自分を後回しにするのをやめると何が変わる?「わがまま」ではない自分優先の心理学
心理学

自分を後回しにするのをやめると何が変わる?「わがまま」ではない自分優先の心理学

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「自分を優先する」は、わがままとは限らない

「自分を大切にする」と聞くと、どこかわがままな響きを感じる人がいます。周りに合わせてばかりの毎日を送ってきた人ほど、自分を後回しにすることに慣れていて、急に優先しようとすると罪悪感が湧くかもしれません。

しかし、自分を優先するというのは、周りをないがしろにすることではありません。選択の場面で、自分の気持ちや体の状態を判断材料に含めるということです。心理学で紹介される研究には、それが選んだ道への納得、体調の維持、人間関係の調整につながる可能性を示すものがあります。ただし、誰にでも同じように当てはまるわけではなく、置かれた状況による限界もあります。

1. 選んだ道に納得できるようになる

たとえば、クローゼットの奥に、一度も袖を通していない服はないでしょうか。店員や友人に「こちらの色の方が似合いますよ」と勧められ、本当は別の色が気になっていたのに、そのまま買ってしまった服です。家に帰って鏡の前に立つと、何かが違う。結局いつも手に取るのは、自分で選んだ服ばかりだった、という場面です。

服だけでなく、習い事、旅行の行き先、部屋の模様替えでも同じことが起きます。周りの意見を優先して決めたことほど、後から「これでよかったのか」という引っかかりが残りやすいのです。

心理学の分野では、自分の価値観や気持ちから出た目標は、そうでない目標より長く取り組まれ、達成されやすいという研究が知られています。反対に、人に言われたから、やらないと気まずいからという理由で立てた目標は、苦しくなったときに踏ん張る理由が自分の中に見つかりにくくなります。

だからといって、周囲の声を無視するわけではありません。人の意見と自分の希望を同じ机の上に並べて比べる。迷ったときは「誰にも理由を説明しなくていいとしたら、どちらを選ぶか」と自分に問いかけてみる。その小さな間が、納得して歩き通せる道につながります。

もちろん、仕事や家族の事情で自由に選べない場面もあります。すべてを自己決定にしようとすると、かえって苦しくなります。

2. 体のサインを責めずに扱えるようになる

朝、目が覚めた瞬間から肩が重い。夜は布団に入っても寝つけず、何度も時計を見てしまう。病院に行くほどではないと、市販の薬でやり過ごしている。そんな思い当たりがある人は少なくありません。

真面目な人ほど、疲れを感じても「まだ頑張れる」「ここで休んだら負けだ」と自分を励まし、体を動かし続けます。ところが、その励ましが知らないうちに体を追い詰めていることがあります。

自分に厳しすぎる人は、不調に気づいても、それを自分の弱さのせいにしてしまいがちです。弱さを認めたくないから、休むことも、人に相談することも後回しになります。一方、自分に思いやりを向けられる人は、「疲れたのだから休もう」と素直に受け止められます。不調を責める相手ではなく、手当てする相手として、体を見られるのです。

心理学では、自分への思いやりを「セルフコンパッション」と呼ぶことがあります。複数の調査をまとめた分析では、自分への思いやりが強い人ほど、睡眠、運動、食事、ストレス対処といった健康のための行動を多くとる傾向が報告されています。研究が示すのは集団的な傾向であり、個人の性格や体調を決めつけるものではありません。

体は限界を迎える前に、小さな合図を出しています。

  • いつもより階段がきつい
  • 好きなテレビ番組に集中できない
  • 甘いものが無性に欲しくなる

そうした合図に早めに気づいて手を打てば、寝込むほど崩れる前に、体力も気力も取り戻せます。おすすめは、1週間の予定を立てるときに、用事より先に「何もしない時間」を書き込むことです。休みが空いたら取るものから、最初から確保しておくものに変えてみてください。

ただし、セルフケアは医療の代わりではありません。不調が続くとき、日常生活が難しいときは、自己流で我慢せず、医療機関や相談先を利用してください。

3. 無理な付き合いが減る

電話が鳴り、画面に表示された名前を見て、小さくため息をつく。毎晩のようにかかってくる友人からの電話です。話はいつも同じ愚痴で、気づけば1時間を過ぎている。切り上げるきっかけも見つからず、電話を切る頃には夕食の支度がすっかり遅れている。今度の日曜の集まりにも誘われたけれど、本当は家でゆっくりしたい。断ったら嫌われる、付き合いが悪いと思われる。そう考えると、「はい」と答えてしまう。

人付き合いの疲れの多くは、こうした小さな我慢の積み重ねから生まれます。

誘いを断る場面を扱った実験では、断る側は、相手が怒る、がっかりする、もう誘ってもらえなくなると思いがちでした。しかし実際に断られた側は、断る側が想像したほど気にしておらず、次の誘いを控えようとする気持ちも、ずっと小さいものでした。人は断ることの重さを、実際より大きく見積もっているのです。

