押入れの奥に、四角くて少しへこんだ菓子缶がありませんか。開けると写真でいっぱい。並んでもいなければ年代順でもない。同じ場面が何枚も重なり、裏に鉛筆で日付が書いてあるものも混じっている。あの缶を何十年も開けていないなら、写真は「見るため」ではなく「取っておくため」に置かれていることになります。
写真を減らすのは、思い出を減らすことではありません。むしろ逆です。3000枚あるとどれも見ません。40枚なら時々開きます。見るために減らす。その順番を、負担の少ないところから整理していきます。
まずは全体の枚数を数える
いきなり1枚ずつ分ける前に、家中の写真を一箇所に集めます。缶、紙袋、引き出し、本棚のアルバム、仏壇の箱まで全部です。正確でなくていいので、およその枚数を出します。アルバム1冊を200枚、缶1つを300枚と見当をつけて足していくと、多くの家で3000枚を超えます。
1枚3秒で見たとして、3000枚なら2時間半かかります。途中で休まず黙って見続けて2時間半です。そんな時間をこの先取ることはあるでしょうか。私たちは「いつか見るため」に取っているつもりで、実際には見ない場所に置いています。まずそこを認めると、後の作業が楽になります。
集めるときに、ざっと年代で分けておくのも有効です。細かく分ける必要はありません。「子どもが生まれる前」「子どもが小さい頃」「子どもが家を出た後」の3つくらいで十分です。同じ時期のものが並ぶと、似た写真が重なっているのが一目で分かります。
迷わず手放していい写真は3つ
写真整理で失敗するのは、たいてい一番つらいところから始めてしまうときです。亡くなった方の写真の束を最初に開けると、そこで1日が終わり、また押入れに戻ります。そうならないために、痛みのないところから手をつけます。迷わず手放していい写真は次の3つです。
- 映っている人が誰だか分からない写真:親戚の集まりで端に写っている知らない方。誰にも説明できません。
- 同じ場面が他にもある写真:昔はフィルムを使い切るために同じ景色を何枚も撮りました。5枚あれば一番良い1枚だけ残します。
- 人が全く映っていない写真:旅先の看板、ホテルの部屋、食事の皿、建物の外観。撮ったときは意味があっても、20年経つと場所の記録にしかなりません。
この3つを抜くだけで、多くの場合半分近くが減ります。しかも痛みがありません。痛みがないというのが大事なところです。優しいところから手をつけて、手が慣れてから重いところへ。順番だけの問題です。
似た写真とブレた写真は「残す1枚」を選ぶ
フィルムの頃は1本撮り切らないと出せなかったため、必ずあまりが出ます。足元を撮った1枚、ブレて何だか分からない1枚、現像したら誰も映っていなかった1枚。それが全部缶の中に入っています。
ここでのコツは、良い写真を探そうとしないことです。残す1枚を決めて、他を置いていく。残す方を選ぶのです。目が合っているもの、笑っているもの、全身が映っているもの。この3つのどれかに当てはまれば、それが残す1枚です。10秒で決めます。迷ったら2枚残して先に進みます。1枚に絞りきれないことに時間を使うくらいなら、2枚残した方がいい。8枚が2枚になっていれば十分です。完璧にやろうとすると必ず途中で止まるので、8割でいいと決めてください。
風景・建物・料理は人と一緒に写った1枚だけ残す
旅行のアルバムを開くと、半分以上がお寺の門、湖、ホテルの前の花壇、夕食の大皿です。その景色は今も同じ場所にあり、はるかにきれいな写真がいくらでも見られます。残す値打ちがあるのは、そこに自分たちが映っている1枚だけです。門の前で並んでいる写真、料理の向こうに笑っている顔がある写真。それだけ残して、景色そのものは置いていきます。旅行1回につき5枚か10枚あれば、旅は十分に残ります。
後で見返して話が弾むのは、門の写真ではなく、門の前で変な顔をしている1枚のほうです。同じことが子どもの運動会や発表会の写真にも言えます。遠くの舞台だけが映っていて、どこに自分の子がいるのか分からない1枚は、思い切って置いていって構いません。
どうしても手が止まる1枚が出てきたら、「これを誰かに見せたことがあるか」と自分に問う方法があります。見せたことがあるなら残します。誰かに説明したくなる写真は、物語のある写真だからです。見せたことが一度もなく、これからも見せる相手が思い浮かばないなら、それは自分にとっての1枚ではなかったと考える。冷たく聞こえるかもしれませんが、この質問を作ってから作業が随分早くなります。家族の写真はそれぞれ事情が違いますから、自分の物差しを作るのが一番です。
