断捨離のアドバイスでよく聞く「迷ったら捨てる」。これは、同じ物がいつでも買い直せるという前提の上で成り立つ考え方です。いま、その前提が少しずつ崩れています。規制でつくれなくなる物、素材が変わってしまう物、原料高で同じ品質を選べなくなる物があるからです。だから捨てる前に、ひとつだけ確認しておきたいことがあります。それは「これは、同じ状態で再び手に入れられるか」という点です。
同じ物が買い直せない、三つの理由
規制で製造が終わるもの
水銀に関する水俣条約のCOP5(2023年)で、蛍光ランプの製造と輸出入を段階的に禁止することが決まりました。電球形は2026年から、直管型や環形は2027年から2028年にかけて、という段階的なスケジュールです。メーカー各社も蛍光ランプの生産終了を発表しています。
見落としやすいのは、器具の問題です。蛍光灯の照明器具にLEDランプをそのまま付けることはできません。器具ごと交換が必要で、電気工事の資格を持つ人に依頼することになります。ランプを一本買うだけのつもりが、工事と出費に変わる。これが「捨ててから気づく」の典型的な形です。
素材そのものが変わるもの
PFAS(有機フッ素化合物)は水も油もはじく性質を持ち、アウトドアウェアの防水・撥水に使われてきました。自然界で分解されにくいことから「永遠の化学物質」とも呼ばれ、規制が進んでいます。業界ではPFASを使わない素材への切り替えが進み、防水性は保たれても、汚れが付きやすくなった、撥水が落ちやすくなったなど、手入れのしかたが変わる場合があると言われています。
同じブランドの同じ型を買えば同じ、とは限らない。そういう例です。
原料の値段が変わるもの
羽毛布団の原料は、鳥インフルエンザによる水鳥の羽毛の減少や円安の影響で価格が上がっていると言われています。同じ品質を新しく買おうとすると、以前よりずっと高くつくことがあります。一方で、古い布団をリフォームに出し、中の羽毛を洗浄し直して使うという選択肢もあります。メーカーによっては、鍋の塗装を剥がして再コーティングする修理サービスを用意しているところもあります。捨てるか直すかの差は、数万円になることもあります。
値段がつかない物の問題
物の値段より厄介なのが、意味です。たとえば仮の例として、実家の片づけで古いバッグを見つけ、傷んでいるからと二束三文で売ってしまうとします。あとから、それが家族にとって特別な物だったと分かる。こういうことは起こります。
背景にある変化も、同じ方向を向いています。海外の高級ブランドの価格が数年で大きく上がったこと。象牙のように条約で国際取引が制限され、新しい原料が入ってこなくなった素材があること。真珠の産地で環境変化による大量へい死があり、生産量が大きく落ち込んだと報じられたこと。毛皮の生産そのものを禁止する国が出てきたこと。どれも「同じ物をもう一度つくれない」方向に働く変化です。それを扱える職人の数が減っている分野もあります。
さらに実務的な問題として、通帳や書類があります。生前贈与の記録は、相続のときに必要になります。2024年の税制改正で、贈与を相続財産に足し戻す期間が3年から7年へ延びる方向になりました。使っていない口座に見えても、手書きのメモや入出金の記録が残っていることがあります。判断に迷う書類は、捨てる前に税理士などの専門家に確認してください。
捨てる前にできる、小さな確認
- 「同じ物を、同じくらいの値段で買えるか」を一度検索する
- メーカーの修理・リフォーム窓口を調べる
- 写真を撮ってから箱に入れ、数日置く(保留箱をつくる)
- 家族の物は、必ず持ち主に確認してから手放す
- 書類・通帳・権利書は、自分で判断せず相談する
全部を残す必要はありません。明らかに壊れている物、使う予定がなく保管場所に困る物、同じ物が普通に買える物は、手放してかまいません。「迷ったら調べる」は、捨てるなという意味ではなく、判断の材料をひとつ増やすという意味です。
それでも手放して後悔したとき
後悔は、知識が足りなかったことの結果であって、人格の問題ではありません。ただし、一人で抱えると膨らみます。家族に事情を話す、税理士や弁護士、暮らしの相談窓口に連絡する。友人に「心配だった」と言われたら、それは責められる場面ではなく、助けを借りていい合図です。気持ちが強く落ち込んで戻らないときは、カウンセリングなど専門の支援を検討してもよい領域です。
「迷ったら捨てる」を「迷ったら調べる」に置き換えるだけで、防げる後悔があります。捨てる判断を急がされるほど、いったん保留する価値があります。