共働きでも男性の年収が問われる構造的理由とは
キャリア・働き方

共働きでも男性の年収が問われる構造的理由とは

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「二人で働く」の合意と「最後は自分が支える」現実のズレ

婚活の場で「結婚後も仕事は続けたい」と伝えると、相手はまず安心する。しかし話が年収に及ぶと空気が変わる。「もし私が働けなくなったら、大丈夫ですか?」──この問いに言葉に詰まる瞬間、多くの男性が直面するのは「共働きのはずが、経済的セーフティネットは自分一人の肩にかかっている」という構造的な非対称性だ。

もちろん生活にはお金が必要だし、相手の収入を知りたいのは自然なことだ。だが「二人で働く」と言いながら、病気や転職、出産・育児で片方の収入が減ったときのリスクを誰がどう負担するかが決まっていないなら、話の核心が一つ抜け落ちている。この記事では、なぜ共働き前提でも男性の経済力が重く見られるのかを、家計と職場の両面から解剖し、結婚前に確認すべき分担の設計図を提示する。

数字が示す「経済力への期待」の男女差

国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」(18〜34歳の結婚意思あり未婚者)によると、「相手の収入などの経済力を重視する・考慮する」と答えた女性は91.6%、男性は48.2%だった。この約43ポイントの開きは、「自分も働くつもりだが、相手には安定した経済力を求める」という女性側の心理を裏付ける。

ただし、この数字を「9割の女性が高年収男性しか選ばない」と読み替えるのは早計だ。「重視する」36.3%と「考慮する」55.3%には、絶対条件にするか判断材料の一つにするかの温度差がある。また、この集計は共働き希望女性だけを抽出したものでもない。確認できるのは「経済力への期待の厚さ」という傾向であり、目の前の相手がどこまで求めているかは対話で確かめるしかない。

「共働き」という言葉の中身が違う

「共働き」と一口に言っても、その実態は多様だ。男女共同参画白書でも妻の収入額によって世帯類型を分けている通り、二人ともフルタイムか、片方が短時間か、収入配分は半々か偏りがあるかで、家計に入る金額も家で使える時間も大きく異なる。

離婚経験者の調査では「仕事と子育てを両立する生き方」が女性の理想でも男性が相手に望む形でも最多だったが、「仕事を続けたい」という希望と「二人の収入が同程度に続く」という見通しは別問題だ。例えばあなたは収入も家事も半分ずつと考え、相手は子どもが小さい間は勤務を短くすると考えている。どちらも「共働きがいい」と言えるのに、生活設計は噛み合っていない。言葉での合意と、生活の設計図がズレているのだ。

さらに「今の給料で暮らせるか」と「将来どちらかの給料が減っても暮らせるか」が混同されやすい。働き方、生活費の分け方、収入が減ったときの支え方──この3つを分けると、年収の話で何確かめようとしているのかが見えてくる。

仕事を続けても収入は守られない──職場の評価メカニズム

なぜ将来の収入が不安になるのか。子どもを持つ二人を想定し、国内大手製造業の人事データを用いた研究(注:特定企業の縦断データから差の生まれる経路を分析したもの)を見てみよう。

この企業では、出産後の所得差は当初、労働時間に関わる給与(残業手当など)の違いによって大きく説明された。働く時間が短くなれば受け取る額に差がつく。しかし時間が経つと、職責に関わる給与(役職手当・ベースアップ等)の差が重要になり、出産から15年時点ではこちらが中心になっていた。研究は「短くなった労働時間が低い人事評価につながり、その先の昇進機会を狭める経路」を示している。

子どもが大きくなって働ける時間が増えても、それまでの昇進の遅れがすぐ埋まるとは限らない。今日の勤務時間だけ見ていては収入差は説明しきれない。「仕事をやめないで済むこと」は大切だが、それだけで二人の将来の収入まで守られるわけではない。家庭での調整と会社での評価が連動しているからだ。

子どもの迎えが必要になったとき、どちらが仕事を切り上げるか。出張を頼まれたとき、もう一人の勤務はどう動かすか。調整が一人に集中すれば、その人の仕事にしわ寄せが出る。二人とも仕事は続けていても、同じ条件で続けられるとは限らない。相手の収入が減る可能性を考えると「自分の収入だけは減らせない」と感じる男性もいるだろう。今度は自分が転職や働き方変更を選びにくくなる。家庭での調整と家計を支える責任──この二つは別の負担だが、同じ生活の中で結びついている。どちらを引き受けるかを性別だけで決めないことが重要になる。

将来の不安が今の年収条件に向かう心理メカニズム

ここからは統計と研究を接続して考える。女性の経済力への期待が全て出産への不安から生まれたと直接証明されたわけではないが、一つの説明経路として整理できる。

二人の収入を合わせれば今の生活費は払える。けれど片方の収入が減ったらどうなるか。家賃も食費もその分だけ自動で下がるわけではない。そこで「片方の収入に余裕があるか」を見たくなる。今いくら稼いでいるかという質問の中に、「将来の不足を埋められるか」という質問が入り込む。共働きなのに経済力を求めることは、この意味では必ずしも矛盾しない。

