沈黙が怖いのは、相手の「話したい」を見落としているから
好きな人と二人きりになった途端、頭の中の話題が全部消えてしまう。そんな場面を想像してみてほしい。沈黙が来るたびに何か言わなければと焦り、結局天気の話をしてしまう。話が続かないのは自分に話題がないからだと思いがちだが、話が途切れない二人は、話題をたくさん持っているわけではない。会話が続くかどうかは、返し方で決まる。
たとえば、通勤電車での実験がある。知らない人に話しかける、誰とも話さない、いつも通り過ごす、の三つから一つを選んでもらうと、周囲の人は静かに過ごすのが一番快適だと予想した。ところが実際に話しかけた人の方が、通勤が楽しかったと答えた。話しかける前、人は周りの人の半分も話したがっていないと思い込んでいたが、迷惑だと思っていたのは話しかける側だけだった。
自分の「話したい」は分かるのに、相手の「話したい」は見えにくい。沈黙が来ても、相手が退屈していると決めつけず、自分から短い一言を出してみる。LINEで止まったままの会話も同じだ。ただし、イヤホンをしている人や急いでいる人には、そっとしておくのも気遣いになる。
「どう思う?」は、相手に話す理由を渡す
何か聞いたら頼りないと思われそうで、分かったふりをしてしまうことがある。しかし、2015年の研究では、課題に取り組むとき「どうしたらいいと思う?」とアドバイスを求めた相手の方が、むしろ有能で頼れる人だと見られていた。難しい課題ほど、そして直接相談されたときほど、その印象は強まった。
相談されると、人は自分の考えを大事にしてくれていると感じる。その嬉しさが、相手への印象まで明るくする。だから、話題に困ったら「どっちがいいと思う?」と聞いてみる。お店選びでも本選びでもいい。LINEで「これどう思う?」と写真を一枚送るだけでも、相手には話す理由ができる。ただし、調べればすぐ分かることばかり聞くと、聞く意味は小さくなる。
自分の話をしてもらうことは、相手へのご褒美になる
2012年の研究では、脳の働きを画像で見ながら、自分のことを話す時と他人のことを話す時を比べた。自分のことを話している時、食べ物やお金のようなご褒美で働く場所が働いていた。別の実験では、もらえるお金が少し減っても、自分のことを話す方を選ぶ人が多かった。人は、自分の話をすると気持ちが良くなり、その気持ちよさを目の前の相手と結びつけて覚える。
だから、話が途切れない人は、相手が話しやすい問いを渡す。「最近何にはまっているの?」のように。SNSでも、感想を伝えるより「それどうやって見つけたの?」と聞く方が、長い返事が返ってくることがある。ただし、話させるだけで聞き流すのは違う。気持ちよく話せるのは、ちゃんと聞いてもらえている時だけだ。楽しかったと言われた日、自分はほとんど話していなかったかもしれない。
ありふれた話題も、好奇心でその人だけの話になる
2011年の研究では、初対面の大学生同士に話してもらった。好奇心の強い人は、世間話の組でも深い話の組と同じように相手を近く感じた。好奇心の弱い人が近さを感じたのは、深い話の組だけだった。相手の見た目の好みやその日の気分を差し引いても、この結果は残った。
退屈な話題が退屈な時間になるとは限らない。決めていたのは話題より、聞く側の心だった。好奇心のある人は、ありふれた答えの中にも思いがけない楽しさを見つける。相手の答えを知っている話にせず、初めて聞く話として面白がる。LINEの「普通だよ」にも、その人なりの「普通」がある。ただし、好奇心は問い詰めることとは違う。話したくなさそうなところは、そっと通り過ぎる。
言葉の調子と返事の間が、気持ちを伝えている
仲のいい人と話していると、いつの間にか口癖が移っていることがある。2011年の研究では、短いデートの会話を書き起こし、二人の言葉の使い方がどれくらい似ているかを調べた。小さなつなぎの言葉の使い方が似ている二人ほど、お互いにまた会いたいと答えていた。チャットの調査では、言葉の使い方が似ているカップルほど、3ヶ月後も付き合い続けていた。
話の中身ではなく、小さな言葉の使い方で恋の行方が見えていた。相手の話に注意を向けていると、言葉の調子は自然に合っていく。揃っているのは聞いている証拠だ。相手が砕けた言い方をしたら、着飾らずに同じ温度で返す。LINEなら相手の文の長さや絵文字の量に少しだけ寄せてみる。ただし、わざと真似をするのは違う。
返事の間も、気持ちを伝える。アメリカ、イタリア、日本の3カ国で行われた研究では、友達同士の電話の会話で、お願いや「これいいよね」の後の返事までの沈黙を0秒、0.6秒、1.2秒に変えた。どの国でも沈黙が長くなるほど、返事をした人は乗り気ではないと受け取られていた。1秒ほどのわずかな間でも差が出た。返事の中身は同じなのに、間だけで気持ちが読まれていた。
嬉しい誘いには、考える前に行きたいと返す。細かいことはその後で決めればいい。ただし、LINEの返信の速さとは別だ。この研究が見たのは声の会話の中の1秒ほどの間のこと。考えてから話す人もいる。一度の間だけで決めつけない。話が途切れない二人は、うまく返す二人ではなく、乗り気の時に乗り気が伝わる速さで返す二人なのだ。
沈黙を埋めるために話題を探すより、相手の「話したい」を信じて、短い問いを渡す。会話が続くかどうかは、話のうまさではなく、相手の答えを聞きたがる態度と、聞いていることが伝わる返し方で決まる。すべての沈黙を埋める必要はない。相手が話したくなさそうな時は、そっと隣にいるのも会話の一部だ。