眠ろうとするほど目が冴えるのはなぜか
体には、活動モードに切り替える交感神経と、休息モードに切り替える副交感神経があります。交感神経はいわば非常時のスイッチで、心拍数を上げ、アドレナリンやノルアドレナリンといった物質を出して体を戦闘態勢にします。
「眠らなければ」と力を込める行為は、この非常時のスイッチを押してしまいます。さらに、焦りや不安を感じるとコルチゾールというホルモンが分泌されます。コルチゾールは朝に増えて体を目覚めさせる役割を持つとされ、本来は夜に増えるものではありません。深夜にこれが出てしまうと、体は朝が来たと勘違いしたような状態になり、眠気はさらに遠のきます。
つまり、眠れない夜に「気合いで寝る」と決めることは、体からすると逆方向の指示になりやすいのです。
目が覚めた直後に避けたいこと
時計を見て残り時間を計算する
時刻を確認した瞬間、脳は残り時間の計算を始めます。「あと4時間しかない」という数字は、そのまま不安の材料になります。たとえば、時計を見て「あと3時間で起きなければ」と計算してしまい、心臓が少し速くなる、そんな場面を想像してみてください。この計算そのものが、覚醒を強める合図になり得ます。
強い光を浴びる
眠気には、メラトニンというホルモンが関係しています。メラトニンは夜になると分泌が増え、体に眠りのタイミングを教える役割を持ちます。ところが光を浴びると、その分泌は抑えられてしまいます。
スマートフォンやタブレットの画面、天井の照明は、いずれも強い光です。ブルーライトをカットする設定にも一定の意味はありますが、画面の明るさそのものが眠気を遠ざける方向に働くため、それだけで安心はできません。電子書籍より紙の本、紙の本より音声、というように光を減らす選択が役立ちます。トイレに行くときも、天井の照明をつけず、足元だけを照らす小さな明かりにするほうが穏やかです。赤みのある光は刺激が少なく、青い光は覚醒を促しやすいと言われます。
スマホとSNSを開く
動画やSNSは、短い間隔で新しい刺激が届くため、脳が覚醒しやすい環境です。見ている間は退屈せず、眠気を忘れられますが、そのぶん眠りに戻るタイミングは遠のきます。深夜に画面を開く習慣が続くと、朝の目覚めも重くなりやすいと言えるでしょう。
布団の中で試せること
目をぎゅっと閉じず、ふわっと閉じる
強く目を閉じる、体に力を入れる、歯を食いしばる。こうした動作は筋肉を緊張させ、覚醒のスイッチに近い状態を作ります。意識して力を抜き、まぶたは軽く閉じる程度にします。脱力は、眠りに入るための基本的な準備です。
4・7・8の呼吸
鼻から4秒かけて吸い、7秒止め、8秒かけて吐く。これを4回から8回ほど繰り返す呼吸法があります。吐く時間を長くすることで、休息モードの神経が優位になりやすいとされます。心拍数や血圧が少しずつ落ち着くのを待つイメージです。息が苦しいと感じる場合は、秒数を短くしても構いません。
映像だけを追いかける
目を閉じたときに、ぼんやりした光や模様が見えることがあります。それを、物語の登場人物を追うように、ただ眺めます。山なら一緒に登り、川なら一緒に渡る。言葉で説明しようとせず、映像だけを追うのがポイントです。言葉を扱う働きが静まると、思考の回転もゆるみやすくなります。
退屈な妄想で脳を飽きさせる
脳は刺激が少なくなると、自然と眠気を訪れさせます。これを利用するのが、退屈なイメージをわざと並べる方法です。アルファベットを順にたどり、単語を映像で思い浮かべます。郵便ポストの色、スーパーのレジ袋の厚み、ナンバープレートの数字など、どうでもいい題材を選びます。
大切なのは、感情を動かさないことです。楽しい、懐かしい、悔しいと感じた時点で、脳は目を覚まします。10分ほど試して効果がなければ、別の方法に切り替えます。同じことを続けて焦りが出てくると、かえって目が冴えてしまうためです。
眠れなくても、横になっているだけでいい
眠れないまま横になっている時間は、無駄ではありません。横になって目を閉じているだけでも、血流は穏やかになり、筋肉はゆるみ、コルチゾールは下がりやすくなるとされます。つまり、眠れなかったとしても、体は休めています。
「眠れない」ことへの苛立ちは、覚醒ホルモンの材料になります。眠れない自分を責めるより、休めている時間として扱うほうが、結果的に眠りに戻りやすくなります。
それでも眠れないとき、この方法が合わない人もいる
ここで紹介した方法は、あくまで眠りに戻るための選択肢の一部です。呼吸法が苦しく感じる人、退屈な妄想がかえって不安を呼ぶ人もいます。合わないと感じたら、無理に続ける必要はありません。
また、中途覚醒が何週間も続く、日中の生活に支障が出ている、いびきや息苦しさを指摘される、といった場合は、睡眠の専門外来やかかりつけ医に相談するほうが確実です。生活習慣の工夫で対応できる範囲と、医療の助けが必要な範囲は分けて考えてください。
眠りは、勝ち取るものではなく預けるもの
深夜に目が覚めたとき、できることは意外とシンプルです。時計を見ない。強い光を避ける。スマホを開かない。そして、眠ろうと踏ん張るのをやめて、力を抜き、脳を退屈な状態に置く。
眠りは努力でつかみ取るものではなく、手を離したときに戻ってくるものだと言えます。眠れない夜を「無駄な時間」と決めつける必要はありません。横になって目を閉じているだけでも、体は休んでいます。