原因2:プレッシャーで普段の実力が発揮しにくくなる
一人で作業しているときは問題なく数字を合わせられるのに、上司が後ろに立った瞬間に計算ができなくなる。何度も練習した説明が、お客様の前で頭から消える。こうした「本番に弱い」という経験は、能力不足ではなく、プレッシャーが頭の中の作業スペースを奪うことで起きると考えられています。
2005年に行われた実験では、頭の中で情報を保持しながら解く計算問題を、プレッシャーのある状況とない状況で比較しました。すると、成績が落ちたのは、普段の実力が高い人たちだけだったと報告されています。普段から頭の中の作業机をフルに使って丁寧に仕事をしている人ほど、「失敗したらどうしよう」「見られている」という心配がその作業机を占領し、実力を発揮しにくくなるのです。
つまり、大事な場面でミスをするのは、能力が足りないからではなく、プレッシャーに奪われるほどの実力を普段から使っているからかもしれません。この見方を知っておくと、失敗した夜に自分を責め続ける負担は少し軽くなります。とはいえ、プレッシャーはなくせないので、対策は別に必要です。
原因3:声をかけられやすい環境がミスを誘う
集中して数字を打ち込んでいるときに「ちょっといいですか」と肩を叩かれ、3秒だけ話を聞いて画面に戻る。その後、どこまで入力したのか分からなくなり、同じ行を二回入力したり、一行飛ばしたりする。職場でミスが多い人を思い浮かべると、席に人がよく来る、頼みやすい人であることが少なくありません。
2014年に発表された実験では、決まった手順で進める作業の途中に、平均28秒の別の作業を差し込むだけで、手順を飛ばしたり繰り返したりするミスの発生率が2倍になったと報告されています。割り込みを44秒に伸ばすと、ミスは3倍に増えたといいます。しかも増えたのは、手順そのものの間違いではなく、「自分がどこまでやったか」を見失うミスでした。
割り込みが壊すのは能力ではなく、作業の中の現在地の記憶です。しかも、割り込まれた本人はその自覚を持ちにくいため、頭の中の現在地がずれたまま作業を続けてしまいます。声をかけられやすい人は、この28秒の割り込みを一日に何度も受けていることになります。これは注意深さでは避けられない、環境による負荷です。
今日からできる対策:確認を頭の外に出す
ミスが続くとき、多くの人は頭の中で「日付は大丈夫だったかな」「添付はつけたかな」と確認します。でも、情報が頭の中に溢れやすい人ほど、この確認自体が他の情報に押し流されてしまいます。そこで有効なのが、確認を頭の中ではなく、紙や付箋の上で行う方法です。
この方法の参考になるのが、2009年に世界保健機関と共同で行われた手術のチェックリストの研究です。世界8カ国の病院で、手術の前後に患者の名前や手術部位、器具の数など19項目を声に出して確認するだけの仕組みを導入したところ、手術後の大きな合併症は11%から7%に、死亡率は15%から8%に減ったと報告されています。医師の技術が上がったわけではなく、「覚えているはず」という頭の中の確認を、目で見て声に出す確認に置き換えただけでした。
この考え方を仕事に取り入れるなら、次の順番で始めると負担が少なく済みます。
- 一番痛いミスが起きる場面を一つだけ選ぶ(例:メールを送る前、書類を出す前、数字を確定する前)
- その場面で確認したいことを3つだけ付箋に書く(例:宛先、添付、件名の日付)
- モニターの端など、その場面で必ず目に入る場所に貼る
- 該当する場面が来たら、付箋を見ながら声に出すか指差しで確認する
最初からあれもこれも確認しようとすると続きません。まずは一つの場面に絞り、3項目だけにすることが大切です。慣れてきたら別の場面にも広げられますが、合わないと感じたら無理に続けず、確認するタイミングや項目数を変えてみてください。効果を保証する方法ではありませんが、頭の中だけで確認するよりは、ミスの再発を防ぎやすくなります。
仕事でのミスが続くときは、自分の性格や能力を責めるよりも、脳の情報処理の癖や職場の割り込みといった環境要因に目を向けるほうが、次の行動につながります。完璧を目指す必要はありません。まずは痛いミスが起きる一つの場面で、確認を頭の外に出すことから試してみてください。