安さは品質への不安を消すのではなく、黙らせる
商品には、買う前に分かるものと、使ってみないと分からないものがあります。ネット通販では、その多くが使ってみないと分からない側に寄ります。丁寧に作った商品も、見える部分だけ整えた商品も、画面上では同じように並びます。しかも後者のほうが安いことが多い。そこで「失敗してもこの値段ならいいか」という感覚が生まれます。
この感覚は、安さが品質への不安を消しているのではなく、不安を一時的に黙らせているにすぎません。経済学の「レモン市場」という考え方では、売り手と買い手の情報格差があると、買い手は外れを引く可能性を考えて高い価格を払いたがらなくなり、真面目に品質を作った商品が不利になります。品質の差が伝わらないなら、ただ高く見えるからです。一方、見える部分だけ整えて安く売る商品は有利になります。こうして悪いものが良いものを追い出していく構造が生まれます。
また、同じ価値として扱われるなら価値の低い貨幣ばかりが残る、という「悪貨は良貨を駆逐する」考え方をネット通販に当てはめることもできます。高品質の商品は見えない部分にコストをかけていますが、その良さが買う前に伝わらなければ、ただ高い商品に見えます。低品質の商品は見えない部分を削って安くできるため、画面上ではお得に見え、高品質の商品が割高に見えてしまうのです。
商品に不満があっても、ネット通販では「もう買わない」という退出が簡単です。安かったから文句を言う手間のほうが高く感じられ、不満が市場に十分伝わりません。売り手は商品ページを変え、似た商品を出してまた売ることができます。退出が簡単すぎる市場では、品質改善の圧力も弱くなります。
もちろん、安い商品がすべて悪いわけでも、高い商品がすべて良いわけでもありません。問題は、品質が見えにくい市場で安さだけが強くなりすぎることです。
買う前にできる小さな確認の習慣
すべての情報を調べ尽くす必要はありません。負担を減らしながら、品質を見えにくくする仕組みに対処するには、次のような順番で試すのが現実的です。
- 「これだけは確認する」項目を一つ決める。素材、寸法、重量、原産国、販売者情報など、自分が失敗しやすいポイントを一つ選び、買う前に必ず確認します。全部を調べようとすると続かないため、一つに絞ります。
- 低評価レビューから先に読む。高評価は宣伝やサクラの可能性もありますが、低評価には具体的な不満が残りやすい傾向があります。特に「写真と違う」「すぐ壊れた」という指摘を確認します。
- 価格以外の情報を先に見る。商品ページを開いたら、まず価格ではなく、素材や寸法、返品条件、販売者名を確認します。価格を後回しにするだけで、判断の順序が変わります。
- 使う場面を具体的に想像する。何回使うか、どこに置くか、壊れたらどうするかを頭の中で一度描きます。衝動買いを抑える小さな手間になります。
- 「後払いのコスト」を考える。安くても、すぐ壊れて買い直したり、返品や問い合わせに時間を取られたりするなら、その手間は商品価格に含まれていません。安さで不安を打ち消さず、後から払う時間と手間を想像します。
調べるのが面倒に感じるときは、実店舗で一度触れる、信頼できる店やブランドに絞る、返品しやすい通販サイトを選ぶ、といった代案もあります。完璧を目指さず、できる範囲で一つだけ取り入れるのが続けやすい方法です。
低品質のコストは消えない
低品質の商品は、安いのではなく、売り手が処理しなかったコストを買い手の時間や社会の廃棄に後払いさせている面があります。すぐ壊れる、捨てる、買い直す、調べ直す、問い合わせる。これらの手間は商品の価格には入っていません。だから「安かったから仕方ない」の積み重ねが、市場全体を低品質側へ押し流していくことにつながります。
ネット通販は便利です。しかし便利さは中立ではありません。買いやすさは良い商品だけでなく悪い商品も買いやすくし、探しやすさは悪い商品も見つけやすくします。安さは消費者を助ける一方で、品質への疑いを鈍らせる面もあります。だからこそ、画面の中の記号だけで判断せず、見えない部分に目を向ける小さな習慣が役に立ちます。まずは、次に買う予定の商品で「これだけは確認する」項目を一つ決めてみるのが始めやすい方法です。