小さな行動と振り返りをセットにする
2021年に約1500人の成人を対象にした性格変化の研究では、参加者がスマートフォンのアプリを使い、目標に合う小さな課題を日常生活で試しました。たとえば物事をきちんと進めたい場合は、思いついたことを先延ばしせずその場で少しだけ手をつける、毎日部屋の一箇所だけ片付ける、集中するときはスマートフォンを通知オフにする、といった課題です。
この研究で重視されていたのは、行動を実行するだけでなく、一日の終わりに振り返ることでした。今日はできたか、できなかったならどこで止まったか、次はどうすればやりやすいかを記録します。また、課題を引き受けたことより、実際に完了した回数がその後の性格変化と結びついていたと報告されています。
日常に取り入れるなら、次の順番が参考になります。
- 変えたい性格に近い行動を一つだけ選ぶ
- 負担が少ない時間帯や場所で試す
- 一日の終わりに、できたことと止まった原因を短く書き出す
- 止まった原因に合わせて、課題をさらに小さくするか、別の行動に替える
できなかった日を責める必要はありません。続かないときは、課題が大きすぎるか、生活の流れに合っていない可能性があります。たとえば「毎日部屋を片付ける」が続かないなら、「机の上だけ片付ける」「帰宅してから5分だけ」に変えてみます。合わない方法を無理に続けるより、調整するほうが現実的です。
憧れの人から「性格」ではなく「行動」を一つ借りる
「あの人のように穏やかになりたい」と思ったら、その人が何をしているかまで観察してみます。失敗した人にどう声をかけているか、意見が違うときにどこまで話を聞いているか。性格全体を真似ようとするのではなく、行動を一つだけ借りるのがポイントです。
たとえば、頼んでいた資料が約束の時間に届かず、軽く扱われたように感じて腹が立ったとします。普段なら責める言葉を送ってしまう場面で、まず「今どんな状況ですか」と聞いてみる。すると相手は別の仕事も重なっていて優先順位が整理できていなかった、といった事情が見えるかもしれません。遅れた事実は変わらなくても、見えている状況が変わると、怒りの強さが変わることもあります。
行動を変えると、得られる情報や経験も変わります。相手の話を最後まで聞けば、途中で遮っていたときには分からなかった事情に触れられます。自分から声をかければ、黙っていたときには得られなかった返事が返ってきます。その経験が、次の場面をどう予想するか、相手をどう見るかに影響する余地が生まれます。
感情を抑えるだけでは足りないときは「捉え方」も見直す
感情が出た後の振る舞いを整えることと、出来事の受け取り方を変えることは別です。1998年の感情研究では、不快な映像を見たときに表情を抑えるよう頼んだ条件より、映像の捉え方を変えるよう頼んだ条件のほうが、本人の不快感まで弱まったと報告されています。これはその場の感情の変化を調べたもので、性格の長期的な変化とは区別する必要がありますが、感じ方に働きかける手がかりになります。
日常では、腹が立ったときに「相手が自分を軽く扱っている」と決めつける前に、何が起きているかを確認する余地を作ります。資料が遅れた例でいえば、報告がなかったことは問題でも、相手にも遅れた理由があったと分かれば、怒りの強さが変わるかもしれません。最初は言葉を選ぶのに苦労しても、次第に出来事を受け取る段階で別の可能性も考えるようになることがあります。
ただし、腹が立つこと自体を否定する必要はありません。一度は腹が立った、でも事情を聞いて考え直せた、帰宅してから何時間も引きずらずに済んだ。そうした変化も、自分が求めていた楽さの一部として数えてよいでしょう。
「本当の自分」をどちらに置くか
意識して振る舞う自分を偽物のように感じることがあるかもしれません。普段の自分ならこんなことはしない、無理をして別の人を演じている気がする、と。しかし、最初に湧いた反応だけが本物とは限りません。
たとえば、反論されて言い返したくなったとします。同時に、相手の話をきちんと聞ける人でありたいとも思っています。最初の苛立ちも自分の中にありますが、相手を尊重したいという願いも自分の中にあります。長く続けてきた反応には慣れがあるだけで、それを自分自身が気に入っているとは限りません。
照れながら誰かの良かったところを伝えたとき、普段よりぎこちなくても、そこにはその人が大切にしたいものが現れています。慣れている反応と、大切にしたい反応のどちらを育てたいかを選ぶことができます。
また、他人の目に都合の良い性格と、自分が生きたい人生に合う性格は区別しておきたいところです。初対面で一言話せるようになりたいのか、少人数の集まりを毎週楽しみたいのかでは、目標がかなり違います。人と気軽に話せるようになりながら、一人で過ごす時間も大切にしていい。相手を思いやりながら、引き受けられない頼みは断ってもいい。自分に必要な部分を見極めることが、変化の方向を決めます。
行動の繰り返しが人柄を形づくるという見方
哲学者のアリストテレスは、建築をすることで建築の技術が身につき、楽器を弾くことで演奏が身につくように、正しい行為や勇敢な行為を重ねることで人柄も形づくられると考えました。何を喜び、何を苦痛に感じるかも人柄に関わる重要な問題として扱っています。行動を繰り返すことで、その行動に対する感じ方も育っていくという発想です。
ただしアリストテレスは、行為の中身に加えて、それを選ぶ理由も重視しました。自分が何をしているかを理解していること、その行為自体に価値を認めて選ぶこと、選び方が安定していることです。最初は穏やかな人に見られたいから相手の事情を聞いていたとしても、聞いて良かったと思う経験が重なると、理解してから判断すること自体に価値を見いだせるようになるかもしれません。性格変化を外側の演技ではなく、自分の選択として育てる視点です。
まとめ:完璧を目指さず、生きやすくなる部分から試す
性格は一気に変わるものではありません。小さな行動を選び、振り返り、捉え方を見直すことを重ねることで、自分や周囲から見た傾向が少しずつ動く可能性があります。変化の速度や範囲には個人差があり、誰にでも同じ結果が出るわけではありません。
合わないと感じたら、課題を小さくする、時間帯を変える、別の行動に替えるなど調整します。最初の反応を否定せず、育てたい反応を一つ選ぶ。完璧な性格を目指すより、自分が生きやすくなる部分から試すのが現実的です。