ただし不足を誰がどこまで引き受けるかはまだ決まっていない。従来の「男性が主な稼ぎ手」という期待(社会的規範)が残るところに、将来の収入への不安(損失回避バイアスの働き)が重なる。その不足を男性が埋める前提なら、結婚相手に求める年収も高くなりやすい。この見方なら「自分も働くつもりだが相手には安定した経済力が欲しい」という希望が同時に現れる理由が理解できる。

もちろん求める生活水準や育った家庭の考え方もある。理由は一つではない。今回の資料から一人ひとりの回答の動機まで決められない。だから相手の年収条件を見ただけで「欲張りだ」とも「合理的だ」とも決めつけない。「何に備える条件なのか」を聞く余地がある。ここは男性側からもはっきり言っていい。「不安に理由があること」と「その不安を自分一人で引き受ける義務があること」は同じではない。

年収の話を「分担の話」へ進める3つのステップ

では次に何を話せばいいのか。条件の数字から生活の設計へ進める3つの視点を整理する。

1. 普段の生活の分担設計

  • 結婚後も今の働き方を続けたいか
  • 生活費は同額ずつか、収入に応じて分けるか
  • 家事・育児の時間配分:お金を半分ずつ出すことだけで、家で使う時間まで平等になるわけではない
  • 出勤・通勤・残業も含め、二人の1週間を並べてみる

大切なのは「半分」という数字に必ず揃えることではなく、その分け方で二人とも生活と仕事を続けられるかだ。「共働きでいいね」を「どちらが何を引き受けるか」という言葉にする。それだけで同じつもりだった部分の違いが見えやすくなる。

2. 働き方が変わる時のシミュレーション

  • 子どもを望むなら出産後にどんな勤務を考えているか
  • 介護が必要になったときどう調整するか
  • どちらかが仕事を減らすことを、話す前から決定事項にしない
  • 使える休業・外部支援・会社で調整できることも一緒に確かめる
  • そのうえで収入が減る時期の生活費と貯蓄をどうするか、いつ見直すか
  • 片方の我慢が期限のない役割にならないようにする

3. 自分の収入が減る時のセーフティネット

  • 「もし自分が病気で働けなくなったらどうすると思う?」──男性側からもこの話をしていい
  • これは相手を試して落とす質問ではない。二人の生活を、二人とも不調になる可能性がある人間同士で作るための質問だ
  • 答えがすぐ出なくてもいい。一緒に考えてくれるか? 相手の不安だけでなく自分の不安にも場所があるか?
  • その話し合いの姿勢は年収欄からは見えない

相手が支えてほしい時も、自分が支えてほしい時も、二人の問題として扱えるか。そこで初めて「共働き」という言葉に支え合う中身が入る。

個人の対話と制度設計、両方があって初めて

ただし、二人だけの話し合いで職場の仕組みまで変わるわけではない。勤務を調整すると仕事の成果まで低く見られるなら、どちらかが家庭を担うたびに負担が残る。人事データの研究は、昇進の仕組みを見直すことが男女の所得差だけでなく人材の生かし方にも関わると論じている。「男性にもっと稼ぐ努力だけを求める前に、二人が仕事を続けられる条件があるか」も解きたい。これは結婚前の当人だけでは動かしきれない部分だ。個人が話し合うこと、企業や制度が支えること、その両方があって初めて「二人で働く」という希望が続けられる生活に近づく。

結論:年収は「人柄の点数」ではなく「暮らしを考える情報」

共働きなのになぜ男は養えるかで選ばれるのか。経済力への期待には男女差がある。そして二人の収入が将来も同じように続くとは限らない。その不安が男性への稼ぎ期待を残す一つの背景になると考えられる。けれどそれは男性が全ての不安を引き受けるべきだという結論にはならない。

あなたの年収は暮らしを考えるための情報だ。あなたの人柄や愛される価値の点数ではない。相手の条件を聞いたら「自分が足りない」と結論づける前に、二人でどんな暮らしを作ろうとしているかを聞いてみる。相性は条件の先の会話にも現れる。二人で働くなら、苦しい時の支え方も二人で決める。

明日からできるアクション

  • 「共働き」の定義を言語化する: 収入配分・家事時間・勤務形態の希望をそれぞれ書き出し、すり合わせの場を設ける
  • 「もしも」のシナリオを3つ用意する: 出産・育児、介護、病気・失業──それぞれで「誰が何を調整し、収入減をどう補うか」を仮説として話し合う
  • 年収提示の際に「この額で何を守りたいか」を添える: 条件提示の背景にある不安や希望を言語化し、相手の条件も同様に聞く
  • 職場制度の確認を二人で行う: 育休・時短・テレワーク・介護休暇など、各自の職場で使える制度をリスト化し、活用イメージを共有する
  • 定期見直しのタイミングを決める: 半年に一度、生活費・貯蓄・働き方のバランスを確認するカレンダーを共有する

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