夜9時半、テレビの前で手が伸びるのは、夕食の続きのような袋菓子だった。夕食は7時に終わっている。それでも、ここからがもう一つの食事の時間になる。缶ビールのつまみに寝る前のアイス。毎晩、夕食の後に何かを口にしていると、あるとき「夕方6時を過ぎたら何も食べない」と決めてみる人がいる。そのとき体に起こることは、夜の体の変化より、一日に食べる量の合計にまず現れる。
夜の分をやめたからといって、その分がそっくり減るわけではない。アメリカの若い男性29人を対象にした小規模な実験では、夜7時から翌朝6時まで食べない2週間と、普段通りの2週間を比べた。普段、夜7時以降に食べていた量は一日あたり約700kcalだったが、夜をやめた期間に一日の合計で減ったのは、その3分の1ほどだった。消えた夜の分の多くは、朝から夕方までの食事で知らないうちに取り返されていたことになる。
これは、夜の間食をやめることが無意味だということではない。一日の合計は確かに減っていた。ただ、夜だけを閉じても、昼の窓口に本が積み上がるように、別の時間の食欲が静かに増えることがある。このずれを意識できるかどうかで、続けたときに見える景色は変わる。
晩酌はこの決まりの抜け穴になる
「食べない」と決めても、飲むのは別だと思いがちだ。しかし、アルコールには飲んだ後のつまみに手を伸ばしやすくする面がある。22の実験、合わせて701人の結果をまとめた分析では、酒を飲んだときは飲まないときより食べ物が約80kcal多く、酒の分も合わせると一日約250kcal多くなっていた。酒の分を後の食事で減らして調整する動きも見られなかった。この結果は18歳から37歳ほどが中心で、50代以上では分かっていないが、少なくとも「飲むだけ」が飲むだけでは終わりにくいことは示している。
夕食と一緒に晩酌を済ませるか、飲むならそこで終わりにするか。6時以降に缶ビールだけを開けるつもりでも、袋菓子が隣に来やすい。晩酌は、この決まりの一番の抜け穴になりやすい。
胃が空いてから横になる意味
夕方6時に食べ終えれば、夜11時に寝るまで5時間ほどある。この間に胃の中身はかなり腸の方へ送られていく。反対に、寝る直前に食べると、物が残ったまま横になることになる。すると胃の内容物が食道の方へ上がりやすくなる。
大阪で夕食から就寝までの時間と逆流症の関係を調べた研究では、夕食から寝るまでが3時間未満の人は、4時間以上空ける人と比べて逆流症の目安が約7倍だった。これは習慣と病気の関係を見た観察研究で、原因と結果までは決められない。それでも、胸やけで眠りを邪魔されにくくなるという点は、夜を早く閉じる実感として出やすい変化だ。
食べる時間を一日10時間ほどに縮めた8人の小規模な報告では、16週間後に眠りの満足感が上がり、寝る前の空腹感はむしろ弱まったと答えている。ただし8人だけの結果で、本人の感じ方を聞いたものだ。
朝の食欲が戻ってくる
夜遅くまで食べる人ほど朝食を抜きやすい。40歳から74歳の日本人女性約2万人を調べた研究では、遅い夕食をとる人は朝食を抜く割合の目安が約2.5倍、寝る前に間食をする人でも約1.7倍だった。遅い夕食も寝る前の間食も、それぞれ太り気味であることと結びついていた。これは一度きりの調査で、どちらが先かは分からない。
それでも、夜の食事と朝の食事は一本の線でつながっている。夜のうちに消化が進んでいれば、朝は空の状態で目覚めやすく、朝食の入る余地ができる。夜を閉じることは、翌朝の食欲を戻すきっかけになりうる。
体重より先に、昼の取り返しが見える
若い男性たちの実験では、夜に食べない2週間で体重が0.4kg減り、普段通りの2週間では0.6kg増えた。差し引きで2週間に約1kgの差がついたことになる。ただし短期間の差にはお腹の中身や水分の違いも含まれる。
岡山の特定検診を受けた40〜54歳の約8000人を約4年追った研究では、夕食が就寝前の短い時間になる日と夕食後の間食が、それぞれ週3回以上ある男性は、どちらもない男性と比べて肥満になりやすさの目安が約2倍だった。中性脂肪などの数値とも関係が見られた。これも観察研究で、夜の習慣だけが原因とは言い切れない。
だから、体重の数字をすぐに約束するより、昼の間食が静かに増えていないかを見る方が先かもしれない。夕方6時以降をやめて2週間が経った頃、午後3時のおやつが以前より一枚二枚と増えていた、というのは決まりを守っていても起こりうるずれだ。
6時という数字より、二つの線
夕方6時に家にいられない人にとって、時刻の数字は続ける障壁になる。だが、研究を見直すと大事な線は二本ある。一本目は、夕食の後に「もう一度何かを食べる時間」を作らないこと。二本目は、最後に食べてから寝るまで3時間は空けることだ。
夜9時に夕食を終えるなら、それを一日の最後の一口にして、つまみや夜食を足さない。寝るのが夜12時なら、それでちょうど3時間が空く。夕方6時という決まりは、この二本の線をいちばん分かりやすい形にしたものと言える。
ただし、血糖値を下げる薬やインスリンを使っている人は自己判断で始めず、主治医と相談する必要がある。胸やけが何週間も続く人は、食べる時刻だけで様子を見ずに一度診察を受けたほうがいい。食が細くなってきた高齢の人は、量を減らすことが目的にならないようにしたい。体重が勝手に落ちていくなら、決まりより食べることを優先する。
夜の間食をやめた先には、朝の空腹感や昼の取り返しといった、日中の食欲の変化が現れる。夜だけを閉じたつもりでも、体は別の時間に埋め合わせをすることがある。だから、数字の減少を急ぐより、一日のどこで食べたくなるかを見直すことが、この決まりの続け方になるのだと思う。