たとえば、カフェのテラス席で本を読んでいる人がいるとする。散歩中の犬がふと足を止め、その人の足元にすり寄っていく。高い声を出しているわけでも、おやつを差し出しているわけでもない。ただ静かに座っているだけなのに、犬のほうから距離を詰めてくる。こうした光景を見ると、つい「動物に好かれる特別なオーラがあるんだ」と思いたくなる。けれど、少し観察してみると、そこには説明できる振る舞いの傾向がある。
犬が読み取っているのは、言葉の前の身体の状態
犬は言葉を持たない代わりに、人間の呼吸の深さや筋肉の緊張、視線の配り方といった非言語のサインを細かく拾っている。動物行動学や心理学の考え方では、犬の自律神経は周囲の生物の神経系と同調しやすいとされる。たとえば、浅く速い呼吸をしていたり、無意識に足を揺らしていたりする人のそばでは、犬の警戒心が高まりやすい。反対に、肩の力が抜け、呼吸が深く整っている人のそばでは、犬自身の心拍や呼吸も落ち着いていく。
ここで大事なのは、犬が反応しているのは「優しそうな顔」や「動物好きの雰囲気」ではなく、身体からにじみ出る緊張の有無だということだ。言葉でいくら「大丈夫だよ」と伝えても、身体がこわばっていれば、その矛盾は犬に伝わってしまう。