外国人の視点で日本の優れた点を紹介する「日本礼賛番組」が、2010年代以降、民放・NHKを問わず相次いで放送された。代表的な『世界が驚いたニッポン!スゴ~イデスネ!! 視察団』(テレビ朝日)、『ニッポンのぞき見太郎 あなたは何しに日本へ?』(テレビ東京)、『COOL JAPAN~発掘!かっこいいニッポン~』(NHK)などは、いずれも2010年前後から始まっている。番組ごとに演出や礼賛の度合いは異なるが、結果として「外国人が日本を褒める」構図で視聴者に安心感を与える点で共通する。なぜこの時期に一斉に増えたのか。テレビ業界の構造変化、出版・新聞との連動、そして日本社会全体の心理的需要という三つの側面から整理する。
テレビ業界の予算縮小とテレビ東京の「低コスト・高視聴率」戦略
直接的な契機の一つは、リーマン・ショック(2008年9月)以降の広告収益減少だ。主要民放の制作費は2009年に大幅に落ち込み、その後も回復しなかった。とりわけテレビ東京は、元々他局の半分以下の制作費で運営していたところにさらなる削減を迫られた。同局が『あなたは何しに日本へ?』(2013年開始)をはじめ、礼賛色の強い番組を相次いで立ち上げたのは、外国人取材中心でロケ費・出演料を抑えつつ、安定した視聴率が見込める「低コスト・高リターン」のコンテンツとして機能したためと推測される。
実際、2010年代前半に始まった主要な礼賛番組のうち半数以上がテレビ東京制作だ。他局が追随し始めた時期も、テレビ東京の成功例を受けてから遅れており、業界全体の予算制約が番組ラインナップの均質化を促した側面は無視できない。
NHK『COOL JAPAN』の先駆性とメディア横断的な循環
民放より先行していたのがNHKだ。記録作家・窪田順生氏の調査によれば、NHKの礼賛番組はバブル期の1980年代でもほぼゼロだったが、2003年以降増加し、『COOL JAPAN』放送の2006年から急増した。一時減少した後、民放と並んで2010年から再び本数を伸ばしている。NHKの試みが民放のフォーマット開発に参照された可能性は高い。
さらに窪田氏は、同時期に「日本礼賛的なタイトルの書籍」が出版市場で急増した点を指摘する。テレビ制作現場が流行本を企画の参考にし、番組放送で書籍売上が伸び、再びテレビがそのテーマを扱う――というメディア横断の正のフィードバック・ループが形成されたと分析している。
新聞報道と世論データが示す「自信回復への渇望」
朝日新聞の記事中で「世界一」という文言が使われた日本関連記事の推移を見ると、三つの山(1937年頃、1980年代末、2006年以降)が確認できる。最後の山が経済不況下の2006年以降に、好況期の1980年代を大きく上回って急増している点は注目に値する。純粋な成果(スポーツ世界一、特許数、スパコン性能など)だけでは説明しきれない「礼賛報道の過剰供給」があったことを示唆する。
背景にあるのは、日本人の対中・対自国意識の変化だ。NHK世論調査では、「日本人は他国民に比べ極めて優れた素質を持っている」との回答割合が2010年前後に急上昇し、1983年並みまで回復。「日本は一流国だ」との回答も同様に上昇した。純粋な自信ではなく、「自信を持ち直したい」という社会心理的需要がメディア各社に受け入れられやすい土壌を作ったと見られる。
ネット検索行動に表れた「外部承認への依存」
Googleトレンドで「海外の反応」という検索語の人気度を追うと、2011年から2014年にかけて急激に上昇している。検索結果の大半は日本を褒める内容だ。比較的外国人との直接的接点が少ない日本人にとって、外国人の称賛は貴重かつ関心を引く情報源となり、番組制作側もこの需要を的確に捉えた格好だ。
「謙虚さ」を失わない受容姿勢の必要性
日本礼賛番組は、自国の良さを再発見するきっかけとして一定の意義を持つ。しかし、外部評価への依存が強まりすぎると、信頼性の低い情報に基づく自尊心や、自国の課題を謙虚に直視できなくなるリスクも孕んでいる。ある識者が指摘するように、「外国人が『日本人は世界一謙虚だ』と称賛したなら、それこそ最高に誇らしいことではないか」という視点を持つこと――良い点も悪い点も分け隔てなく受け止める態度こそが、成熟したナショナリズムのあり方ではないだろうか。
番組増加の根底にある「需要の正体」を完全に解明するにはさらなる研究が必要だが、テレビ予算の制約、メディア間の相互参照、社会心理的渇望が重なり合って2010年代という特定の時期に集中したことは明らかだ。視聴者としても、番組を楽しみつつ、その構造的背景を冷静に理解しておくことが求められる。