スーパーの惣菜コーナーから、唐揚げ弁当のような定番商品が姿を消す。代わりに棚を占めるのは、大きなおにぎりや「具のない麺」、そして冷凍食品です。この変化は、原材料費の上昇と、買う側の選び方が同時に動いた結果だと考えられます。ここでは、惣菜売り場で何が起きているのかを整理し、その変化が日々の買い物と心にどんな負担を残すのかを考えます。
定番だった唐揚げ弁当が棚から消えるまで
唐揚げ弁当が作られなくなる背景には、材料の値上がりがあります。鶏肉、揚げ油、パック容器、電気代、人件費。どれか一つではなく、ほぼ全部が同時に上がりました。帝国データバンクの調べとして、2025年1月から4月だけで約4000品目、平均17%の値上げが実施されたという数字が挙げられています。
惣菜は、値上げがそのまま価格に乗せにくい商品です。500円を超えると手が伸びにくくなる、という感覚が多くの人にあるからです。だから価格を据え置くと、売るたびに利益が削られていきます。作り続けるほど苦しくなる。唐揚げ弁当が消えたのは、味や人気の問題ではなく、この構造の中での判断だったと考えられます。
一方で、単品の唐揚げは残りました。4個入り460円。頻度は減っても、少し特別な日に買う人が一定数いるためです。惣菜は「毎日の主食」と「たまのご褒美」に分かれ始めている、と見ることができます。
価格はそのまま、中身が減るという値上げ
値段を変えずに内容量を減らす方法も広がっています。たとえば、420グラムあった弁当が340グラムになる。コロッケが4個から2個になる。ご飯の量が減り、付け合わせが消える。数字だけを見ると価格は同じなので、値上げという実感が持ちにくい形です。
この方法は、消費者にわかりにくいという批判を受けることがあります。ただし、惣菜を作る側にも、価格を上げて売れなくなるリスクを避けたい事情があります。どちらが正しいという話ではなく、値上げの痛みをどこで受け取るかの違いです。
買う側にとって大切なのは、量が減ったことに気づいたときの感情です。「だまされた」と感じて腹が立つこともありますし、「仕方ない」とやり過ごすこともあります。どちらの反応も自然なものです。ただ、その小さな違和感が積み重なると、買い物そのものが少しずつ疲れる作業になっていきます。
おにぎりと「麺だけ」が選ばれる理由
日本惣菜協会の調査として、首都圏では購入頻度の高い品目でおにぎりが弁当を抜いて1位になったという結果が紹介されています。地方ではまだ弁当が1位とされ、地域差も見えます。
おにぎりが支持される理由は、おおまかに三つ挙げられます。一つ目は価格の低さ。二つ目は満腹感が得られる量があること。三つ目は価格が比較的安定していることです。弁当は材料費の影響を受けやすいのですが、おにぎりや麺類は価格が動きにくいという特徴があります。
同じ流れの中にあるのが、具の入っていない麺類です。焼きそば298円、麺は350グラム、入っているのはソースだけ。ナポリタンも同じく具なしで、ケチャップベースのソースと麺だけ。野菜も肉も入っていません。それでも売れているのは、量と価格のバランスが優先されているからだと考えられます。
味より量を選ぶ人が増えている、という調査結果も挙げられていました。2022年には30%程度だったのが、2024年には58%になったとされます。数字の信頼度はさておき、選ぶ基準が「おいしさ」から「満腹と価格」へ移っている流れは、売り場の並びからも感じ取れます。
冷凍食品が支持を集める背景
冷凍食品の売上は伸びています。日本冷凍食品協会の発表として、2024年度の売上高が前年比1.6%増で過去最高を記録したという数字が挙げられていました。特に米の供給が不安定になった時期以降、焼きおにぎりやピラフのような冷凍の主食が売れたとされています。
冷凍食品が選ばれる理由は、価格の安定と保存のしやすさです。惣菜は原材料の値段が動くたびに価格を見直さなければなりませんが、冷凍食品は同じ価格で出し続けやすい。賞味期限も長く、食べたいときに食べられます。
ここで起きているのは、単なる節約ではなく、買い物の設計の変化です。「今日安いものを買う」から「安いときに買って、あとで食べる」へ。ただし、この変化もまた、冷蔵庫や保管場所といった家庭の条件に左右されます。すべての人に同じ方法が合うわけではありません。
節約が心に残す、小さな疲れ
値上げが続く中で、買い物は判断の連続になります。この商品は先週より高い、あっちの方が量が多い、値引きシールは何時ごろ貼られるのか。一つひとつは小さな判断でも、毎日続くと消耗します。
値引きシールに関する意識調査として、値引きシールの貼られた食品を「よく買う」「たまに買う」と答えた人が9割を超えたという数字も挙げられていました。値引きを待つことが当たり前になり、閉店間際の売り場が静かな競争の場になる。そこにいる人たちの表情が真剣なのは、それが生活そのものだからです。
大切なのは、この疲れを「意志が弱いから」とか「工夫が足りないから」と捉えないことです。物価の変化は個人の努力で変えられるものではありません。買い物のたびに感じる小さな重さは、環境の変化に対する自然な反応だと考えられます。
なお、家計や食事への不安が強く、眠りにくさや気分の落ち込みが続く場合には、かかりつけ医や相談窓口を頼るという選択肢もあります。ひとりで抱える必要はありません。
炭水化物に偏りやすくなる、という代償
価格を優先した結果、食事の中身が炭水化物に寄りやすくなるという指摘もあります。厚生労働省の令和5年調査として、日本人男性の肥満者の割合が31.5%で、この10年間に増加傾向にあるという数字が挙げられていました。野菜摂取量の平均も256グラムで、目標とされる350グラムを大きく下回っているとされます。
麺だけ、おにぎりだけ、という食事が続くと、たんぱく質やビタミンが不足しやすくなります。これは体型の問題というより、体のだるさや集中力の低下として現れることもあります。ただし、どの程度影響が出るかは年齢や生活習慣によって異なります。数字だけで自分を決めつける必要はありません。
今日の買い物で試せる小さな工夫
ここからは提案です。効果を保証するものではありませんが、選び方の一つとして参考にしてください。
- 惣菜を買うとき、主食・たんぱく質・野菜のうち一つだけ足す。全部そろえようとすると、かえって負担になります。
- 冷凍野菜やカット野菜、卵、納豆、豆腐、缶詰の魚などを、常備品として一つだけ置いておく。
- 量が減った弁当を選ぶなら、単品のおかずを一つ足す方が満足できることがあります。
- 値引きの時間を追いかけるのがつらい日は、あえて時間をずらして買い物に行く。
合わない条件もあります。仕事や育児で時間が取れない、調理が難しい、予算が厳しいという場合は、無理に整えようとしない方が続きます。買い物の回数を減らす、冷凍食品を中心にする、といった選び方も同じくらい有効です。
惣菜売り場の変化は、値上げという経済の話であると同時に、毎日の選択が心に積み重なる話でもあります。すべてを整えることはできなくても、自分が何を優先したいのかを知っておくことは、買い物の疲れを少し軽くする助けになるかもしれません。