「最近の子は根性がない」——部活離れをそう感じる人は少なくありません。けれど、示されていたデータを並べてみると、この現象は気合いや性格の問題として片づけられないことが見えてきます。生徒の側には暑さへの具体的な恐怖があり、教える側には休めない働き方があります。そして部活という仕組みそのものが、持続しにくくなっている。順番に見ていきます。
希望する部活の1位は「帰宅部」
Z世代の10〜24歳、391人を対象にした2023年の調査として、入りたい部活の1位が「帰宅部」だったという結果が紹介されていました。2位バスケットボール、3位サッカーを抑えての1位で、しかも2年連続です。
理由として多かったのは「早く帰れる」「勉強に集中できる」「趣味を優先したい」。ここで大切なのは、これを「逃げ」と読むか「選択」と読むかです。放課後を自分の時間として使うことは、今の子どもたちにとって自己投資の時間になっています。
実際の部員数でも野球は7位に
希望だけでなく、実際の加入者数も変わってきています。中学生の部員数では、1位がソフトテニスで男女合わせて約30万人、2位バスケットボール、3位に卓球(女子だけで約16万3000人)が続き、野球は7位まで下がったという全国調査が示されていました。15年前は圧倒的な1位だったことを考えると、変化の大きさが分かります。
「日焼けしたくない」だけではなかった
屋外スポーツが敬遠される理由として、熱中症の危険が挙げられていました。ここは少し丁寧に見ておきたいところです。
学校管理下の熱中症死亡、その多くが部活中
1975年から2017年までの学校管理下の事故をまとめたデータとして、熱中症による死亡が170人、そのうち146人が部活中だったという数字が紹介されていました。男女別では男子が159人と9割以上を占め、学年別では高校1年が67人で最も多く、高校2年の41人と合わせると6割に達します。種目別では野球37人、ラグビー17人、柔道16人、サッカー14人、剣道11人と続きます。
数字だけを見ると重いですが、近年は対策も進んでいます。2025年7月に公表された報告書では、部活などでの水分補給率が98.9%に達し、活動時間の変更も45.2%で実施されているという実態が示されていました。現場が動いていることは、ちゃんと数字にも表れています。
暑さの基準そのものが変わった
昔と今で何が違うのか。気象庁の観測として、25年前と比べて夏の平均気温が約1〜2度上がったこと、地域によっては50年で4度上昇した例(金沢)が挙げられていました。加えて、舗装された地面が昼の熱を夜まで抱えるヒートアイランド現象、汗が蒸発しにくくなる湿度の上昇も重なっています。
危険度を示す指標としてWBGT(暑さ指数)があります。気温・湿度・輻射熱を組み合わせた数値で、28〜31で「厳重警戒」、31以上は運動中止が目安とされます。屋内でも6月に28以上が観測された施設があったといい、「外だから危ない、中なら大丈夫」とは言い切れません。
実際、気温24.4度・湿度52%という一見穏やかな条件で、野球の練習中に亡くなった事例も紹介されていました。雨の日の試合、日陰のない場所での待機、帰宅中の事故も起きています。暑さは気温だけで測れない、という点は覚えておいて損はありません。
支える側も限界に近づいている
部活を続けるかどうかは、生徒だけで決められる問題ではありません。文部科学省の調査として、中学教員の約7割が休日も部活対応をしていたという数字が示されていました。平日は朝練と放課後、土日は大会や練習試合、帰宅後は教材準備。睡眠が4〜5時間という生活が続けば、心身が削られていくのは当然です。
ここで誤解したくないのは、これは「先生が甘えた」という話ではないということです。制度の側が、一人の人間が背負える量を超えてしまっている。そう読むほうが自然です。
神戸市の決断と、地域クラブという選択肢
こうした状況を受けて、神戸市は2026年8月末で市内82校すべての部活を終了する方針を示したと紹介されていました。影響を受ける生徒は約3万人。平日も含めて完全に地域へ移行するのは政令指定都市では初めてだとされます。
代わりになるのが、地域クラブ活動です。学校の枠を超えて指導者を選べること、学校外の友達ができやすいこと、釣りや料理、プログラミングなど学校にはない活動を選べることが利点として挙げられていました。一方で、費用の負担、習い事が少ない地域、移動手段がない子にとっては参加しにくいという課題も残ります。運営団体には年度ごとの更新登録や、指導者への研修が求められるなど、準備の手間も小さくありません。
それでも「部活でしか得られないもの」はある
最後の大会で何百個もおにぎりを作った保護者の話、一緒に泣いた仲間の記憶。効率では測れない価値があると感じている人も多いはずです。それは事実でしょう。ただ、その価値を守るために誰かの睡眠や家庭が削られてきたのだとしたら、そのまま続けることは難しくなります。熱意と犠牲は、似ているようで別のものです。
どう向き合えばいいか
仮に、あなたが「子どもに部活を続けさせたい」と悩んでいる親の立場なら、次のような順序が考えられます。
- 活動前にWBGTを確認する習慣をつける(31以上は運動中止が目安)
- 暑い時間帯を避ける練習日程に変えられるか、顧問や部の運営に相談する
- 地域クラブなど、学校以外の選択肢を一度調べてみる
- 「やめたい」と言われたときに、根性ではなく理由を聞く
これは提案であって、すべての家庭や学校に当てはまるものではありません。地域に代替の活動がない、費用が難しい、そもそも相談できる相手がいない、という場合もあるでしょう。そのときは、無理に結論を出さず、学校外の相談先を頼ることも選択肢のひとつです。
逆に、危険を承知で挑戦したいという気持ちを否定する必要もありません。大切なのは、熱意を「我慢の量」で測らないことです。
まとめ
部活離れは、根性がなくなった証拠でも、世代が弱くなった証拠でもありません。暑さの基準が変わり、教員の余力が減り、放課後の使い方に別の選択肢が生まれた。その結果として起きている変化です。だからこそ、これから必要なのは「昔はこうだった」を比べることではなく、今の条件で何を残し、何を手放すかを一つずつ決めていくことなのだと思います。