使っていないから捨てる、だけでは測れないもの
押入れの奥に古いカセットコンロが入っていませんか。箱はへこみ、何十年も出していない。台所はIH、鍋も電気。だからこれはいらない。そう思って片づけの日に出すつもりでいるかもしれません。ただ、停電と断水の日には、この「古くて、場所を取り、普段使わないもの」が急に頼りになります。
片づけで狙われやすいものの条件は、古い、場所を取る、何十年も使っていない。災害のときに役立つものの条件も、古くてもいい、かさばる、普段は使わない。この二つはきれいに重なります。使っているか使っていないかだけで測ると、備えは必ず負けます。備えは使わないことが正常だからです。
ここでは買い足す話ではなく、すでに家にあるのに片づけで手放してしまいがちな道具を、水と火を中心に整理します。
カセットコンロとボンベは同じ場所に
電気が止まると、今の台所はほとんど動きません。IH、炊飯器、電子レンジ、電気ポット。ガス給湯器も電気で動く部分があるため、ガスが来ていても湯が出ないことがあります。そんなときに役立つのが、電池も電源もいらないカセットコンロです。ボンベを差してつまみを回すだけの単純さが、停電の日には強みになります。
お湯を沸かせると、温かいものが食べられ、粉ミルクが作れ、体を拭くお湯も用意できます。何より気持ちが落ち着きます。ボンベには使用期限の目安があり、製造からおよそ7年です。底や側面の日付を一度確認してください。保管は火のそばと直射日光を避け、押入れの下段でかまいません。
大切なのは、しまい込まず普段から使うことです。鍋をするときにカセットコンロを使い、そのたびにボンベを買い足せば、家にいつも新しいものがある状態になります。1本でおよそ1時間燃えるので、1日1時間使うと1週間で7本。3本入りの箱なら2〜3箱です。コンロとボンベは必ず同じ場所に置いてください。暗い中で別々に探すことにならないようにします。
石油ストーブは暖房だけの道具ではない
電気を使わない芯で燃やすタイプの石油ストーブは、大きくて重く、灯油のにおいもあり、片づけで手放されがちです。エアコンがあるからいらない、という判断ももっともです。ただ冬の停電では、暖が取れる家と取れない家の差は大きくなります。
このタイプのストーブは暖房だけの道具ではありません。上で湯が沸き、餅も焼け、洗濯物も乾かせます。停電した家の中で唯一の熱源になることもあります。電池で点火するタイプなら、点火に使う電池も一緒に置いておきます。灯油は1年を超えたものは使わないほうがよいとされています。色が変わっていたり酸っぱいにおいがしたら使わないでください。冬の間、普段から使って灯油を新しいまま保つのが現実的です。
使うときは、1時間に1度か2度、1〜2分程度の換気をしてください。寒いと締め切りたくなりますが、それが一番危険です。洗濯物はストーブの上に直接かけず、離して吊るしてください。すでに処分していて置き場所に余裕があるなら、小さめを1台だけ選ぶ方法もありますが、無理に買い足す必要はありません。
断水で足りなくなるのは飲まない水
水が止まったとき、最初に困るのは飲み水だと思われがちですが、実際は違います。飲み水は備蓄や配給で手に入ります。足りなくなるのは、手を洗う、顔を洗う、体を拭く、食器を洗う、トイレを流すといった「飲まない水」のほうです。こちらは量が必要で、しかも運ばなければなりません。
給水車が来たとき、ペットボトルでは何往復もすることになります。バケツなら一度に運べます。蓋つきならこぼれません。たらいがあれば、家の中で洗い物や体拭きを一箇所に集められます。古いやかんも捨てないでください。鉄やホーローのやかんは直火にかけられます。電気ポットは停電するとただの置き物です。
バケツは大きいほど得とは限りません。水は1リットルで1キログラム。10リットルのバケツを満杯にすると10キロを持って歩くことになります。大きいもの1つより、中くらいのものを2つ用意し、両手に持つほうが体がまっすぐになり運びやすくなります。蓋がない場合は、大きめの袋を被せて口を縛るだけでも水の跳ねを減らせます。お風呂の残り湯を抜かずに置いておく習慣も、トイレ数回分の水になります。小さい子どものいる家庭では安全を優先して判断してください。
飲む分だけなら1人1日3リットルといわれますが、手洗いや食器洗い、トイレまで含めるとその何倍にもなります。ペットボトルの水を何箱積んでも、トイレの1日分にもならないこともあります。本当に必要なのは、水を溜めるものと水を減らす工夫です。
ラップ・ポリ袋・新聞紙は水を減らす道具
この3つは片づけの本で「減らすもの」とされやすい組みです。しかし断水の日には、水の使用量を減らすために役立ちます。
- ラップ:皿に敷いてから食べ物を乗せれば、食べ終わったらラップだけ捨てて皿を洗わずに済みます。体に巻けば保温になり、けがをした部分を一時的に覆うこともできます。
- ポリ袋:水を運べます。汚れ物を分けられます。バケツに敷けばバケツ自体が汚れません。
- 新聞紙:丸めて服の内側に入れると暖かくなります。敷物の冷たさを和らげ、濡れた靴に詰めれば乾きます。食器に使えば油が拭き取れ、燃やせば火種になります。
新聞を取るのをやめた家庭も多いと思います。無理に購読を再開する必要はありませんが、たまに入る折り込みやチラシを全部すぐに捨てず、押入れの隅に少し積んでおくだけでも違います。
水が戻るまでにかかる長さを知っておく
令和6年元日に発生した地震の後の記録では、9割の家に水道が戻るまでおよそ11週間かかったとされています。平成23年と28年の地震では、同じく9割が戻るまでおよそ3週間でした。今回はその3倍以上です。地域全体が断水した市や町もあり、同年8月20日の時点でも水が戻っていない家が残っていました。断水は数日の話ではありません。
避難所のトイレに関する記録では、仮設トイレが3日以内に届いたところは1割で、4日から7日かかったところが半分、8日以上かかったところも4割ありました。その間、調べた避難所の9割が袋式の携帯トイレを使っていました。水が止まってから仮設トイレが来るまでの間、トイレは家にある袋と紙と吸わせるものの組み合わせになります。
手を洗う水も同じです。給水車の水が半分近くで、あとは消毒用アルコールと濡れた紙でした。蛇口からそのまま使える水はごく一部でした。これらを合わせると、水が止まった街では最初の1週間を家にあるものだけで持ちこたえることになります。そのとき家に何があるかは、前の年に何を捨てたかで決まります。
備えは専用の袋より、普段使うものの中に
防災というと、専用の袋を買って玄関に置いておくことだと思いがちです。買って置いたものの、3年ほど一度も開けず、開けたら中の電池が湿気でだめになり、水の期限も切れていた、ということもあります。買ったものは点検を忘れます。使っているものは忘れません。
そこで、専用のものを増やすのではなく、普段使っているもののうち電気がなくても動くものを残しておく、という考え方があります。すべての家庭に同じ方法が合うわけではありませんが、片づけの物差しに「停電・断水の日にも使えるか」を一つ加えると、捨てるか残すかの判断が少し変わります。
水を貯めるもの、水を減らす工夫、火を使える道具。どれも特別な防災用品ではなく、家のどこかにすでにあるものです。片づけの日に「古いから」「使っていないから」とだけ決める前に、停電と断水の日を一度思い浮かべてみてください。