自分の気持ちを尊重できるようになると、嫌なことは断り、困っていることは伝えるという当たり前のことが、少しずつできるようになります。断るときに長い言い訳は要りません。「誘ってくれてありがとう。今回は遠慮するね」。それだけで気持ちは十分に伝わります。

助けを求めることも同じです。法事の準備やお土産選びを一人で抱え込むより、「手伝ってくれると助かる」と伝えてみる。相手は「言ってくれれば手伝ったのに」と思っていることが少なくありません。必要なことを素直に伝えるのは、相手を信頼しているという合図でもあります。

気持ちを伝えても関係が続く相手は、もともとあなたを大切に思っている人です。逆に、断るたびに不機嫌になる相手とは、距離を置く方がお互いのためになる場合もあります。

仕事の付き合いや介護など、簡単に断れない場面もあります。その場合は、断るかどうかだけでなく、時間や頻度を交渉する、別の日を提案するといった調整を考えてみてください。

4. 失敗から立ち直りやすくなる

自治会の会計を任され、初めての報告の日。読み上げた数字が領収書の合計と合わないと、他の役員から指摘される。計算違いでその場で直せる程度のことなのに、家に帰っても顔が熱く、布団に入ってからもその場面が何度も浮かんでくる。「どうしてあんな簡単な計算を間違えたのか」「やっぱり自分はダメな人間だ」と、一晩中自分を責めてしまう。

失敗そのものより、その後の自分への攻撃の方が、ずっと長く心を痛めます。

自分を責めない人は反省もしないと思われがちですが、研究では反対の結果が示されています。失敗を経験した参加者に、自分を思いやる言葉をかけた群、自信を持たせる言葉をかけた群、何も言わない群に分け、次の課題に取り組んでもらう実験では、自分を思いやる言葉をかけられた群が最も長く勉強したという結果がありました。

自分を責め続けると、失敗と向き合うこと自体が辛くなり、目をそらしたくなります。自分に優しくできれば、失敗を落ち着いて見つめ、次に何を変えればいいかに気持ちを向けられます。

自分への優しさがわからないときは、同じ失敗を親しい友人がしたら、自分は何と声をかけるかを考えてみてください。「誰にでもあることだよ。次から気をつければ大丈夫」。その言葉を、そのまま自分に向けるのです。

反省は行動を見直すこと、自分への攻撃は人格を傷つけること。この2つを分けられると、落ち込む時間が短くなり、その分を改善に回せます。紙に書き出すなら、「自分はダメだ」ではなく、「次は2回計算する」のように、変えられる手順を書きます。

落ち込みが長く続く、眠れない、日常生活に支障が出る場合は、一人で抱え込まず専門家に相談してください。

5. 挑戦が「価値の試験」ではなくなる

公民館の掲示板に、ウクレレ教室の生徒募集の張り紙がある。昔から一度楽器を弾いてみたかったけれど、この年になってから始めて上手になれるはずがない。他の人の足を引っ張ったら恥ずかしい。そう思って、張り紙の前を通り過ぎてしまう。

新しいことを前にして足がすくむのは、うまくできない自分を見たくないからです。上手にできなければ意味がない、恥をかくくらいなら最初からやらない方がいい。自分の価値を「できるかどうか」で測っていると、挑戦は自分の価値が下がるかどうかの試験になってしまいます。

子どもを対象にした実験では、能力を褒められた子は失敗を避けて簡単な課題を選び、努力を褒められた子は難しくても学びの多い課題を選ぶ傾向が示されました。大人にも似たことが起きます。結果だけでなく、そこから何を学べるかを見ると、挑戦の意味が変わります。

いきなり大きな挑戦をする必要はありません。1回だけの体験教室に参加する、初心者向けの講座を選ぶ、上手にできなくても続けられる範囲で始める。うまくできるかどうかではなく、やってみたいか、学べそうかで選んでみてください。

ただし、経済的な余裕や時間、体力には限りがあります。危険を伴うことや、生活を圧迫する挑戦を無理にする必要はありません。

自分の気持ちを、判断材料の一つにする

自分を優先するというのは、周りをないがしろにすることではありません。選ぶとき、休むとき、付き合うとき、失敗したとき。その場面で、自分の気持ちや体の状態を判断材料に含めることです。心理学の研究は、それが納得のいく選択や健康のための行動、人間関係の調整につながる可能性を示しています。ただし、効果の現れ方には個人差があり、置かれた環境によって難しい場面もあります。

まず試すなら、来週の予定に何もしない時間を1つ入れる。断る言葉を1つ決めておく。失敗したときに友人にかける言葉を、自分にも向けてみる。このどれか一つで十分です。やってみて罪悪感が強く残る、相手との関係が危うくなる、心身の不調が続くといった場合は、無理を続けず、信頼できる人や専門の相談先を頼ってください。

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