朝、体重計に乗ると、三週間前と同じ数字が表示される。食事も歩く時間も変えていないのに、目盛りだけが動かない。そんな朝が続くと、体の内側で何も進んでいないように感じる。けれど、体重計が示しているのは合計の重さだけ。その数字の裏で、内臓脂肪や筋肉が入れ替わっていることもある。
体重が減らなくなると、お腹の奥で何が起きているのか。ここでは、数字が止まったときに見えにくくなる体の変化と、その見分け方について整理する。
体重が止まるのは「水分」「体の節約」「食事の小さな緩み」
体重計の数字を旅行用のスーツケースに例えると分かりやすい。測りに乗せて出てくるのは合計の重さだけで、中に厚手のセーターが入っているのか、湿ったタオルが入っているのかは分からない。体でいえば、脂肪はかさばるセーター、筋肉はずっしり重い缶詰、水分は乾いたり湿ったりするタオルに当たる。
数字が止まる理由の一つは水分だ。糖質を蓄えるとき、体は水分も一緒にため込みやすい。塩気の多い夕食の翌朝や、ご飯が多めの日は、脂肪が減っていても水分の分だけ合計が隠れてしまうことがある。
もう一つは体の節約だ。体重が軽くなると、同じ道を歩いても使う力は少しずつ小さくなる。さらに、減った体重を戻そうとエネルギー消費を絞り、空腹感を強める方向に働くという指摘もある。これは自然な反応で、意思の弱さとは限らない。
そして三つ目が、食べる量の小さな戻りだ。計算をもとにした研究では、かなりきちんと続けている人でも、間食やお代わりが少しずつ増えるだけで半年ほどで減りが止まる形になるという。ただし、これは実際に一人ひとりを測った結果ではなく、記録から組み立てた計算の模型として示されている。
体重が止まっていても内臓脂肪は減ることがある
体重を変えないように運動し、その分だけ食べる量を増やした人たちを調べた試験がある。太った男性52人を対象にしたカナダの研究では、3か月後の体重はほとんど変わらなかった。ところが画像で確認すると、お腹の脂肪と内臓脂肪ははっきり減っていた。体重が同じままでも、内側のポケットだけが軽くなっていたことになる。
オーストラリアの研究では、運動不足の太った男女19人が4週間自転車をこぎ、体重は変わらないまま内臓脂肪が約12%、肝臓の脂肪が約21%減ったと報告されている。運動と食事の研究117本、4800人分をまとめた分析でも、体重が減らなかった場合、運動をした群では内臓脂肪が約6%減っていた。一方、食事を控えただけで体重が減らなかった場合は約1%にとどまった。
つまり、体を動かしていれば、体重計の数字が止まっている間も内臓脂肪は減り続けている可能性がある。ただし、食事だけで止まっている場合は、内側もあまり動いていないと考えたほうが安全だ。また、これらの研究の多くは太った人を対象としており、日本人の50代以上で同じ幅の変化になるかはまだ確かめられていない。
ベルトの穴が一つ内側になったら、それは止まっているのではない
体重が同じなのにベルトが緩むことがある。カナダの別の研究では、男性24人が13週間、週5回1時間の運動を続けた。食事は減らさず、体重はどの群でも変わらなかったが、全身の脂肪、お腹の皮下脂肪、内臓脂肪は減り、筋肉は増えていた。脂肪が出ていき、筋肉が入ってきた状態だ。
同じ重さなら脂肪のほうがかさばる。セーターを出して缶詰を入れれば、スーツケースの重さは同じでも蓋は楽に閉まる。体重計の数字が動かなくても、腹囲が減っているなら、それは中身が入れ替わっている良い合図と受け取ってよい。
腹筋を足してもお腹の脂肪だけ先に減るわけではない
数字が止まると、腹筋を足したくなる人もいる。しかし、部分やせを狙う近道にはなりにくい。アメリカで24人が6週間、腹筋運動を続けた試験では、お腹の筋肉の力は伸びたものの、体重もお腹の脂肪も腹囲も、運動しなかった群と差がなかった。片方の足だけを12週間鍛えた若い人たちの研究でも、脂肪は腕や胴体から減り、鍛えた足の脂肪ははっきりとは減らなかった。
筋肉が使う脂肪は、そのすぐ上にある脂肪ではなく、血液に乗って全身から集まってくる。腹筋は姿勢を支える役割があるが、腰が痛む人は無理をせず、歩く時間を伸ばすほうが先になる。
止まったらまず測るのは体重より腹囲
体重計が教えてくれない内側の変化は、腹囲である程度外から映し出すことができる。日本の基準では、おへその高さの腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上だと、お腹の奥の内臓脂肪が基準を超えている目安とされる。身長の半分より小さく保つという目安もあり、身長170cmなら85cmになる。
測るときは、朝立ったまま軽く息を吐き、おへその高さをぐるりと一周する。体重計の横にメジャーを置き、毎週決まった曜日の朝に測ると変化が見えやすい。体重と腹囲を並べて記録しておけば、合計の数字の裏で起きている入れ替わりに気づける。
見直す合図は、体重も腹囲も数週間そろって動かないときだ。まずは間食や晩酌のつまみ、ご飯のお代わりなど、口に入れたものを1週間だけ書き出してみる。同時に、体を動かす時間が減っていないかも確かめる。反対に、体重が止まっていても腹囲が少しずつ減っているなら、今のやり方で続けてよい。
数字を動かそうと食事をさらに大きく削るのは避けたい。体の節約が強まり、筋肉まで一緒に減りやすくなるからだ。65歳を過ぎた人や元々痩せ型の人は、体重を減らすことより筋肉を守ることを優先したほうが安全な場合もある。
体重計の数字は、旅の途中で見る合計の重さにすぎない。止まって見える日々の裏で、内臓脂肪が減り、筋肉が増えていることもある。次に数字が動かない朝が来たら、腹囲というもう一つの目盛りに目を向けてみる。すると、止まっていると思っていた体の内側が、実は静かに入れ替わっていることに気づけるかもしれない。