たとえば、長年連れ添った相手が、職場の同僚や昔からの友人と楽しそうに話しているのを見たとする。特別な場面ではないのに、ふと胸の奥がざわつくのは、その相手が毎日顔を合わせる人だからかもしれない。浮気というと旅先での出会いや偶然の関係を思い浮かべがちだが、実際に多いのは、もっと身近で静かなつながりだ。
アメリカの全国調査では、結婚したことのある人のうち、配偶者以外と関係を持ったことがある人は2016年時点で16%余り、およそ6人に1人だった。この1年に限れば100人に3人ほど。そして相手を尋ねると、最も多かったのは親しい友人で半分以上、次いで近所の人や職場の人、昔からの知り合いが3割ほどだった。見知らぬ誰かではなく、もともとそばにいた人が8割以上を占めていた。
浮気は「性格」だけでも「不満」だけでもない
浮気の理由を若い成人に尋ねた調査では、相手への怒りや仕返し、体の関係への不満、愛情が分からなくなった、という関係の不満に加えて、酒やストレスでその場の勢い、自分をよく見せたい、いろいろな相手が欲しい、といった理由も並んでいた。関係が壊れているから起きるとは限らない。
さらに、今の相手との関係の幸せと浮気の結びつきを調べると、女性では関係の幸せが低い人ほど浮気をしていたが、男性では関係の幸せとは結びつかず、性的な興奮のしやすさなど別の傾向が関係していた。それでも、こうした要素をすべて合わせて説明できたのは2割ほどだった。関係に満足していると答えた人の中にも、浮気をしたことのある人はいた。
環境が「機会」を広げる
浮気が増えるのは、本人の収入や働き方とも関係していた。家の外で過ごす時間が長いほど、出会う機会も増える。また、2人を共通に知る友人や親戚とのつながりが弱い人ほど浮気が多かった。周囲の目が届きにくいことが、一線を越えやすくするのかもしれない。
ベルギーの古い教会に残る洗礼記録を何百年もさかのぼると、父親が違う子の割合は1世代あたり100人に1〜2人ほどだった。ところが19世紀末の込み合った町で暮らしの苦しい家族では17人に1人に上がっていた。同じ人間でも、置かれた場所によって10倍以上の開きがあった。性格だけの問題ではないことが分かる。
立場も関係する。オランダの調査では、力のある立場の人ほど浮気をしていた。男女とも同じ傾向で、惹かれていたのは相手の多さではなく「秘密」のほうだった。機会と、周囲に知られない余地が重なると、浮気は起こりやすくなる。
男女の違いは「するかどうか」より「何が痛いか」
浮気をするかどうかの男女差は、関心や機会、周囲とのつながりの弱さを揃えると大きく縮むか消える。アメリカの全国調査でも、18〜29歳では女性11%、男性10%とほぼ並んでいた。一方、浮気をされたときの痛み方には違いがあった。日本の大学生に尋ねた調査では、体の関係のほうが辛いと答えた男性は38%、女性は13%。日本の男性も6割は心のつながりのほうが辛いと答えていた。
この違いには、進化から考えた説がある。母親は自分の子だと分かるが、父親は確かめられないため、男性は体の浮気に、女性は相手の心や支えがよそへ移ることに強く反応するようになった、というものだ。ただし、これは一つの説明であり、すべての人に当てはまるわけではない。実際、日本の男性の多くは心のつながりを選んでいた。
それでも、説明しきれないもの
一度浮気をした人が必ず繰り返すわけではない。2つの恋愛を追いかけた調査では、1つ目の恋愛で浮気をした人は2つ目でも45%が浮気をしたが、しなかった人のほうが多かった。遺伝の影響を調べた研究でも、遺伝で決まるわけではないとされている。人の恋と性には、欲求、恋、愛着という別々の仕組みがあるという説もあり、一つの理由に還元するのは難しい。
浮気を「特別な人だけの逸脱」と決めつけるより、身近な相手、外で過ごす時間、周囲の目、関係の満足と不満、その場の勢いといった条件が重なる現象として見ると、見え方が変わる。許せないという気持ちはあっていい。それでも、なぜ起きるのかを性格や愛情の有無だけで片づけないほうが、現実に近いのかもしれない。