アルバムと置き場所を見直す
古い分厚いアルバムには、台に薄い膜が被せてあって、写真を置くとくっつく形のものがあります。あれは年数が経つと、写真が台に貼り付いて剥がれなくなります。無理に引くと表面が持っていかれて、顔のところだけ白くなります。台にくっついてしまった大切な写真ほど、温めたり濡らしたりする方法を自分で試さない方がいいでしょう。失敗すると表面が持っていかれます。
置き場所も重要です。写真とフィルムに悪いのは湿気です。カビは湿度が7割を超えるあたりから出やすくなり、一度出るとその部分は元に戻りません。熱と湿気が続くとフィルムは表面がべたつき、波打つように沿ってきます。押入れは夏は暑く、風が通らず、床に近い。日本の家の中で写真にとって一番悪い場所の一つです。できれば押入れではなく、人が過ごす部屋の戸棚の中へ。人がいて冷暖房が入り、時々空気が動く場所がいいのです。写真にとって居心地のいい場所は、人にとって居心地のいい場所と大体同じだと思ってください。
よその方の写真は見返す機会が少ない
学校の集合写真、いただいた年賀状についているお孫さんの写真、知り合いの結婚式でもらった1枚。これらは意外に多くの場所を取っていますが、残しても見返すことはまずありません。集合写真は、自分と家族が映っている年だけ残せば十分です。年賀状の写真は、その年の年賀状と一緒に処分していい種類のものです。ただ、そのまま捨てるのは気持ちが悪いという方も多いので、次のデータ化の話と合わせて考えると進めやすくなります。
データ化の落とし穴と安全な残し方
写真をデータにすれば安心、という考え方自体はいいことです。ただし「データにしたからもう大丈夫」で止まってしまうと、落とし穴があります。機械は前ぶれなく壊れます。紙の写真は少しずつ色が褪せていくので途中で気づけますが、機械の中の写真はある日いきなり全部まとめて消えます。保存した機械が古くなって繋ぐところが合わなくなる、どこに入れたか分からなくなる、預けた先の名前を忘れる、持ち主にしか開けないようになっていて家族が開けられない。こうした理由で、データにしたのに見られなくなることがあります。
データ化を頼むなら、次の3つまでやっておきます。
- 置き場所を2箇所にする:手元の機械に入れたら、別の場所にもう1箇所。片方が壊れてももう片方が残ります。
- どこに何があるかを紙に一行書いておく:大事な書類の封筒にその一行を入れておけば十分です。
- 本当に大切な数十枚は紙のままでも残す:100年前の写真が今も見られる一方で、15年前の機械に入れた写真はもう開けない方が多い。紙は機械より長持ちします。
料金の目安として、ある会社の例では、はがきサイズまでの1枚で38円ほど、きれいな細かさにすると76円ほど、アルバムの台紙を1ページ丸ごと取り込むやり方だと1ページ120円ほどです。仕上がりは2週間ほど、円盤に入れてもらうと880円ほど、小さな差し込みの記録装置だと1650円ほどという案内が出ています。会社によって違いますので目安として考えてください。台紙にくっついて剥がせない写真には、ページごと取り込むやり方が向いています。裏に書いた文字も一緒に残ります。
思い出の品は箱1つと決める
子どもの絵、文章、賞状、手紙、へその緒、大きくなった着物。これも同じ考え方でいきます。決まりは1つだけ作ってください。箱を1つと決めることです。その箱に入るだけ残す。入らなくなったら、新しく入れたいものと既に入っているものを比べて、どちらかを出す。箱を増やさない。これは窮屈に聞こえますが、実は逆です。箱が1つだと中身が全部大事なものになります。箱が5つあると、中身は全部なんとなくになります。
子どもの作品は全部は残せません。写真に撮ってから手放す方法が役立ちます。立体のものほど写真の方がよく残ります。粘土のものも工作も、年月が経つと崩れたり匂いが出たりします。形のあるうちに撮っておく方がきれいに残ります。子どもが独立しているなら、一度本人にいるかどうかを聞いてみるのも一つの手です。
写真整理は、思い出を捨てる作業ではありません。見たい1枚を、見つけられる場所に残す作業です。全部を完璧にやろうとせず、まずは誰だか分からない写真と、同じ場面の重複を抜くところから始めてみてください。それだけでも、缶を開けたときの重さが少し変わります。