芥川賞作家であり漫才師でもある又吉直樹氏が、金銭の貸し借りについて語った言葉には、人間関係の機微を突く鋭い洞察が込められている。「お金は貸してはいけない」──この一言の裏には、単なる損得勘定を超えた、当事者双方への深い配慮がある。
お金を貸してはいけない──その理由
困窮時の「名演技」に騙されない
又吉氏はこう語る。「お金に困ってる時の人ってプロの役者が歯が立たへんぐらいの芝居売ってきますから」。切実な表情、誠実さを装った言葉、心配になるような顔つき。それらは嘘ではないかもしれないが、借りた後の行動で裏切られることが多々あるという。実際に30万円を貸した際、相手は「次の月から毎月2万円ずつ絶対返します」と名演技を見せたが、約束は守られなかった。
約束は守られず、関係は崩れる
返済が滞ると、温度感が変わる。「最速しようもならなんてひどいやつなんだみたいな。こっちこんなしんどいのにみたいな。そこまで言わんでええやんみたいな」。頭を下げていた相手は姿を消し、「あれ芝居やったんかな」と気づかされる。金銭の貸し借りは、信頼関係を試す装置となり、往々にしてその関係を破綻させる。
貸さないことが、相手のためになる
「貸したお金が返さない方がいいっていうのも、ま、あるっちゃあるんですけど、それよりもやっぱね、相手のためにならないんですよね」。又吉氏は長期的な視点で語る。安易な貸し付けは、借りる側が自立するタイミングを奪い、依存体質を助長する。「変わるタイミング失ってるというか、借りる側をモンスターにしてるのは貸す側かもしれない」。厳しく見える拒絶こそが、相手の人生を思う真の優しさなのかもしれない。
金銭の貸し借りは、金額の大小に関わらず人間関係の質を変えてしまう。断る勇気を持つことが、自分も相手も守る道になる場合がある。