生活が苦しいと答える世帯が増え、貧困率が高い水準にあると報じられています。これを「努力が足りない人が増えただけ」と説明するのは、かなり乱暴な話です。暮らしを支えてきた「柱」の本数そのものが、この40年で減っているからです。ただし、貧困の原因は一つではありません。ここでは、家計を支える支え手の数の変化という切り口から、何が起きているのかを整理します。
貧困率の上昇は「怠けた人が増えた」からなのか
先に短い答えを書いておきます。貧困率の上昇は、個人の努力量の変化だけでは説明できません。世帯の形と、世帯を支える収入源の数が変わったことの影響が大きいと考えられます。
参照した資料では、この変化は「柱が1本の家が増えた」という言い方で説明されていました。ここからは、その見方を手がかりにしながら、記事として補足していきます。なお、以下に挙げる数字は資料の中で紹介されていたもので、統計は調査の種類や年によって定義が変わります。正確な値は公的統計の一次情報で確認してください。
「大黒柱」という言葉が見えなくしているもの
「大黒柱」という言葉があります。家の中心になって支える人、という意味で使われます。けれど実際の家は、1本の柱だけで立っていたわけではありません。
たとえば、次のような支えが重なっていました。
- 本人の給与(毎年少しずつ上がり、家族手当がつくこともあった)
- 配偶者のパート収入
- 同居する祖父母の年金
- 持ち家であること(家賃という固定費がかからない)
- 祖母が担っていた炊事や看病などの無償の労働
- 近所の人、学校の先生、役所の窓口といった、家の外の支え
「父ちゃんが1人で家族を養った」という記憶は、多くの場合、こうした複数の支えを1本に見えてしまう形で残ります。数えてみると5本あった、というのはよくある話です。逆に言えば、その5本が同時に細っていけば、同じ努力をしていても暮らしは苦しくなります。
数字で見る「柱」の細り方
参照した資料では、次のような変化が示されていました。
- 単身世帯の割合は1986年の18.2%から、2025年には35.4%へ。3軒に1軒が1人暮らしという計算になります。
- 1世帯あたりの平均人数は3.22人から2.17人へ減少。
- 65歳以上の単身世帯は約128万世帯から約934万世帯へ増加。
- 3世代で住む世帯は1986年の44.8%から5.8%へ。
- 子どものいる世帯の貧困率は、大人が2人以上いる場合は6.7%、大人が1人の場合は44.7%。
- 相対的貧困率は1985年の12.0%から2024年には15.0%へ。ここでの貧困は、手取りが真ん中の人の半分に届かない暮らしを指し、単身なら年138万円ほどが目安になります。
- 雇われて働く人のうち、パートや派遣などの非正規の人は1990年の約2割から、2025年には36.5%へ。
世帯が小さくなり、収入源が細り、雇用も不安定になる。この3つが同時に進めば、家計が苦しくなる世帯が増えるのは不思議ではありません。誰かの性格や怠慢を探すより、支えの本数が減ったという見方のほうが、現実に合っているように思えます。
「助けてもらうのが上手」は性格ではなく技術
資料の中では、苦しい時期を乗り越えた人のことを「強かったからではなく、助けてもらうのが上手だった」と表現していました。この言い方は示唆的です。
誰かに寄りかかるには、実は技術が要ります。どこに頼める窓口があるのかを知る、断られるかもしれないと分かった上で声をかける、制度の条件を調べる。どれも、生まれつきの性格でできることではありません。経験の積み重ねで身につくものです。だから「頼れない人」は、能力がゼロなのではなく、使ったことがないだけ、という見方ができます。
ただし、頼れる相手がそもそも近くにいない、家族関係が複雑で頼りたくないという場合もあります。技術以前に選択肢が乏しいこともある、という点は補っておきます。
自分の家の「柱」を数えてみる
ここからは、記事として提案できる具体的な行動です。効果を保証するものではありませんが、判断の材料にはなるはずです。
収入だけでなく支えを書き出す
紙に、自分の暮らしを支えているものを書き出してみます。給与や年金といった現金収入だけでなく、家賃の有無、光熱費の負担、使える制度、手伝ってくれる人、地域のつながりも含めます。
仮の例として、手取り20万円、家賃7万円、仕送り3万円、光熱費と通信費で2万円という計算をしてみます。残るのは8万円です。この数字を見て「もっと削ろう」と考える前に、「増やせる柱はないか」「すでに使える制度はないか」を並べて考えるほうが、行き詰まりにくくなります。
相談先を先に知っておく
自治体の生活相談の窓口、社会福祉協議会の生活資金の貸付制度、高齢者の暮らしについては地域包括支援センター、入院や退院のときは病院の医療ソーシャルワーカーなど、分野ごとに相談先があります。何か起きてから探すより、元気なうちに名前だけでも知っておくと動きやすくなります。
合わない場合もある
制度の要件に当てはまらない、手続きの負担が大きい、家族との関係が複雑で使いたくないという場合もあります。合わないと感じたら、無理に使う必要はありません。別の窓口や、民間の相談先という選択肢もあります。
見落としたくないこと
単身世帯だからといって、必ず貧しくなるわけではありません。安定して暮らしている人は多くいます。世帯の形はあくまで一つの要因で、地域や健康状態、就労の条件によっても状況は大きく変わります。
また、お金の不安が続くと、眠れない、食欲がない、気力が湧かないといった状態が重なることがあります。そうした状態が続くときは、この記事で判断せず、医療機関や専門の相談先を頼ってください。ここで書いたことは診断や治療の代わりにはなりません。
柱は気合いでは太くならない
資料の中に「気合いで太くなるのはお腹だけ」というやりとりがありました。言い得て妙だと思います。1本の柱を太くしようと踏ん張るより、細くても複数の柱を用意する。家の外にも突っ張りを頼る。そのほうが、長い目で見て暮らしは持ちこたえます。
まずは、自分の家に何本の柱があるのかを数えるところから。そして、1本しかないと気づいたら、増やす方法を誰かと一緒に探す。それが、努力不足という言葉で自分や家族を責めるより、ずっと現実的な一歩になります。