大きな買い物や外注先選びで、見積もりの安さについ目が行くことは多い。しかし、価格の安さの裏で何が省かれているのかを確かめないと、後から時間も安全も失うことになりかねない。ベトナムで同時期に進められた二つの都市鉄道建設は、その判断材料になる。
渋滞と排気ガスを減らすため、二つの国に依頼
2008年頃のベトナムでは、都市部にバイクが集中し、渋滞と排気ガスによる環境汚染が深刻だった。政府は都市鉄道の整備を決め、鉄道技術を持つ国へ工事を依頼することにした。検討の結果、中国の企業連合と日本の企業が、それぞれ別の路線を担当することになった。
中国側が提示した当初の工事費は、日本より大幅に安いとされた。ベトナム政府は予算を抑えたい事情もあり、安さを評価して中国側にも任せる判断をした。
中国側の路線で起きたこと
ところが、中国側の路線は着工までに3年かかった。土地収用の遅れが理由とされたが、その後も予算の増額が後から提示された。工事が始まると、現場の下を通行していた車や歩行者に資材が落下する事故が起き、死傷者が出た。同じ場所で1か月後に足場が崩落し、タクシーの乗員が負傷する事故もあった。
再開後も、工事現場から流出した油でバイクが転倒する事故や、鉄鉱が落下して車に当たる事故が続いた。調査では、線路の一部に保護塗料が塗られておらず、錆や緩みが進行していることが分かった。安全点検のリストも詳細なものが用意されておらず、開業までにさらに時間がかかった。
安い見積もりの背景には、安全管理や点検の手間が省かれている可能性があった。価格の安さは、事故が起きてからでは取り返せない負担につながることがある。
日本側の路線で起きたこと
一方、日本側が担当した路線も工事は遅れた。ただし、日本側の説明では、遅れの主な原因はベトナム側の当初予算が実態より大幅に少なかったことにあるとされた。当初1200億円程度と見積もられていた予算は、実際には2360億円程度かかると日本側が指摘し、その差が工程に影響したという。
日本側は安全面を重視し、予算不足を早い段階で伝えていた。事故の報告は中国側ほど多くはなく、工事の進め方に一定の差があった。ただし、日本側の工事がすべて順調だったわけではなく、遅れによって市民の不満が高まった面もある。
安さの理由を確かめる習慣
この事例から言えるのは、価格の安さだけを理由に選ぶと、後から安全や時間のコストが上乗せされることがあるという点だ。安い選択が常に悪いわけではないが、なぜ安いのかを確認しないまま決めると、想定外の負担を引き受けることになる。
見積もりを比べるときの確認点
- 内訳に安全管理や点検費用が含まれているか
- 過去の実績や事故・トラブルの有無
- 予算が足りないと分かったとき、早めに伝えてくれるか
これらの点を確認すると、安さの理由が「効率化」なのか「省略」なのかを見分けやすくなる。ベトナムの事例では、中国側の安さの一部は点検や保護塗料の省略と重なっていた。日本側は予算不足を指摘したことで工事は遅れたが、安全面の手間を省かなかった。
もちろん、安い選択がすべて危険というわけではない。小規模な作業や緊急性が低いものなら、安さを優先しても問題ない場合もある。大切なのは、後から取り返しのつかない事故や大きな出費につながる場面では、安さの理由を必ず確かめることだ。