。両方型の人は自分が特別だと思っておらず、迷った経験が少ないため、糸型の人に「あっちの方向」と言ってしまうことがある。通じないのは相手が悪いのではなく、渡しているものが違うからだ。
相手に合わせた伝え方の例
相手が糸型らしいと感じたら、順番と目印を補う。仮の例として、次のように尋ねると位置が合いやすい。
- 「この先のコンビニを過ぎて、二つ目の角を右で合っていますか?」
- 「いま見えているお店の名前を教えてもらえますか? そこから順に言います」
相手が盤面型らしいと感じたら、方角や駅との位置関係を尋ねる。
- 「駅から見て、どちら側に出ましたか?」
- 「目的地まで、だいたいどの方角ですか?」
自分が糸型なら、盤面型の人に「あっち」と言われたときは、無理に方角を理解しようとせず、「一番近い大きな目印は何ですか」と一つだけ聞くのが早い。自分が盤面型なら、糸型の人に道を説明するとき、方角ではなく「何件目の何を曲がるか」に置き換える。
知っている道を選ぶのは合理的な判断
糸型の人が知らない道を避け、いつもの道を選ぶのは、能力の問題ではない。近道は体には楽でも、頭には重い。通ったことのない道は行き止まりかもしれず、夜なら安全面の不安もある。時間に追われていないとき、遠回りでも確実な道を選ぶのは間違いではない。特に夜に知らない道へ入るのが危険な人にとっては、なおさらだ。
盤面型の人でも、疲れているとき、急いでいるとき、暗いときは頭の中の盤面が取り出せないことがある。そういう日は地図を回してもいいし、糸型の人に順番を教えてもらう方が安全な場合もある。
子供の頃の「行ってよかった範囲」が盤面の大きさになる
6歳から15歳までを振り返ってもらった調査では、外で遊んだ時間よりも、一人でどこまで行ってよかったかが、盤面型の見え方と関係していた。遠くまで行かせてもらった人ほど、道に対する不安が小さく、盤面を持ちやすい。男女差も、この「行ってよかった距離」を間に置くと消えたという。生まれつきの違いではなく、子供の頃に引かれた線の差だった。
その線は、家の前の道の交通量、近くの大きな道路、兄弟の有無、親の心配の度合い、その町で起きた出来事など、本人が選べないことで決まる。だから、地図を回す自分を「方向音痴だから」と決めつける必要はないし、逆に地図が読めることを優れた能力のように扱う必要もない。
道案内のすれ違いは、街の覚え方の違いから起きる。相手の説明が順番か方角かを見て、足りない情報を一つ尋ねるだけで、待ち合わせの負担は減る。知っている道を選ぶのは合理的で、疲れているときは無理に盤面を出さなくていい。自分がどの形で街を持っているかを知っておくと、相手への伝え方も変わる。