芥川賞作家・又吉直樹氏が、自身の20代から30代にかけての心境の変化を語った。若い頃は「批判的な視点を持つこと」が知的で格好良く見えたが、次第に「楽しもうとする姿勢」の方が自分にも周りにも心地よいことに気づいたという。年齢を重ねるごとに変わる、ものごととの向き合い方についての考察である。
20代――批判することが「本質を見抜いている」ように見えた頃
又吉氏は20代の頃を振り返り、こう語る。
「批判的な意見を言ってる人が行けてるように見えたりもしたんですよ」
売れているもの、若い女性が好むもの、流行りものに対して批判的であればあるほど、「流行に流されず本質が見えている人」のように映ったという。しかし、それは「バイアスがかかりすぎ」ていたと、今は認める。
30代半ば――「楽しもうとする」方が機嫌がいい
転機は30代半ば頃に訪れた。何を観ても、何に触れても、まずは「楽しもう」と思って向き合う方が、自分の機嫌も良くなり、周囲の空気も良くなると実感したのだ。
「基本的には何でも楽しもうと思って見てる方が本人の機嫌も良くなるし、周りも気持ちいいし、当たり前のこと」
もちろん「全部嫌やな」と思う日もある。だが、批判的でいる状態こそが「行けてる状態」ではない、という視点を持てるようになったことが大きい。
批判する時期があってもいい――ただし、いつまでもではない
又吉氏は、20代であれば「ある程度すべてを批判的に見る時期があっていい」と肯定する。それは成長の一過程として自然なことだという。しかし、30代になっても尚、同じ姿勢を貫いていると、「まだやってんのかな」と思われてしまう、とも漏らす。
この言葉には、年齢を重ねるごとに求められる「余白」や「寛容さ」への、静かな自覚が込められている。
批判する目を持つことは決して悪いことではない。だが、そこから一歩進み、「楽しもうとする目」を自ら選び取ること。その選択が、自分自身の機嫌を整え、周囲との関係を穏やかにする。又吉氏の言葉は、そんなささやかで確かな気づきを、読み手に静かに差し出している。